第07夜 私の未来が枝分かれする日!

告白します。


私、真白香澄ましろかすみは、夢を愛しています。

明晰夢が得意です。(省略)

シロに良く似たお兄さん黒沢雫くろさわしずくさんが現れました。

主のアキラさんを助けに行きますが、私に勤まるでしょうか…。(不安)



                        *   +   *



そこは、光が一切無い、真っ暗な場所だった。

底の見えない暗闇の中に、ただ一人香澄はゆっくり落ちていく。


「ここはもう、夢の中なの…?」

そんな幻覚に囚われそうになった時、右手が温かいのを感じる。

闇の中、右側にぼんやり溶け込んできたのは、声の低いお兄さんの方だった。

『そう、ここは主の夢の中…』

「…シロはどこ?」

『弟を連れてくるには少々危険なので…置いて来た』

「私が信じてもシロが現れないのはそうゆう事なのね…てかいつまで握ってるの」

ぱっ、と右手が温かかった原因の雫の手を離した。


「なんだかすごく寒いわ…。アキラさんはここに居るの?」

『居る…と思う…』

「どうゆうことなの?」

『それは…おっと、そろそろ着地出来るぞ』

「…………?」

ゆっくり落ちてきた闇の底らしきところに足が着いた。

『これが、主の夢』

「…この闇が…夢……」


『お嬢さん、今一度同じ事を申し上げるが、主は今常闇の病に伏せっている。そして、身を潜めている状態だ』

「ふーむ…。常闇の病ってのは、この闇が関わりあるんだね」

『ああ、恐らくそうだ。自分で解決出来れば良いんだが…。俺達はお嬢さんが知ってる通り、夢に直接干渉があまり出来ない』

「悪夢とかの夢は食べれるのに?」

『うむ。特にお嬢さんの様な夢を創造出来る者には到底敵わない』

「なるほど…それで私を呼んだのね」

そう言って香澄は徐にしゃがみ、床と思わしき所に手をつけた。

「あつっ…!」

鉄板の上の様な熱さに驚き、そのまま尻餅を付いてしまったと同時にそれは現れた。

「なっ!?炎がっ…!!」

『お嬢さん!どうかこの主の夢を解決して欲しい!人間であった貴女なら分かるはずだ!』

「分かるはずって…!だってここは…!」

炎が光の代わりとなり、そこにある木箱の様な物が炎に包まれ燃え上がる。

あたり一面が炎と化し、一瞬でその木箱は燃え上がった。


「この場所から出して!!」

そう香澄が願うと、その場所から離れることが出来た。

「……やっぱり!焼却炉の中だったのね!…あれ…」

周りには顔が判別できない人が5人、喪服を纏い、涙を流して立っていた。

「雫さんがいない…!置いて来た…!」

慌てて焼却炉の扉を開けようとするも、鉄の硬い重い扉はビクともしない。

「穴よ!開け!」

何も起こらない。

「雫さんをそこから出して!」

何も起こらない。


「手強い…!けど、これならどう!?」

――シュパッシュパッ!と音を鳴らして切りつけたのは1本の剣だった。

崩れ落ちる扉の奥から、背を向け肩を落として座っている状態でこちらに気づく雫が、驚いて口を開いた。

『…お嬢さん!』

「ふふふ…どうやら私の方が発想力一枚上手みたいよ!」

創造した剣は、あるゲームで培ったレアアイテムの何でも切れる剣だった。


『ありがとう!!』

そう言って若干焦げてる雫は、棺があったであろう台車を引っ張り出した。

「ええ!何してん………の…」

3分も経たずに棺は跡形も残らず、中に居た人は生焼け状態になっており、目が沸騰し白い涙が流れ、一部骨がむき出しなっていた。

しかも夢なのに何故かすごい異臭がする。

『…俺の主だ…』

「そんな……!間に合わなかったって事…!?」

思わず握っていた剣を離し、台車の方に近づいた。

下を向いている雫が、重たい口を開く。

『お嬢さん、長くなるんだが聞いてくれ。主の事、俺の事を』

「…ええ、話して頂戴…」


『…俺の主は元々明晰夢と言う才能は無かった。そこを付け込み、俺は力を付ける為に何度も夢を食べ続けていた。でも何時しか俺の事を分かるようになっていた。主は見る見ると成長して行き、俺の右腕と呼ばれるまでになっていた』

「…右腕?」

『俺はその当時、一族の長だった』

「なるほど……」

少しだけ納得出来た香澄は2,3度頷いた。


すごく優しく、渋い表情で雫は続きを語る。

『お調子者で、お人好しで、夢に逢いに行く度に主の事を好きになっていった……。そしてある日、夫婦の契りを持ち出した。主は了承してくれた。だけど一族はこぞって俺達の事を批難した。当然だった。俺はバクで主は人間なのだから』

「…っ!」

一瞬ズキッと頭痛が走ったが、臭いのせいと思いこめかみを押さえた。

『勿論、俺達は逃避行したよ。弟には悪かったけどな。後悔はしてなかった』

「すごい…羨ましいわ…」

『ああ、主は俺が一番愛した奴だからな』

雫は苦笑いをするも、誇らしげににこっと笑って見せた。


『でもお嬢さんのおかげで、後一歩だったけど、ここまで進歩したのは初めてだった』

「今までどうしてたの…?」

『闇の中で絶えず主を探して、いつも燃え尽きていた』

その時、助けた後の雫の表情を思い出した。

「ごめん…ごめんね…」

『お嬢さんのせいではない…顔を上げてくれ。俺ももうちょっと事前に話しておくべきだった』

「…そう言えばそうよ!こっちまで燃えて死ぬところだったわ…!」

『……………』「……………」

香澄のあまりの切り返しの早さに、お互い顔を合わせて笑ってしまった。

そして雫は涙した。

『はー。こんな人と話したの、久々だ。主の声、もう一度聞きたい…』

「もう一度聞きたい?」

『うん。出来るならもう一度、抱きしめたいよ…ん?』

「え?」


「あるじだよーしずくー」

と、幽体離脱の如く、突然死体から主のアキラさんがばぁっと出てきた。


「ギャアアアアア!!」

香澄はめちゃくちゃ乙女らしくない声で叫んだ。

『主!!!?』

「いやぁ…過去話始まっちゃったから、出るタイミング逃しちゃったよね…」

『あ…あああ…あるじ……!』

「久しぶりだね、雫ちゃん」

雫は我を忘れてアキラに抱きつき泣き出した。


「ちょ…ちょっとまって……!!」

「これはこれは初めまして。僕が雫ちゃんの主、黒沢くろさわアキラです。この度はどうもお世話になりました…」

「雫さんの主さんって、男の人なの!!?」

「はい。脱いで見せましょうか?」

「ばかなの!!!!?」

間髪入れずに突っ込みをする香澄に、アキラははっはっはっと笑った。


「これって、アキラさん、助かったの?」

「鋭いところを突いて来ますね…、ええっと…?」

「あ…、真白香澄ましろかすみです」

「香澄さん、僕の夢の原因。なんだか分かりましたか?」

唐突に銀フレームの眼鏡の中年男性は質問してきた。

「アキラさんが燃えて助からないから、その前に助け出す…?でも燃えちゃってるし、なんかアキラさん透けてるし…」

「惜しいですね。この夢は、雫ちゃんを助けて欲しかったんですよ」

『……主?』

「…ふむ?」

アキラは香澄を、香澄は雫を、雫はアキラを見て沈黙が少し続いた。


「香澄さん、夢は何度も同じ夢を繰り返し、納得が良く答えが導かれるとその夢は儚く消えていく。そんな事ありませんでしたか?」

「確かに、解決した夢は2度と見たことは無いわね…」

「そう言う事です。僕はこの夢が解決して、本当に良かったと思います」

『なんだか変だぞ…主…』

「この夢は…雫さんを助ける夢なの…?」

「ふふふ。香澄さん、雫ちゃんはまだまだ子供で、知らないことが多い。いっぱい色々教えてあげて欲しいです」

その言葉を言った時には、もう異臭は何も感じず、葬儀場の風景も無くなって、辺りは見たことの無い綺麗な草原が広がっていた。


「香澄さんにお願いがあります」

「…無茶なお願い以外なら…どうぞ…」

「夢から覚めたら、僕がイメージした住所に僕を尋ねて来て下さいませんか?」

「それ位なら出来ますね」

無茶なお願いじゃないと安心した表情で香澄は頷いた。

アキラに抱きついていた雫は、ダダをこねる子供のような声で口を開いた。

『主、待ってくれ。俺は色々と納得していない』

「そうですね…×××とか××とか×××とか、全然ヤり足りないですね」

口を開けばセクハラ発言のアキラのイメージが香澄の中で固まった。

『そ、それもそうだけど!これじゃ主が居なくなるみたいじゃないか…』

ごもっともな言葉が出た。


綺麗な草原に風が吹き、草花は風の音と共に歌いだす。

「ふふ。雫ちゃん、僕はいつでも君の近くに居るよ」

アキラは目を瞑り、下を向き、手の甲で顔を拭った。

「おかしいな、目にゴミが入ったみたいです…」

『主……』

雫はアキラの肩に手を当て、顔色を伺うように覗き込んだその時、

『……!』「ふえええ……!」

アキラは雫にキスをしていた。

香澄は男性×男性の光景が初めてだったので、大層驚いたそうな。


『あ…あ、るあるじ…』

「おと…おとこどうし…」

「ははは、香澄さん面白い人ですね。雫ちゃんはかわいいなぁ」

「な…なんとでも言ってください…」

「さて、二人とも、そろそろ目を覚ます時間です。僕の近くに来て下さい」

とろけていた雫を見て、アキラは頭を撫でてあげた。

「さぁ、雫ちゃん。香澄さんを抱っこして、ちゃんとお連れするんだよ」

『あい…』

「抱っこする必要があるの…?」

「そうなんですよ、僕の夢くっ付き合わないと解除出来ないのです…」

「………」

渋々雫に抱っこされる香澄にも、アキラは頭をなでなでした。

「二人とも、いい子ですね……!」

「………あっ!」

『……い!?』

ガチンッと歯が痛い感覚と、ぷにって言う唇の感触が香澄と雫に訪れた。


「さあ、おはよう。今日と言う日が、良い一日の始まりでありますように…」


アキラの頬に流れる涙は、風が優しく連れ去って行った。



                        *   +   *



『あ…かすみ姫、おかえりなさ……』

「あのやろおおおおお!!!!」

ガバッと起き上がり、血眼になっている香澄に怯えながらもシロは話かけた。

『ど、どうした…?かすみ姫…』

「ああっシロごめん…それが…!…むぐ!」

『弟よ……俺は初めてお前に謝る…』

雫が香澄の口を塞ぎ、話に割って入ってきた。

『主は俺との夫婦の契りを放棄した…なんだか繋がりを感じないんだ…』

『………!』

『落ち着いて聞いてくれ、今繋がりを感じるのが、お嬢さんなんだ…』

『…いくらなんでも冗談が過ぎますよ?』

『“兄弟嫁も共有”って言葉…出来ちゃったなぁ~、なんて…』

シロは無表情で香澄の脳裏を読み上げる。


『…じゃあ明日は起きたら、アキラ様のとこに押しかけましょう』

「ぷはっ!シロ……ごめん…」

漸く口を開けた香澄は、謝る言葉しかでなかった。

『何故謝る?悪いのはアキラ様なのだろう?』

「そう…なんだけど……ん!」

初めての時よりも深く、呼吸が出来ない位の苛立った様なキスが交わされた。

「……?!」

『…言っときます、兄上。かすみ姫は渡しません』

『まー、今はそうだな。でも時間を掛けたらわからねえぞ?』


睨み合う兄弟に香澄は、顔を赤らめて言った。

「~~私はどっちの嫁でも無いんだからねえ!?」


雫さんとアキラさんの夢のタイトルは、……いや、今日はもう考えない……。



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