とかげくん【おばさん】
家の扉を叩いたのは、予想通り真っ暗になってからだった。今までこんなに遅くまで遊んでいたことはない。
おばさん、心配してるかな? 怒ってるかな?
ああどうしよう。ちょっと怖いよう。
そう思いながらノックしたからその音はか細くて、もしかしたらおばさんには聞こえないんじゃないかと思った。
だけど扉はすぐに開いて、家のなかから温かい光が
「ただいま」
ぼくは小さい声で言った。おばさんは、やっぱり怒ってた。
「いったいどこに行っていたの? こんなに遅くまで帰らなかったら心配するでしょう」
って。怖い声で怒られちゃった。
だけどね。
おばさんの目は困ったように優しく垂れていて。ぼくを抱き上げてぎゅうってしてくれた腕のなかはとても温かくて。
だからぼくには分かったよ。
おばさんが怒っているのは、ぼくのためなんだって。
きちんと手を洗って食卓に着くと、温かいご飯が用意されていた。メインはぼくの大好きなカラクレナイミズククリムシのソテーだよ。でも、その隣に大っきらいなスグリの実がたっぷり添えられている。
いつもだったら、上目遣いにおばさんを見つめながらそうっとお皿の
おばさんはびっくりしたようにぼくを見て、それから嬉しそうに頬を弛めた。
「ぼくは今日から好き嫌いせずに何でも食べるよ」
ぼくは宣言する。
ぼくはとても小さい。今まではそれでもいいやって思ってたけど、ぼくは大きくなりたくなった。
「いっぱい食べて大きくなるんだ」
「あらあら。急にどうしたの?」
おばさんは嬉しそうだ。おばさんが笑うとぼくも嬉しい。ぼくが笑うと、おばさんも嬉しそうな顔をする。
うん。あのね。
ぼくは今日のことをおばさんに話して聞かせた。きれいな龍に夢中なんだ、なんて言ったらおばさんはきっと心配するから、背伸びして触りたいのは松の枝だってことにしたけどね。
おばさんはとても心配性なんだ。
おばさんは頷きながらぼくの話を聞いてくれた。頑張りなさい、って言ってくれた。だけど今日みたいに遅くなるのはやめてね、って釘を刺されちゃった。
うん。もうしないよ。
だってね。ぼくを怒っているとき、おばさんは苦しそうだったよ。
おばさんが苦しいと、ぼくも苦しいんだ。
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