Chapter5 『美しいもの』 5-4

(アンティークの、古い電話機の受話器を手にした晃は、

不機嫌そうに、目を細めた。)


「欠片なら、後で剛に届けさせる。 そう急ぐこともないだろう。」


(晃の声は、明らかに警戒していた。)


(上下黒の服に身を包み、長身で長い手足が目立つ。 切れ長の黒い瞳は、笑っていなく。

流れる黒の短い髪が、大胆で繊細な大人の魅力を醸し出していた。)


(大きな手で受話器を持ち、手近なソファーに腰掛け、足を組む。)


(ソファーの上に翻った、光沢が艶やかな黒の上着。 左の腰の辺りに、

FOT No.2と刻まれた、小さな金文字のピンバッジが光っていた。)


[「晃君。 何年一緒にいると思っているの? いいかげん私とも仲良くして。」]


「残念だな、彩。 俺はお前の色気になびいたりしない。」


(晃は彩の声を聞きながら、部屋の奥にいる。 この屋敷の主の方へ視線を流した。)


[「あら、ひどい!」]


[「この間、酔ってキスしたこと怒っているのね。」]


[「謝ったじゃない。」]


***


(彩は、ぷりぷり怒り、白衣をなびかせ、ハイヒールの足を組んだ。)


「魅力がないなんて、言われたの初めてよ。」


[「色気を振りまいている医者なんて、信用できない。」]

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る