第45話 会議へ
城の王室へ入れば、ライオネル王とソル、ギルド局長とバショウが待っていた。
「来たか。そこに腰を下ろせ」
置かれた長テーブルの、王が上座に座り、局長が右側――なら俺は左側だな。
「それで、議題はなんですか?」
問い掛ければ局長が口を開いた。
「三日後に族長会議が開かれる。そこに同行してもらいたいと考えている」
「同行ですか……」
出席では無く、同行。ドワーフについてとエンジュ襲撃に関してはバショウとホロウがいるから俺が行く必要はない。
「そう、あくまでも同行だ。族長会議は年に二度、今回は臨時で開かれるが条件は変わらない。各種族につき族長一名と同行者二名まで」
その言葉にライオネル王を見れば、気が付いたようにソルを一瞥した。
「セリアンスロォプからは私と副官、それに『武軍』が向かう」
「ホロウさんは行かないんですか?」
「王を守るためならば将だけで十分だ。将が不在になる以上、軍の二番手までいなくなるわけにはいかないからな」
「確かに。ギルドからは?」
「わしとバショウ、それとシルバーリングの手練れが一名」
「……となると、俺たちはどういう立場で? 所属はギルドですが……条件に当て嵌まりませんよね?」
「ああ、だから例外として連れていく。わしはあくまでもヒューマーの代表であってギルドは別だ」
「一石を投じる絶好の機会でもあるからな!」
都合の良い言い回しだが、要は俺たちを利用しようって腹だ。まぁ、わかり切っていたことを今更どうこう言うつもりもない。
「わかりました。同行しましょう」
「決まりだな! 此度は海路と空路、どちらから向かう?」
「ギルドはドワーフの族長を拾ってから飛行船で向かうので、ライオネル王と栞たちは先に海路で向かってくれ」
「おお、それもそうか! しかし、六種族が集まるのも久しいからな! 遅れぬようにせねば!」
情報が多過ぎる。
「ちょっと待ってください。集まる種族は七つでは?」
「ん? いや、今回ピクシーは参加しない。急だったこともあり参加を見送る、と。私の考えを話せば全面的に支持するとの言葉をもらったから、ピクシーの意思はセリアンスロォプと共にある」
そこで合意しているのなら俺が口を出すことでは無いな。
「なるほど。ではもう一つ。その族長会議というのはどこで開かれるんですか?」
問い掛ければライオネル王は局長に視線を向けた。
「場所は四つの大陸の中間にあたるグリア島だ。向かう手段は船か飛行船だが、どちらにしても魔物が襲ってくる可能性があるからヴァイザーが同乗するが、島に降りられるのは先程言った各種族三名のみ。加えて島とその周辺は戦闘禁止区域だ。そのつもりでいてくれ」
「もちろん、ルールには従います。俺たちは船から降りなければいいんですね?」
「いや、そこに関しては例外的な措置をするつもりだから降りられるはずだ」
「……わかりました。では、そのつもりで」
要は、ただの同行では無い、ということだ。
「うむ、話も纏まったところで行動に移るとしよう! 『不死』は我らと共に港へ」
「ここからは別行動だ。栞くん、また島で会おう」
局長と握手を交わせば、バショウと共に王室を出て行くのと同時にホロウが入ってきた。
「ホロウ、今から港へ向かう。隊を編成して北門に集めておけ」
「はい、すぐに」
去っていくホロウを見送ると、ライオネル王も立ち上がった。
「では、私も準備をしてくる。『武軍』よ、『不死』等を任せたぞ」
ソルが頷くと、ライオネル王は王室の外で待っていた副官と話しながら出て行った。
「……神器を手に入れたようだな」
「ああ、お陰様で。まぁ、それでも弱いことに変わりはないが」
「だが、ゴブリンの王を倒したのは事実なのだろう? 強さとは結果が示すものだけだ。過程がどうであれ貴様はゴブリンの王を倒した。語られるのはそれだけだ」
「迷惑な話だが……天災になった代償だと思っておくとしよう。族長会議にソルが同行するってことは、他の天災が来る可能性もあるのか?」
「『精霊』と『落雷』は間違いなく来るであろうな。その時は将から栞を紹介するとしよう」
言ってみれば各種族のトップ戦力が集まるってことだ。不穏な空気になりそうだな。
「そこら辺のことはソルに任せる。とりあえず、俺たちは先に北門で待っていればいいか?」
「ああ、先に行っていて構わない」
「じゃあ――行くか」
立ち上がって振り返ってみれば、三者三様に頷いて見せた。
城を出て街の北側に向かっていると、不意にサーシャが裾を掴んできた。
「栞~、本当に行くの?」
「ん? そりゃあ行くつもりで行動しているわけだが……まぁ、サーシャが嫌だと言うのなら断ることも出来るけど」
「嫌ってわけじゃないんだけどねぇ。ちょっと会いたくないのがいるからさ~……」
「エルフの中に? その会いたくないのが条件の三名の中に入っている可能性のほうが低いんだから大丈夫だろ」
「ん~……まぁ、行くけどさぁ」
サーシャの不安に関しては、場合によっては船から降りなければいいだけの話だ。
そして、話序でに思い出した。
「そういえば、ピクシーの族長が来ないって言っていたが、ロットーは会ったことがあるのか?」
「ある。というか、栞も会っているぞ?」
「……ああ、あの村のか」
ピクシーはその性質上、誰もが戦えて誰もが戦士だ。故に七種族の中で唯一戦うための部隊を編成しておらず、公式的に軍隊を持たないことを表明している。だからこそ、アイルダーウィン王国に程近い場所で生活をして、何かあれば意志を共にする、と。要は外交だ。共通の敵を持ち、手を取り合って協力する。どの世界でもやっていることは同じだな。
北門にはすでにホロウを含む兵士が集まっていた。
「…………」
向けられる視線は相も変わらず、か。しかし、ホロウだけは素知らぬ顔で近付いてきた。
「あまり気にしないでください。ソル様でさえ、未だに畏怖されている節があります。未だ――というか、この先も変わらないでしょうが」
「兵はソルの指導を受けているのでは?」
「直接指導は各軍隊長以上のみです。なので、その方々はソル様に対して忠誠にも近い尊敬の念を抱いておりますが……栞様には別の意味で畏怖しているでしょう」
「……別の意味?」
「予兆の文言は、この世界の誰にとっても指針なのです」
「ああ……なるほど」
神の言葉は絶対で、そこにそぐわない俺は不吉の象徴ってことか。加えて、他種族が共に行動することが普通では無いから、だろうな。
王に近しいセリアンスロォプでさえこれだ。一石を投じたところで波紋が広がるとは思えない。
などと考えていると、王と共に背中に翼を生やした副官とソルがやってきた。
「皆、集まっているな!? これより港へ向けて出発する! 準備はいいな!?」
その声に兵士たちは一斉に隊列を成した。
「そんじゃあ俺たちも――準備は?」
「問題ない」
「だいじょーぶ」
「はい。いつでも」
それぞれ思うこともあるようだが、少なくともこれから三日間掛けての移動になるんだ。退屈しのぎで、話す時間はいくらでもある。
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