第1話 星に願いを

その夜はキレイな満月だった。

部屋から夜空を見上げていた利斗。


「なんで、オレはチビで年下なんだよ…」

利斗がボソっとつぶやく。


—奈央に釣り合うような大人の男になりたい…


キラリ。その瞬間星が落ちた。


「あ、流れ星!今の願い届いたかな…。

そんなこと…ホントにあればいいのに…」

利斗は奈央を想い、眠りについた。




翌朝

「利斗ー!起きなさーい!」

母が呼んでる。


眠たい目をこすり鏡を見た利斗。いつもと変わらない姿が映る。

昨日のことは気にしてなかった。本当に願いが叶うなんて思ってもいなかったからだ。



「行ってきまーす」

いつもと変わらない日常。


「利斗ー!おはよー!」

相変わらずかわいい奈央。


—今は見上げるしかできないけど、奈央を上から見おろせる時が来るのかな…。

身長…伸びるよな。たぶん…汗



「おはよ。いつも元気で羨ましいよ。きっと頭の中はお花畑だろう」

奈央のちょっとスネた顔が見たいから意地悪を言う。


「なんで、そう意地悪言うかなぁー!私から明るさ取ったら何が残んのよー!利斗は少しクール過ぎなんだよ!分けてあげたいくらいだわ」

プクッと口を膨らませて、横目で見て来る。


—この顔がかわいくてしょうがないんだよなぁ…。


「利斗くんおはよう」

後ろから声をかけてきたのは同じクラスの桜井 美穂 。

「あー、おはよ」

一応笑顔を見せる。


「利斗くん学校まで一緒に行かない?」

甘えた声で利斗のとなりに来る。


—めんどくせー。こういうぶりっ子系苦手なんだよなぁ。


「利斗ー!彼女ー??まったく隅に置けないねえ。中1男子!あ、私近所に住んでる姉的な存在なんでお構いなくー!

じゃ、またねー!」

走って行く後ろ姿を今日も見送る。


「私…彼女に間違えられちゃった…。利斗くん迷惑だよね…?でも、否定もしなかったね…」

なんか、こいつすげー照れてるけど、オレはそんなことより『姉的な存在』って言葉が耳に残って仕方がなかった。


「利斗くん?」


「あ、ごめん…考え事してた。遅刻するから行こう」

オレ的には同年代の子供には興味ねぇけど、オレの完璧なイメージが崩れるのもイヤだから、周りの女子には笑顔を見せてる。

だけど、オレは奈央だけだ!高校で奈央が何してるのか気になって仕方がない!!笑顔なんか振りまいてる場合じゃないんだよ!




• ・ ・ ・ ・ ・


「おはよー!奈央!どーした。珍しく浮かない顔して!」


「いや、弟に彼女が出来て姉として寂しいだけよ。どんどん大人になっていく!あのかわいかった利斗が…!」


「おいおい、あんた弟いないだろ!近所の子を勝手に弟にするなよ!」

呆れた顔をしてるこの子は私の親友、立川 蘭子。中学からずっと友達。


「あ、高野先輩だ!今日もイケメン♡」


「立ち直り早っ。あんた、男選び下手なんだから今度こそちゃんと見極めなさいよ。中学でも、この前の八木先輩だって二股。2番手止まりはもうたくさんでしょ!」


「高野先輩はたしかにモテるし、狙ってる女子はたくさんいるけど、二股とかするようなタイプじゃないよ!優しいんだよ…とっても…」

「恋する乙女顔するな!その顔すると、また男子が…」


やらしい目つきで見て来るから!と言いたかったが遅かった…。


「奈央ちゃんかわいい♡」

「2番手なんてもったいないことするよなー。俺ならいくらでも1番にするのに」


目をハートにしてる男子がうようよ。


そう。奈央はモテるのだ。本人にあまり自覚はない!特に恋してるオーラ全開の時の奈央の雰囲気は女の私から見てもエロい!!

だから、本命の彼女がいても告ってくるバカがいるんだよ!

でも、奈央は素直で一直線だから、好きな〈先輩〉以外は目に入らなくなる。そこが困ったところなんだよねー。





• ・ ・ ・ ・ ・


—奈央、今なにしてんのかな…。

あの先輩とやらと、いい感じになる前になんとかしたい!でも、何もできない!くそっ。



「ねー、美穂!今日利斗くんと一緒に来なかった?付き合えたの?」

「一緒にいた人に彼女?って聞かれてたけど、利斗くん否定しなかったの!もしかしてらイケるかな…?」

「えー!マジ?それイケるんじゃない?狙ってる女子多いから早めに告っちゃいなよー!先輩でも狙ってる人いるみたいだよ」

「利斗くん頭いいし、スポーツもできるし、おまけに顔も性格もいいなんて完璧だよね。身長が小さいところだけが気になるところだけど…」

女子たちが恋バナで盛り上がってるが、利斗には聞こえちゃいない。

奈央の事で頭がいっぱいだからだ。




—あぁ、マジで早く身長伸びねーかなぁ。奈央に上目使いで見られたい…。先輩ってどんな感じのヤツなんだろ…。気になるー!

あ、そうだ。


なにかを思いついた利斗。




放課後、奈央の高校に来ていた。

奈央は地元の高校に行っているので、実際すぐ行けた。校門前や校舎裏をうろうろしてみる。


—なんで、今まで気がつかなかったんだ!見つけて邪魔してやればよかったんだ!

あ、早くも奈央発見!

ん?なんか、告られてる雰囲気?や、やばい!!



「田町さん…僕…ずっと前からあなたの事が…好きでしたー!付き合ってください!」


—あぁ、奈央の顔真っ赤だ…。涙

あいつが先輩なのか…?


「ごめんなさい!!私…好きな人がいるので、ホントごめんなさい」


—ペコペコしてる。あ、振られた。よかったぁ!!でも、てことはあいつではないのか。


そして走り去っていく奈央。がっくり膝をついた男子。





しばらくして、奈央が蘭子と校門に現れた。

その前に歩く長身の爽やかイケメンが!


「高野先輩だ。ヤバイこんな近くにいるなんて…」

「声かけてみなよ!あいさつだけでもさ!ほら!」

コソコソ話す2人。



勇気を振り絞って奈央が叫ぶ。


「た、高野先輩!!!」


クルッと振り返り奈央達を見た。


「ん?あー君この前の2年3組の子!」

すごーく爽やかな笑顔で奈央を見た。


「あ、あのこの前は本当にありがとうございました。お礼がずっと言いたくて…」

顔を真っ赤にしている奈央。


「いーよ。あのくらいの事気にしないで。あ、そういえば名前聞いてなかったね」


「た、田町奈央といいます!」


「オレは高野 翔馬。じゃ、またね奈央ちゃん」

とびきりの笑顔で手を振る先輩。


ズッキューン!!目がハートの奈央。


遠くから見ていた利斗。


—あ、あいつだー!!なんだあの爽やかさ!そして、180㎝くらいあろう身長!!奈央が好きになるのもわかるが…。しかし!奈央を渡すわけにはいかない!もう小学生のオレじゃないんだ!あいつが、何者か確かめてやる!


ビューーーン!!!





蘭子の髪がなびく。

「ん?ねー奈央。今なんかものすごい速さで通り過ぎて行かなかった?」


まだハートが絡み付いてて取れていない奈央。

—聞いてねーし。しばらくダメだな…。







—あいつ、家帰んのか?あ、なんかオシャレなカフェに入っていった。女と待ち合わせか?

外から覗くが見当たらない。

すると、店の奥からウエイター姿の先輩が出てきた。


—バイトか…。あ、やべ目が合っちまった。


近づいてくる先輩。

「君、何してんの?…中入りづらいか?確かに女子多いからな。彼女とのデートの下見にでも来たの?うちの店連れてきたらイチコロだよ。ちょっと来てみて」

利斗を引っ張って奥の席に連れてきた。


「ここなら、誰にも見られないよ!ゆっくり下見してって」

爽やかな笑顔を見せ、仕事に戻る先輩。


顔を真っ赤にして、先輩の優しさを感じた利斗でした。

それと同時に敵わない相手かもしれないと、悔しい気持ちになるのでした。














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