第五章 王都再び
第1話
「お待ち申し上げておりました」
王都のはずれ、あの大聖堂の前でアルタリアは深々と首を垂れた。
「この首差し出せといわれれば、断れぬ身ではありますが、どうかそれはことを成した後にして頂きたく」
首を垂れたままアルタリアは続けてそう述べる。
「それはもう、いいよ」
可彦はそっけなく早口で答える。それから可彦はゆっくりと息を吸うと、今度はなるべくゆっくりとした口調で先を続けた。
「それで、なにがあったの」
「見ていただいたほうが早いと思います。こちらへ」
そういうとアルタリアは門をくぐる。それから振り返る。
「お連れの方も、どうぞ」
庭園の中は相変わらず緑に溢れ、白を基調とした美しさを保っていた。ただ可彦が初めて見たときとは違い、たくさんの王国兵士が行きかっている。物々しいという表現がしっくりくる。警備というには多すぎる兵士。大聖堂を取り囲んでいるという印象を受ける。
庭園を抜け大きな扉を開けて中に入る。
白く長い通路。その通路にも兵士が両脇に立ち並んでいる。
その通路の突き当たり、一際重厚で大きな扉。
アルタリアが手を掲げると、扉が音もなく開く。アルタリアが先頭に立ち、その中へと進んでいく。可彦が召還された部屋。中央に立つ『連なりの環樹』。その部屋には兵士の姿はなかった。背後で扉が再ひ閉じられる。
「これが……」
『連なりの環樹』を見上げてネフリティスが息を漏らす。
「この目で見ることが出来る日が来るとは思いませんでした」
「それで、なにがあったの?」
「余から話そう」
『連なりの環樹』の陰から現れた人物。それはアミスコート王国国王、シャルル・クル・アミスコートに他ならなかった。アルタリアは跪き臣下の礼をとる。可彦もつられて跪つこうとするが、ネフリティスが肩を掴んでそれを止めた。
改めて背筋を伸ばし国王に対峙する可彦。
「よく無事であったな。ベクヒトよ」
国王は小さく眉をひそめるが、寛大さを示すように大きく手を広げる。
「辛き試練を良くぞ乗り越えた」
「……それで、僕に何を期待してるんです」
そっけなく切り返す可彦に国王は鷹揚に頷いてみせる。
「余はそなたのような尊い犠牲をこれ以上出したくないと考えている。異世界より召しだした勇者の犠牲の上に成り立つ平和など、最早これ以上続けるわけにはいかぬ」
国王は腕を振り上げ熱弁をふるう。
「それで、どうするつもりですか?」
「帝国を倒す。帝国を倒し併合し、次に大砂漠も併合し、更には荒地の蛮族、山地のドワーフ共も平伏させ、この島を統一しなくてはならない! 王国による統一こそ万民に平和をもたらすであろう!」
その熱弁は次第に狂気に満ちた熱気を帯び始める。
「その為には力が必要だ。力だけではない、統一の偉業を成すためには長い年月がかかるであろう。その長い年月を生き抜くだけの身体が必要だ!」
国王の目が可彦を見据える。熱にうなされた鋭くも何かを見失った瞳。
「ゆえに勇者よ。おぬしの身体を余が貰い受ける。その不死の身体を! そうすることでおぬしが最後の犠牲者となる!」
その言葉に身構える可彦たち。その身構えた身体の上に何かが降り注ぐ。
雨漏り? 可彦は初めそう思った。しかしそれは雨漏りなどのはずもなく、降り注ぐそれは可彦たちの身体に絡みつき、その動きを奪っていく。
「痺れ薬では失敗したんでね」
もう一つの声。聞き覚えのあるしわがれた声。現れたのはアルタリアと同じく耳の尖った痩せた男。あの錬金術師に他ならなかった。
「俺の創った特製スライムはどうだ? 動けまい」
「陛下」
アルタリアが国王に声をかける。
「準備は整いました」
「うむ。余はどうすればよい」
「『連なりの環樹』の前にお進み下さい」
「うむ」
国王はゆっくりと『連なりの環樹』の前に進み、そこに立つ。
「また騙したな!」
可彦の絶叫が響く。しかしアルタリアはその声を気にすることもなく、国王の背後に立つ。そして振り返り、可彦を見つめて告げた。
「安心して。騙されたのはあなただけではないから」
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