第4話 はじめての任務
あれから一週間、ジェリーの手伝いで館の掃除をしたり、ヘーゼルにお願いされて庭の手入れをしたり、フェリアの元で書類整理や戦闘訓練を行ったりしていた。
つまりは、雑用をこなしながら、なんとなく忙しい日々を送っていた。
そんな折にいつもの様にフェリアが話しかけてきた。
「アキラくん。任務よ」
「今度はなんですか? ゴミ拾いでも書類整理でも何でもやりますよ」
「バカね。今度は正真正銘の任務よ。人外の者が暴れているの」
……
……
俺は今、女の子に担がれている。しかも、お姫様抱っこでだ。
「おい、せめて背負う形には出来ないのか」
「運んでもらってるくせに文句いうの? コッチのほうが走りやすいのよ」
はじめは拒否したが、俺の歩きに合わせていると時間がもったいないと言われた。
実際、彼女の走りは速かった。車に乗っているのかと思えるほどの速度で、木々の間を駆け抜ける。しかも、谷や崖もジャンプで難なく走り抜けるため、さながらジェットコースターに乗ってるような気分だ。
「うわぁ!」
「いちいち悲鳴上げないでよ。まったく、男のくせに情けないんだから」
自分としても女の子に恥ずかしい姿は見せたくないが、怖いのだから仕方がない。
改めて、人外の者と人間との違いをまざまざと見せつけられた。
「あれね」
彼女は目標の人外の者を見つけると、木に隠れるように止まる。
「なんだあれは……」
奥深い森の遠くからでも姿がわかる。全長10メートルは優に超える木によく似た姿の人外の者が暴れまわっていたのだ。
ちょっと前から地鳴りを感じていたが、まさか木が動いているとは思わなかった。
「あれはトレントよ。森を守護する種族で、普段は大人しくて森を侵略しようとするものでも居ない限り暴れることは無いはずなんだけど……」
しかしながら、目の前のトレントは太い枝のような腕を振り回し、周りの木々をなぎ倒してる。
「今は、影響が無いけど町に被害が出たら大変だわ。暴れてる理由はわからないけど退治するしか無いわね。あなたはここで見ててね。危険だから近づいちゃだめよ」
彼女はそう言うと、スルスルと器用に木に登り、枝から枝にジャンプしながらトレントに近づいていった。
その姿はさながら獣のようで、活躍の場を貰った筋肉は、地を駆けるチーターの如く華麗に見えた。
「見てろって言われてもな」
力強いが緩慢な動作のトレントに対して、フェリアは素早い動きでパンチやキックで攻撃している。しかし、巨大なトレントにはあまり効果的では無いように見えた。
正直、人知を超えた戦いを見たところで参考になるとは思えなかった。
それより気になることがある。なぜ、大人しいトレントが暴れまわっているかだ。
トレントの動きを見てると、どうも奇妙な感じがする。微妙にバランスが悪い気がするのだ。もちろん、人外の者であり始めてみた存在だ。元々そういう動きをするのかもしれない。
「近づいて見てみるしか無いか」
一人つぶやくと、木々に隠れながら少しづつ近寄っていく。都合の良いことにフェリアの攻撃に気を取られて、俺の存在には気づいていない。
俺は、気づかれないように気をつけながらトレントの足元までやって来た。
近くで見るとはっきりと分かる。根っこのような足の一つが使えないためバランスがおかしくなっていたのだ。人間に例えるなら、片足を引きずりながら歩いている状態だ。
その、足の一つを観察すると、腕ほどの大きさの金属の破片が刺さっているのが見えた。
「これか」
トレントが俺に気づいていないのを確認すると、突き刺さった金属に近づく。トレントは動きが遅いため踏み潰されたり蹴られるような心配はなかった。
意を決すると、金属を思い切って引き抜く。
「グオオオォォォォォ」
トレントは大きな唸り声をあげると、足の傷に枝のような手を伸ばしてきた。俺はトレントの枝にぶつからないように気をつけながら距離を取る。
フェリアも俺のことに気づいたらしくトレントから距離を取って俺の元にやって来た。
「危ないでしょ! 何やってるのよ!」
「多分これが原因だ」
トレントに刺さっていた金属を彼女に見せる。
「何よこれ?」
「トレントの足に刺さってた」
「それで暴れてたって言うわけ?」
「多分だけどな。でも、これでしばらく様子を見てみようぜ。大人しくなるかもしれない」
フェリアは少し不満げな表情をしていたが、すぐに了承してくれた。
「わかったわ。すぐに町に被害が出るわけじゃないし様子を見ましょう」
トレントから距離を取ってしばらく様子を見守っていたが、数時間後にはおとなしくなった。
その様子を見ていたフェリアはずっと不満げな顔をしていた。
「今回はうまく言ったから良かったけど、次からはちゃんと相談してよね。危ないじゃない」
「フェリアに気を取られてるうちにやったほうが良いと思ったんだよ。心配かけて悪かったな」
「べっ、別に心配なんてしてないし。あなたがどうなろうと知ったことじゃないけど、あたしまで巻き込まれたら大変だからね」
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