第06夜 私の将来が左右される日!

告白します。


私、真白香澄ましろかすみは、夢を愛しています。

明晰夢が得意です。(省略)

この状況ってどんなのか説明してもらいたいのですが(困惑中)



「真白くん、困るんだよね。遅刻もそうだけど、今回の猫安くんの件とかさ」

私、真白香澄は只今、部長室に呼び出し中となっている。

「申し訳ございません…」

なんで謝るか分からないけども。

「兎に角、取引先の会社が次々断りの電話を入れてきてだね。口裏合わせたように君らの話題を出してくるのだよ。…で、だ。ここに温泉のチケットがあるんだが…一度休みを取って行って来たらどうだい?ああ、今日はもう帰って大丈夫だから」


遠まわしの、リストラ宣言にしか聞こえなかった。


「もーあんな会社私から願い下げだわ…っと、最近独り言増えたわね…」

会社を出た香澄は、既にあの病院の近くまで来ていた。

正直、昨日の夢で助けた事になっていたのかも不安になっていた香澄だったが、その光景を見てすぐにその不安は解消された。

「あ…はは…」

車椅子の少女の周りから、その黒い霧は無くなっていたのだ。

それどころか、とても笑顔で誰かと会話しているのが伺えた。

『…とてもかわいい』

「…それは嬉しいですね…」

「…ん?ちょっとまって!なんでシロ普通に会話してるの!」

そこには人化したシロが、しゃがんでクリスマスローズと一体化していた。


『おはよう、かすみ姫』

「じゃあ…お別れだねシロさま…」

『うむ。達者でな』

「あ!シロさま…!」

『………!』「………!?」


「おねえさん、これ貰って!おうち帰ったら開けて」

「あ…ありがとう」

「ばいばい!シロさま!おねえさん!」


「……ねえ。おうち帰ったら何点か伺ってもよろしい?」

『…な、なんだ。口調と表情が合っていない気がするのだが…』



「――ええ?それじゃ私じゃなくてシロが助けてくれた人だと思ってるの?」

『そのようだ…』

シロをバッグに詰め込んで急ぎ足で帰ってきた香澄は、帰るや否や事情聴取を始めていた。

『檻から脱出した後元凶の元を絶った事で、夢で起こったことはわしがやった事だと思ってるみたいだ』

「なんか腑に落ちないーー。それに…キス…されてた…」

『ん…すまん聞こえなかった…』

「あ~~~なんでもない!」

あんなことで取り乱すなんて…私は初心か!と考える反面、やるせない気持ちがもやもやする。


「後、なんでシロの事見えてたのか分からないけど、ひょいひょい人の前に出て話とかしちゃダメ!」

『むむ…以後気をつけよう。わしが見えたのは恐らく、かすみ姫が信じてって言ってくれたおかげなのかも知れない』

「な、納得したくないけどそうゆう事なのかも…」

『かすみ姫、お主の言霊にはすごい力が宿っているようだ。夫として誇らしいよ』

にっこりするこの可愛い生物は本当にずるいと思う香澄であった。


『ところでかすみ姫、今日は帰ってくるのが早いのではないか?』

「うぐ!!」

忘れてた事をほじくられ、その場にうな垂れる。

のそっと思い出した様にカバンの中から温泉のチケットを取り出した。

「温泉…ペアチケット…か」

『ほう…この時代にも温泉があるのか』

「…シロ連れてっても良いけど、1人で温泉入れなそうな気がする」

『ふむ、それはわしを見くびっている言葉ととって良いのだな』

「えー、どうかなぁ」

そんな微笑ましい、平日の正午。


「最近いろいろあって疲れたから…ちょっと寝たい…」

『ああ。ゆっくりおやすみ』

「おやすみなさい…」

ぽかぽかと陽の当たるベッドの虜となる香澄に、そっと羽織を被せる。


『……………』



                        +   +   +



久々に自分の夢の中に入った。

「今日は何も創造したくないから…“おまかせ”で!」

明晰夢はこんなことも出来るのだ!

その代わり、自分の記憶の整理や、自分の欲望などが夢に出やすい。


かぽーん。


「なるほど、寝る前に温泉の話してたからか…」

泳げるんじゃないか位の広い、岩肌がごつごつとした露天風呂だった。

温泉から上がる湯気が、月の光を反射して幻想的な風景となっていた。


『すごく綺麗ですね』

「そうですね………ん?」

声の低い、男性のシルエットが湯気のもやと同化して近づいてきた。

『貴女もすごく綺麗ですよ。香澄姫』

「…ああああ!?シロ!?」

そこに居たのは、あの可愛いを象徴したシロとは全く別の男性シロが居た。


『そうですよ、香澄姫。俺のお嫁さん…』

そう言ってにっこりと微笑み、唇にキスをしてきた。

「ちょ…!まって!何で…大人…えええ!?」

『貴女は本当に罪な人ですね。待ちません…』

逃げようとする後姿の香澄の首筋に、今度は甘噛みのキスをする。

「あ…やぁ…!」

大人の男性の力だろうか、後ろから抱き寄せる腕から逃れられないでいる香澄に、「俺を信じてくれ」と言うその人は、本当に卑怯な話だった。

ぎゅっと今度は前から抱き寄せ、男性の固い胸部に香澄の素肌と重なる。


「…まっ…て!」

相手に翻弄されているのだが、嫌な気がしない…。

そのまま身を委ねてしまいそうになった時、その声が話しかけてきた。


『兄上、おいたが過ぎるようでしたらケジメつけさせますよ?』

あの可愛いシロが、居た。

『…やーやー弟。いーじゃないかぁ、兄弟嫁も共有って言うじゃないか』

『そのような言葉、聞いた事がありません…勝手に夢に入るなんて不粋ですよ』

『んな硬っ苦しい事言わんでさ、お嬢さんも嫌そうじゃなかったぜ?』

『……!?』


「…………あ」

『…あ?』『………』


「あんたら私の夢から出てけええええええええ!」



                        +   +   +



「私が寝た時に訪問してきたと。それで?この変態はシロのお兄さんなの?」

『ええ、そうです。お嬢さん…』

ほっぺたに手型をつけた、そのシロのお兄さんは自己紹介を勝手に始める。

『姓を黒沢くろさわ、名をしずくと申します。以後お見知りおきを』

シロの大人バージョンの雫は、左手を胸に当てお辞儀をした。


「…んで、その雫さんはなんでこんな所に?」

『単刀直入に申す。俺の主、アキラを助けて欲しい』

「雫さんの主…」

香澄はシロに目を向け、シロは静かに頷き、口を開いた。

『兄上とアキラ様は、バク族の中でも群を抜いた夢渡り師だった』

「………」

『しかし、俺の主は今、常闇の病に伏せっていて身を潜めている状況だ』

「なるほど…」

夢の中での一興は許せないが、先程とは打って変わった雫の表情に真剣さを感じる。


「…わかったわ。駆け出しの私が、どこまで手伝えるか分からないけど…」

『ほ、本当ですか、お嬢さん…!』

「きゃ…!」

ふわりと香澄を持ち上げ、左腕に腰掛けさせ抱きしめた。

『あ…兄上…!!』

「ちょっ……」

『ありがとう…ありがとう…』

肩幅の広いその声の主はすごく小さな声で呟き、震えていた。


『兄上、いつまでそうしてるんですか…』

『……久々の胸の感触が…』

「……!?!?」

『…お!!』

鉄拳制裁しようとした香澄よりも早く、シロの手が出た。

『かすみ姫においたする様なら、例え兄上でも許しませぬ』

『こわーこわー。すまんよ。ジョーダンってやつだ』

「ぶっ飛ばしてやりたいけど!お兄さんのありがとうが本当のものと信じるわ…」

『こんな物分り良い女、俺の妻にして上げたいとこだぜ』

「それは願い下げ。私は、」

と言った後に自分でも驚く言葉を言おうとしていたのでやめた。


「さて、ではアキラさんを助けに行きましょうか。自信ないけど…」

『お嬢さんなら大丈夫だ。お頼み申す。俺が先導します』

ベッドに横になる香澄にシロが思い出した様にあるものを取り出し、香澄に手渡した。

『かすみ姫、貴女なら出来る』

「わあ…うん。自信なかったけど…ありがとう!」


睡魔が少しずつ近づいてきた。

あの温泉の夢、メモするの忘れたけど…記録するまでも無いな。とか、

あの子シロにキスしてたな…とか、色々想像する香澄に雫は声を掛ける。


『…お嬢さん、一つ申し上げとくことが…』

「…ん…?」

『心を無にして下せえ…俺達バクには、言葉が筒抜けですぜ…』

「!?!?!?」

『…かすみ姫、その話の続きは帰ってからな…』

ちゅっと香澄の手の甲にキスをする光景を最後に、香澄は夢の中に落ちていった。



『貴女の夢が、愛に溢れていますように』



枕元には、雪子ちゃんが色鉛筆で描いたあの夢の再現の絵が1枚。

そのタイトルは、

― あたしと、シロさまと、お姉さん ―


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