第4話
通路の行く手がらは異変を聞きつけた兵士が次々と押し寄せてくる。
矢継ぎ早に射掛けるミランダ。その矢を受けて次々と倒れる兵士。
そこにネフリティスの雷球が放たれ、ひしめく兵士を貫いていく。
足の止まった兵士に襲い掛がるのはバルゥ。
その勢いに一旦は退いて行くが、すぐにまた押し寄せてくる兵士。
「このままではジリ貧です!」
ネフリティスが杖を振り上げながら叫ぶ。
「部屋マデ退イテ立テ篭モルカ?」
「それこそ袋のねずみね……火薬で吹き飛ばせば」
「あの人数では焼け石に水です」
「火薬? そうが!」
可彦は何を思ったが壁に向がって戦鎚を振り下ろす。嘴のついている方で壁を穿つ。小さな穴とひびが出来る。
「やりたいことは解りますが、壁が崩れる前に兵士が押しよせてきますよ!」
「いいがら時間を稼いで!」
言われるままに三人は迫る兵士と攻防を繰り広げる。
可彦は壁を穿って三箇所ほどに小さな穴を開けた。
「ミランダ! 火薬!」
「ああ、なるほどね」
ミランダは壁に穿たれた穴に火薬の筒を押し込むと、導火線に火をつける。
「逃げるぞ! 追え! 追い詰めろ!」
奥に逃げていく可彦たちの姿を見て、兵士たちが追いすがる。そしてその時、兵士たちの横合いで爆音が響いた。
立ち込める黒煙と粉塵。肉片の焦げる臭い。
壁は崩れて山となり、高いところに大きな穴が出来て、そこから差し込む光が黒煙の中に帯を作る。
自分が考えたこととはいえ、その惨状に可彦は唖然とする。瓦礫の下から呻き声が聞こえてくるような気さえもした。
「感傷にふけるのは後です」
耳をふさぎ、目を閉じてしゃがみこもうとする可彦をネフリティスは叱咤する。そして瓦礫にあいた穴から押し出す。先に登ったバルゥが手を伸ばす。可彦も気を取り直すとバルゥの手を取り穴から外に出る。
ミランダは再び押し寄せる兵士に対し、手に持ったものを掲げて見せる。
それは導火線に火についた火薬筒。
あわてて退いていく兵士。
ネフリティスが穴から這い出すと、ミランダは火薬筒をその場に落としてすばやく穴から表に飛び出す。
大聖堂内に兵士が集中したせいか庭園に兵士の姿は無い。しかし正門に向かえば兵士と鉢合わせになるのは目に見えていた。ならば裏手に逃げるかと言えば、そちらに逃げれば庭園から出られるという保証はない。逆に言えば正門に向かえば兵士さえなんとかすれば外には出れる。今のうちならばさほど相手にせずに出れる可能性もあった。
その決断を瞬時にしなくてはならない。
故にその声は、可彦たちの耳に響いた。
「こちらです!」
庭園の立木の影から突如の呼び声。屈んだ男が手招きをしているのが見えた。野良着姿の一見庭師のような男。
可彦は罠も疑ったが、しかしその脚は即座に男の元へと向かっていた。
「あなたは?」
「タラール様の手のもの、と言えば信用頂けますか?」
可彦の背後ではミランダが矢を番え、バルゥが双剣を構えていた。
「タラール様は各都市に私のような密偵を潜ませているのです。この度、あなた達に不都合が起きた時は助けるよう申し付かったのですが、いや、大聖堂からどのようにお逃がし申し上げればよいかと思案していたところです。よもやこのような大胆な策に出るとは、タラール様が目をかけるのも頷けます」
「話は後ほど」
ネフリティスの言葉に男は頷く。
「そうでした。では、こちらへ」
男の先導で庭園の木々の間を抜けていく。その先に金属でできた格子が立ち塞がる。男は格子に近づくと、手をかけ上に引き上げる。数本の格子が簡単に外され、大柄なネフリティスでさえすんなりと通ることが出来た。
皆が抜け出ると男は再び格子を元に戻す。
「兵士が集まる前に、お急ぎください」
大聖堂は街の中心からは離れているのが幸いして、周囲はまだ手薄な状態ではあったが、王が死んだことが伝われば、王都に戒厳令が敷かれるのは想像に易かった。
それまでが勝負と言えた。
「さて、これからいかがいたしますか?」
「いかがすると言われても……」
森を抜けながら男の言葉に可彦は窮する。
「お望みとあればタラール様は匿う用意があると仰せです」
「それは、やめておくよ」
男の言葉に可彦は即答した。
「世話になりっぱなしじゃ、高くつきそうだからね」
「賢明な判断です」
男は笑みを浮かべた。それから懐に手をやると革袋を取り出した。
「路銀です。これくらいはよろしいでしょう」
「うん。ありがとう」
「ここを抜ければ王都を囲む城壁に出ます。その一部にすぐ崩れるように細工がしてあります。丸に×印のある壁です。そこから外にお逃げください」
「君は?」
「わたしはもどって、少々かき混ぜてから、再び市井に紛れます」
「ありがとう。気を付けて」
「そちらも……時にどちらに逃げるおつもりです?」
男の言葉に可彦は少し黙ってから、答えた。
「帝国に逃げるよ」
「帝国に?」
「うん、そう伝えといて」
「……承知」
男は笑いながら頷くと、元来た方へと駆けていく。
「僕達も、行こう」
可彦たちは森の中を王都の外へと向かって走り出した。
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