第05夜 私の導きが光差す途になる日!

告白します。


私、真白香澄ましろかすみは、夢を愛しています。

明晰夢が得意です。(省略)

夢渡りみたいなのが出来るようになりました。(再重要)

少しずつ、バクに近づいている気がします…(不確信)



「お疲れ様です。お先に失礼します」


「あー真白さん、お疲れ様です」

「…ねね、あの噂本当なの…?」

「…あーあれ?本当らしいわよ」

「…猫…で、真……そうそう…くすくす」


休み明けと言うのに、猫安の1件で噂は瞬く間に広まっていた。

女とは本当に噂が大好物な人種であるようで、有る事無い事まで一人歩きしている現状。

小さい会社だけにものすごくやり辛さを感じる香澄は、人の噂も七十五日を願いながら、会社を後にした。


電車で1駅の線路沿いにあるその病院は、雨風で風化している壁がとても目立つ昔ながらの病院だった。

その確信を得たのも、この病院に咲く白色のクリスマスローズですぐ気づいた。

「こんな珍しい花が咲くのは…この病院で間違いないはず…」

真っ白いクリスマスローズに風がそよぎ、会話してるように頷き始めた。

『…かすみ姫、到着したのか』

カバンに入っていたバク化したシロが言う。

「ええ、シロならどこに赤石雪子あかいしゆきこちゃんがいるかわかるのかな」

『一番は寝てる時がわかりやすいのだが…近くにいるとすぐ分かるな』

くいっと鼻の先を向けた所に、車椅子の少女がクリスマスローズと戯れていた。

「な…なにあれ…」

『かすみ姫にも分かるだろう、禍々しい妖気が』

赤石雪子ちゃんの周りには、黒色の霧のような物がねっとり纏わり憑いているのが香澄にも認識できた。


「でも猫安のように、何らかの原因が他にあるってことよね…あれ…?」

そこへ男性の先生と看護婦さんが現れて、一緒に話をしているのが伺えた。

「私、あの二人、夢で見てるわ…」

『なるほど…』

先生と看護婦さんの周りにも、あの黒い霧が纏わり憑いていた。

『かすみ姫、こっちに来るようだぞ』

「あ…どうしよう!」

近づいてくる黒い霧を纏った雪子ちゃんから見えないように木の陰に隠れた。


「みんな、しねばいいのに」


通りすがりに、こんな可愛らしい女の子の口から出るとは想像しない凶器に満ちた言葉に、思わず香澄は驚いてカバンを落としてしまった。

「…誰!」

「ご、ごめん…聞く気は無かったんだけど…」

「…おねえさん…どこかで会った…?」

「いいえ、たぶん初対面よ…」

「そう、今言ったこと誰かに喋ったら、呪うからね」

「…呪うって」

「あたしに歩く足があれば、殺す事だって出来るのに…!1人じゃなんにも出来ない…!呪う以外出来ることが無い!」

「そんなこと、言っちゃダメ!」

「何?おねえさんも説教するの?その哀れにする目、本当に嫌い!…何これ」

落ち葉に混じって落ちていたのは、バク化したシロだった。

「な、なんでみえて…はっ!それ私のよ。返してもらえる?」

「ふーん…じゃあおねえさんが泣いて謝ったら返してあげる。バイバーイ」

「え…!ちょっと!…!?」

車椅子に手を掛けようとした所、黒い霧は香澄を拒むように弾いた。


「わたしたちに かまわないで…?」

香澄にだけ聞こえたその言葉を残し、車椅子の少女はその場を去っていった。



「非常ににまずい。面会謝絶とか…私はマスコミじゃないのに!」

病院を追い返され家に渋々帰宅した香澄は、机の周りをくるくるしていた。

「シロ…大丈夫かな…」

ベッドに横になっておもむろに、テレビの電源を入れると、昨日の特集が今日もやっているのを見つけた。

「……こんな事って…」



                        *   +   *



「そうよ、あたしって、可哀想な子でしょ?」

「―――はっ!」

いつの間に眠っていたのか、勝手に夢渡り出来て困惑する香澄に、幼い声が語りかける。

「泣いて謝らないと、返さないからね」

声の主はそう言って、辺りがライトアップしていく。

またあの舞台の上、白色のドレス、変わっているところは、香澄が床に大の字に磔られているというとこ。

首、両手首、両足首に冷たい鉄の感触が香澄を締め付ける。


『かすみ姫!』

天井の方からシロの声が聞こえた。

「シロ…!無事なんだね!」

『無事だがしかし…ここから出られない!』

シャンデリアに括り付けられたその鳥用のゲージの中に、シロは閉じ込められていた。

そして、昨日の夢で流れていたあの協奏曲が流れ出す。

「まずいわ…この曲が終わったら…!」

舞台脇から老若男女の姿が登場する。

あの先生と看護婦と、あの少女も。

「今日はね、新しいおねえさんが加わったの!みんな。楽しく死んでね!」


「雪子ちゃん…!やめよう?こんなこと、何にもならないよ…!」

「どうして?みーんな憎いからやるの!そこのおばあちゃんとおじいちゃんは、私のこと可哀想な目で見て、可哀想にって言ったの。死んで欲しい!」

――ブスッ!ブスッ!

そこに居たおばあちゃんとおじいちゃんの額に、天井にぶら下がっているシャンデリアのガラスが突き刺さる。

「そこのおにーさんはお隣さんで優しくしてくれたのに、彼女が居たの!いつも見舞いに来るのが本当にうざったい!彼女と仲良く死んでいいよ!」

――グシャ!グシャ!

「そこの3人、いつもいつも足無しキモイっていじめてくる男子!死んじゃえ!!」

――グサァ!ザクッ!ザクッ!

「先生も看護婦も、毎日毎日慰めやがって!同情なんていらない!死ね!」

――グシャァッ!グシャッ!

「あと1人は、あたしのママ。優しくて、大好きなママ。でも、どうして、あたしのことテレビに売ったのおおおお!?」

――グサグサグサグサッ!


協奏曲の演奏に合わせて舞いながら殺していく雪子ちゃんは、

「あははははははははははははははははははは!」

楽しそうに笑いながら、涙を流し、失禁した。


「雪子ちゃん!君は今の辛さを誰にぶつけて良いか分からないからこうやって…」

「…なに、うるさいんだけど!!」

「――あがっ…!」

突如香澄の左足に何かが突き刺したような激痛が走る。


「あたしは、世界を目指すビッグダンサーになる夢があったわ!」

「…ゆきこちゃ…うぐぁっ…!」

今度は右足に同じ痛みが走る。


「でも劇の主役決めの日、それは起こったの!」

「…きいて……っあぐぅぅう!」

次は両手に冷たい物が突き刺さる。


「会場の点検ミスで、このシャンデリアが落ちて来たのよ!あたしの足に!!」

香澄が痛みで悶絶している最中、協奏曲が終了していることに気が付いた。

「…私を、信じて…!」


――ガキィィィンッ!

けたたましく鳴り響く金属音が聞こえ、重たい物が落ちる音がする。

『………!』


「………えっ!?」


「…ありがとう。ちょっとでも信じてくれて…もう大丈夫だよ」

落ちて来たのはシャンデリアではなく、白色の綺麗な羽だった。

「なんなのこれ…どうして…?」

「…君の夢はキラキラして綺麗なのに…もったいないよ」

創造で変えた羽がふわふわと舞い落ち、香澄の上に降り積もる。

「何がもったいないの!?こんな希望もない世界に!」

「希望はあるよ…!ほら、君の背中には立派な翼があるじゃない…」

雪子ちゃんの背中に、今にも飛び立ちそうな大きな翼が広がった。


「なによ、これ…こんな夢…信じたくない!!」

「私は君を助けに来たんだ。こんな体勢で言うのもあれだけど…」

「…………」

「さあ、信じて。飛んでごらん…!」

「…う…あ……」

ふわりと浮かぶ身体に、雪子ちゃんは手をバタつかせ鳥の様に宙を泳ぐ。

「いい感じ!雪子ちゃん、君の夢はこんなにも愛で溢れているんだよ……!」

「…………!!」



『…でてこい。名も無きバクよ』

『おさ このこのゆめは いごこちが いいのだ かまうな』

『手前の様な奴に、長と言われる筋合いはない』

舞台脇にあった雪子ちゃんのダンスシューズはシロの手によって燃え上がった。


『さすが、かすみ姫…わしの選んだ嫁…』



                        *   +   *



「……あ…れ…」

目が覚めると朝になっていた。

結局シロのは雪子ちゃんのもとにあるので帰ってこなかった。

「でも良かった…あの子の笑顔を初めて見れた気がする…」

そして香澄はメモ帳を開いた。


タイトルは…

― 舞台に上がる、キラキラおどる② -翼を広げて踊る少女- ―



「…ん?遅刻してるーーーーー!!!!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る