とかげくん【松ぼっくり】
それはなかなかに手強い相手だったよ。ぼくは何回も失敗した。
松ぼっくりはゆらゆらと頼りが無くてちっとも登れないんだ。
だからぼくは作戦を変えた。押してダメなら引いてみろ、って言うもんね。
なるべく松ぼっくりを刺激しないようにそうっと張り付いて、少しずつ少しずつ這い上がったんだ。
これは上手くいったよ!
きっとぼくがちっちゃかったのが功を奏したよね。いっつも馬鹿にされてたけど、それが役に立ったんだからちびも悪くないね。
松ぼっくりの上に立ってみると、あのひとのしっぽの先が本当にすぐ近くでゆらゆらしてた。
すっっっごく! きれいだね!!
金みたいな銀みたいな柔らかな筋がさらりさらりと風に揺れて。その間からみずいろのうろこがゆらりゆらりと煌めいて。こうやって近くで見てみると、うろこの一枚一枚がまるで湖みたいにその表面を風に揺らしているんだよ。信じられない。なんてきれいなんだろう。
すいりゅうさんは、
あ。ぼくは、あのひとのことを「すいりゅうさん」って呼んでるんだ。名前がないと不便だよ。本当の名前を教えてもらいたいけど、ぼくのこえはすいりゅうさんに届かないから、今は仕方ないんだ。
そのためにも、あのしっぽを掴まえてぼくに気づいてもらわなきゃね。
すいりゅうさんは、とってもきれいなだけじゃないんだよ。きっと、すごく優しいんだ。
だってね。すいりゅうさんのうろこからも、たてがみからも、何かきらきらしたものが絶えず降り注いでいて、それはとっても温かいんだ。うんと優しくないと、こんなにすてきなきらきらは出せないよね。
さて。
ぼくはうんと背伸びをしたよ。きっと、あのひとのしっぽに届くはず!
…………。
……。
あ。あれ?
うーーん。
えいっ!
わっ。うわあっ。
……。
いてててて。
おかしいなあ。きっと届くと思ったんだけど。もうちょっとだと思って飛び上がったら、バランスを崩して落っこちちゃった。
ぼくは地面に転がったまま松ぼっくりを見上げた。その先に揺らめいている金の筋も。
ぼくはぼくが思っているよりもちっちゃいのかな? もうちょっとが届かないよ。
でも、諦めないよ。
大好きなひとはすぐそこにいる。頑張ったらきっと届くはず。松ぼっくりにだって登れたんだからね。何回だって挑戦するよ。
ぼくはもう一度松ぼっくりに張り付いた。
きっとあなたに気づいてもらうから。
待っててね。すいりゅうさん。
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