第7話 ジェリー

「この運び方なんとかなりませんかね?」


 俺は再び、お姫様抱っこで運ばれていた。

 しかし、今度はフェリアではない。ジェリーだ。


「あら? 嫌かしら? この方が持ち運びやすいのだけど」


 ジェリーと共に町に買い出しに行くことになったのだが、町は結構離れているらしくジェリーに運んでもらってた。


「……もういいです。しかし、すごい静かに移動するんですね」


 ジェリーの移動はフェリアとは違って安心して居られる。それは、ジェリーが滑るように移動しているからだ。


「わたしは、色々な液体を体から出せるのよ。だから、滑りやすい粘液を足の裏から出して静かに素早く移動できるの」


 滑る様にでは無かった。実際に滑っていたらしい。


「さあ、着いたわよ」


 人外の者達が住む町は、一見すると普通の町だった。

 ただ、往来している人々はみな、人間とは違う姿かたちをしていた。


「すこいですね。こんなに色々な人がいるんですね」

「そうよ。この世界には多種多様の種族がいるわ。基本的には町の皆は大人しいけど、危ない人もいるからあたしから離れちゃだめよ」


 目的の店を目指して道を歩いていると、何やら言い合いが行われていた。

 見てみると、岩のような皮膚を持った男たちが、天使のような翼を持つ子供に因縁をつけていた。


「おい小僧。よくも俺の服を汚してくれたな」

「ご、ごめんなさい」

「ごめんで済むわけ無いだろ。弁償しておらうか」


 その、騒ぎを見たジェリーは無言で男たちの前に立ちふさがる。


「あ? 何だてめーは」

「子供に対して可愛そうでしょう?」

「子供とか大人とか関係あるか。俺の服を汚した弁償をしてもらうだけだ」

「汚れなんてどこにあるのかしら?」

「ここだよ。見りゃ分かんだろ」


 男が服の裾を引っ張ると、たしかにチョコレートのような物がベッタリと着いていた。


「あら? 汚れなんてどこにも見当たりませんわよ」


 ジェリーが汚れている部分に触れると、汚れはきれいに落ちていた。むしろ他の部分よりきれいになったぐらいだ。


「あ、何しやがる!」

「汚れが無いなら何も問題ないわよね?」

「そうは行くか! 弁償はしてもらうぞ。なんならお前が代わりに払ってもいいんだぜ」


 男はジェリーに凄むが、仲間の一人が何かに気づいたらしく、凄んでいる男の肩をつかむ。


「おい、こいつジェリーじゃねーか? やべーよ。やめとこうぜ」

「は? 何言ってやがる。こんなスライムヤローに恐れをなしたとあっちゃ男がすたるぜ」


 そいつは、仲間の静止も聞かずに更に続ける。


「だいたい。スライムのクセに何、女みたいな格好してんだよ。お前らには性別なんて無いだろ? その姿で男をたらしこんで食うつもりか?」


 そして、俺の方を見るとバカにした様に更に続けた。


「大方、後ろの男も今回の獲物なんじゃねーか。おいお前、こいつに食われないように気をつけな。げっへっへっへっへ」


 俺の方を見ると下品な笑いをする。

 ジェリーは小さくため息を着くと、子供に逃げるように促した。


「おい! 逃して良いなんて言ってねーぞ」


 ジェリーの腕をつかもうとするが、液体状の体をつかむことが出来ずに素通りしてしまう。

 子供はジェリーに「ありがとう」と言うと、足早に逃げていった。


「ふざけんな!」


 興奮した男はジェリーの顔面に殴り掛かる。しかし、柔らかいジェリーの顔はゴムの様に伸びると、拳を弾き返してしまった。

 そして、その勢いで男は尻もちを着いてしまう。


「これ以上は町の人に迷惑です。まだやる気なら本気で相手しますよ」

「待ってくれ。俺達は関係ない」


 冷静で静かな口調が逆に男たちを恐怖させたらしく、突っかかっていた男以外は一目散に逃げていってしまった。


「さて、あなたはどうしますか?」


 尻もちをついていた男も他の仲間が逃げたのを見ると、「ひー」と情けない声を出しながら逃げていった。


「まったく、町の皆に迷惑ですよね」


 ジェリーは俺の方を向いて悲しげな表情を見せる。


「すいません。お役に立つことが出来ず」

「良いのよ。むしろ、アキラくんに怪我が無くてよかったわ」


 彼女はそう言うと、何事もなかったかのように店に向かって歩き出した。

 しかしながら、その後姿は少し寂しげな雰囲気を感じた。


「ひょっとして、女の格好について言われたのを気にしてますか?」


 俺は気になってジェリーの横に並ぶと問いかける。


「別に気にしてなんていないわ。実際、スライムに性別なんて無いもの」

「俺はその姿、好きですよ。それにジェリーさんはすごく女性的だし」


 彼女は立ち止まると驚いた表情で俺を見る。


「あら! そんな事を言ってくれるなんて所長以外に居ないと思ってたわ」

「え? 所長も同じこと言ったんですか?」

「ふふふ、さすが所長が見込んだ男ね。わたしとっても嬉しいわ」


 ジェリーは満面の笑みを見せると、俺の頭を抱えて抱きしめる。

 大きな胸の弾力と冷たい肌の感触が顔に感じられた。


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モンスター娘のいる館に住むことになりました 山賀 秀明 @syuumei_yamaga

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