Chapter1 『はじまりの夜』 1-9

キイッ


(椅子から立ち、部屋のドアへ向かった。)


ガチャッ


***


「あっ、夏樹様。」


(目の前には、少し見上げるほど背の高い男性が立っていた。)


菖蒲あやめ・・。」


(夏樹は、困ったように微笑んだ。)


(どうやら数時間前からそこに立っていたらしい菖蒲は、気まずい表情を浮かべながらも、

心配そうに夏樹を見つめた。)


(黒い燕尾服に身を包み。 黒いネクタイが夜の灯りに煌めいている。 胸元の

白いハンカチと白手袋。 自然に調和し、金の装飾がほどこされた燕尾服は、一日中着ていたはずだが、整っていた。)


(黒い四角い縁の眼鏡に、サラサラと流れる細い黒髪、長い部分を後ろで縛っている。)


「・・すみません、眠られるまで・・と思って。」


(見た目とうらはらに、菖蒲の物腰は柔らかい。)


「ふぅ。 今日はここに泊まるから、先に屋敷に帰って良いって、言ったのに。」


(一歩踏み出し、廊下の光の中、菖蒲の前に立った。)


「あ・・、はい。」

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