第03夜 私の創造が想像を超える日!
告白します。
私、
明晰夢が得意です。(省略)
でも今は、夢を見るのが正直怖いです…(切実)
「ただいまー」
誰も居ない部屋に声が通り、どこからか返事が返ってくる。
『おかえり、かすみ姫』
現れたのは一匹のバクだった。
「た、ただいま…」
ふぃっとバクの視線から外れ、洗面台の方にいそいそと足を向ける香澄。
「…香澄、落ち着くのよ。相手はバクよ…よく分からないモノよ…」
『何がよく分からないモノなのだ?』
「…っあう!」
突然ぬっと現れたバクに、香澄は心臓が破裂しそうになった。
きっとこのドキドキは勘違いだと、思い、たい。
『時にかすみ姫』
「…は、はい…」
『家の外にあやつを連れてきたのは、何用なのだ?』
「………?」
一瞬何の事か分からなかった。
が、玄関の覗き穴から静かに覗き込んでそれが誰か分かった時、鳥肌が全身を走った。
猫安優斗が、家の前を行ったり来たりしていたのだ。
「なん…で…?」
ぴんぽーん。
インターホンが部屋に鳴り響く。
ぴーんぽーん。ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん。
「真白さーん!開けて下さーい!」
どんどんどん!!
名前を呼ばれ、扉を叩く音が響く。
さすがに近所迷惑と思い、香澄は思い切って扉を開けた。
「突然どうしたの…?…!」「真白さん…!」
部屋に勝手に押しかけるや否や、猫安は香澄を押さえつけた。
「俺、もうダメなんっすよ…!自分を抑えれないんです!!」
「なっ…何するの!?…やめ…て!!」
玄関の壁に両手を押さえられ、抵抗できない香澄に激しくキスを所望する猫安。
「いやぁ…!」
「何故そんなに嫌がるんっすか…?俺はこんなに愛していると言うのに…!何がいけないんですか……!!」
「……う…ぐ…!」
片手で香澄の両手を押さえつけ、空いているもう片手が香澄の首に手をかける。
「やっぱり、貴女の苦しそうな顔!素敵です!想像通りです!最高っす!!」
「たす…け…て…!」
「やばい…、俺勃ってきちゃいました…。もう入れて良いっすよね?」
「…し…ろ…」
『―――やっと名前を呼んでくれたね』
「ん…なん、だ…?」
突然首を絞める手の力が緩み、猫安はそのままその場に倒れ込んだ。
「…ゲホッ…ひゅー…ゲホッ…」
『遅くなって、すまない』
「ゲホッ…シロ…なの…?」
『ああ、かすみ姫。貴女が名前を呼んでくれたお陰で本当の姿になれた』
そこにはバクとは想像の付かない、白い長い髪の、白色の漢服を着た15歳位の少年が香澄の横に居た。
その場にへたり込んだ香澄に黒色の羽織を掛けさせ、香澄にゆっくり語りかける。
『わしは生まれてこの方、感情を持ち合わせて居ないと自負していた。だが、この気持ちはなんだ…?腹の底が熱く、煮えくり返っているようだ』
猫安の首に、白いその腕が伸びる。
「まって、シロ…」
『何故止める?かすみ姫。こやつは貴女を…』
「大丈夫よ。首を絞められた、だけ。それより、また私を眠らせてくれないかな」
『………』
「今度は大丈夫だから…とその前に」
台所から持ってきたガムテープで、猫安を全身ぐるぐる巻きにする香澄。
「これで万が一先にこいつが起きても大丈夫でしょう」
『……あまり、気が進まないが…では行くぞ』
あの急激な眠気が襲ってくる。
やはり懐かしい感覚に見舞われ、そして香澄が不意に呟く。
「――猫安優斗、君の夢は美味しい?」
* * *
あの広い海岸が目の前に現れる。
「つまり、猫安を見つければいいのね」
『…また襲い掛かって来るやも知れぬ』
不安げにする先ほどまでバクだった少年に香澄は、
「大丈夫。信じて、ここは私の夢でもあるんだから!」
と、初めてシロの前で笑って見せた。
部屋が段々と現れ、遂に足首当たりに海水が増え始める。
「前は呆気にとられて猫安の思い通りにやられてたけど、猫安が創造する前に私が創造してしまえば良いだけの話なんだわ」
そして香澄は創造する。
「増える部屋に穴を開ける、私とシロが入れる用に」
ぼこっ。
香澄の身長程の大きさの穴が開き、今度は2人で中へ侵入する。
増える部屋や水は猫安が既に創造してしまっている為、止めることが出来ない。
また、シロが弾かれた原因は、猫安の創造の中にシロの存在が無いからである。
『こんな短期間で…かすみ姫、貴女は…』
「そんな悠長に喋ってる暇ないわよ、穴よ開け!」
天井に向かって香澄は創造する合間にも、水は増え続ける。
「このまま水の流れに任せて、上に向かえば良いだけなんだわ、穴よ開け!」
ぼこっぼこっぼこっ。
その調子で9階付近になると、今通ってきた部屋とは打って変わって広い畳の部屋に辿り着いた。
すると、漸く満潮になったらしく、水の動きがぴたっとその部屋で止まった。
香澄は開けた穴から恐る恐るその部屋を覗き込む。
「…いるわね、猫安…」
『…かすみ姫よ、わしの事を信じてくれるか…?』
「…こんな時に何?」
『…この先進めず、またかすみ姫に何かあったら…。…っかすみ姫!』
突如香澄の居る場所に影が落ち、香澄が持ち上がった。
「いっ…痛い!!」
「真白さん、こんな所に居たんっすね。ずっと探してました」
髪の毛で釣り上げられた香澄に、猫安がにたぁっと微笑み、頬を赤らめる。
『かすみ姫…!わしを…じて…!』
「…君を、もう信じてるに決まってるじゃない…!シロ…!」
「真白さん、誰と喋ってんすか…?」
「あぅっ…!」
髪の毛を掴まれた状態で畳に叩きつけられた香澄に、猫安が言う。
「真白さん…俺は貴女が愛おしくて仕方ない。毎日毎日毎日、隣で仕事をしてる貴女を見て、勃起しない日は無かった!!!」
「…きも…」
「…あ、あああ……!もったいない…!」
叩き付けた拍子に辺りに抜けた香澄の髪の毛を拾い集め、匂いを嗅ぐ猫安。
『やめろ、わしの嫁にこれ以上手を出すな』
「…ん?誰ですかお前?俺と真白さんの愛の巣になんの用っすか?」
『これ以上手前の好きにはさせん』
「……あ!?てめえ、それを返せ!!」
返せと言われたシロが持っている物は、30cm位の正方形の箱だった。
猫安が取り返そうと箱に手を掛けたとき、それは散らばってしまった。
「ああああ!!!折角、集めたのに…!!」
「…きもい…燃えろ…」
香澄がそう言うと、散らばったその箱一杯の香澄の髪の毛と思しき物は灰と化した。
「っ…うあああああ!!」
悶え苦しむ猫安は突然黒色の霧となり、姿が見えなくなった。
「なるほど…元凶はこれだったわけね…」
『それだけではないみたいだ』
そこに残った黒色の霧は、形を持たぬまま語りかけてきた。
『…ありがとう おさ さようなら』
『ああ。さようなら、名も無きバクよ…』
『………』
そして、音も無く消えて行った。
それと同時に、建っていた家や溜まった水が静かに白く霧の様に無くなっていく。
「…わぁ…」
空に浮いた状態で見渡す景色は、赤色に染まった海と夕焼け空が視界一面に美しく広がっていた。
『かすみ姫、ありがとう。貴女の夢はとても綺麗だ』
「なんだか照れくさいわね…さぁ帰りましょう…シロ」
『ああ…』
* * *
目覚めた香澄は、警察を呼んで事情を説明し、猫安は婦女暴行罪で検挙された。
後に香澄はこの夢の記録を、スマホのメモ帳に書き残したのであった。
タイトルは、
― 増える部屋と水② -信じる力は創造を超える- ―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます