Chapter6 『執事の本音』 6-5

「晃様。 艶様はすでに中でお待ちです。」


「昨夜は、聖様に付き合って、お休みになられていないのでは?」


(晃と同じくらい長身の男性が、晃に深々とお辞儀した。)


「ああ。 時雨しぐれ、お前も寝ていないだろう。」


「そこまで俺に合わせなくて良い。 今夜は、艶を寝かしつけてやってくれ。」


「徹夜になる。」


「承知致しました。」


(顔を上げた時雨の黒い瞳が、黒い縁取りの、半月形の眼鏡の奥で、

神経質にちらりと光った。)


『不満だな。』


(晃は察した。)


(時雨の顔立ちは、菖蒲と良く似ていたが。 大人びて、表情は硬い。)


『よく朝からこんな顔が出来る。』


(これから朝食へ向かう、和やかな雰囲気とは似つかわしくない。 張りつめた緊張感が、常に時雨を包んでいた。)


「時雨・・、本音は?」


(声に振り向いた時雨の、流れる黒髪も、菖蒲と似ていた。 しかし、

時雨の表情の読めない顔つきは。 黒く光る燕尾服から、小さな金の装飾の

一つ一つにさえ、

冷たさを感じるほど。 不思議な緊張感をまとい、整って見えた。)


『これから戦闘に行くと言い出しても、良いくらいの雰囲気だな。』

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