第2話
アルタリアは腰にさした短剣を抜きはなち、国王の背後から国王の首を掻き切る。首から鮮血が勢いよく飛び散り『連なりの環樹』を赤く染める。その場に崩れ落ちる国王。
「我等を虐げし呪われた王家の血を持って御呼び奉る! 目覚め給え我等が祖王!」
『連なりの環樹』が淡い光に包まれ、次第に強い光を放ち始める。
その光の中に人の形が浮かび上がる。
白い法衣姿。
白銀に輝く王冠を頂き、手には黄金の錫。
白く長い髪と髭。
そして尖った長い耳。
「まさか……エルフの祖王?」
スライムにもがきながらもネフリティスの口から驚愕の言葉が漏れる。
「わしを呼び出したのはおまえか?」
「はい、祖王よ」
アルタリアは祖王の前にかしずく。
「して、わしに何用かな?」
優しげな口調。しかしその声は圧倒的な威圧を含み、聞くだけで嵐の中に身を置くような激しい感覚を覚えた。
「今一度現世にご降臨頂き、我らエルフの栄光をこの地に再び」
「ふむ……」
祖王は髭を撫でながらアルタリアを見下ろす。
「我が子の頼みとあらばそれを叶えぬはやぶさかではないが、既にわしは現世に器のない身。その器となるものがあるかな? 並みの器では一刻とわしを納めおくことなどできぬぞ?」
「そこに」
アルタリアは可彦を指し示す。
「ふむ……邪魔じゃな」
可彦たちを取り巻いていたスライムが瞬時に固まると次には粉となって崩れ落ち、塵となって部屋の中に跡形もなく舞い散る。
「俺のスライムが一瞬かよ」
しかしスライムから解放された身体は、動かすことが出来なかった。
締め付けられるでもない、力が抜かれるでもない、不快でもなく、苦しくもない。
ただ、動くことが出来ない。
ネフリティスも、バルゥも、ミランダも、同じようにただ呆然と、身動ぎ一つせず、動かない。
それが祖王の力によるものなのは疑いようもないが、祖王は指一つ、瞬き一つしてはいなかった。
「ふむ」
可彦の身体が祖王に引き寄せられる。もがくことも声を上げることもせず、ただ引き寄せられる可彦。
「面白い」
可彦の身体が斜めに裂かれ、血が飛び散る。しかしその傷は見る間に塞がっていく。
「不死か。しかも恐ろしく頑健に創られておるな。なるほどこの身体であれば、わしを納める器となるやもしれん」
祖王の手が可彦の身体に触れる。
可彦はその身体に衝撃が走るのを感じた。
表現しようのない、しかし、疑うまでもない激しい衝撃。それはまるで、可彦という存在そのものを、肉体ではない、根本そのものを激しく揺さぶり、揺さぶることで崩壊させてしまうような、そんな衝撃。
しかも可彦はその衝撃に抵抗する気さえ起きなかった。
祖王の姿が次第に薄れ始め、逆に可彦の姿が祖王の姿を帯び始める。
「ふむ……」
しかし祖王はその手をゆっくりと離し、可彦を再び押しやると、自分の身から離した。
「いかがしたのです!」
「うむ。この器は受け取れんな」
「なぜです! この器でも御身を入れることは適いませぬか!」
「いや、この器であれば、わしは降臨できるであろう」
「ではなぜ!」
「この器は、既に他のものに捧げられておる」
祖王は可彦を見る。
「いずれの何者に捧げられたかは知らぬが、他の者に一度捧げられた供物を、わしがもらうなど、ありえぬな」
「そんな……」
アルタリアが可彦を見る。
他者に捧げられた? 可彦は初め言われた意味がわからなかったが、しばらくしてあることを思い出した。
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