第3話

 まるで大きな砦だ。

 城壁の無い城門のようなその砦のアーチ型になった部分をくぐると、周りの雰囲気が一変した。

 荒れ地を踏み固めただけのような道は広く大きな石畳に変わり、真っ直ぐと伸びている。

 その両脇には椰子に似た木々が立ち、道に木陰を作っている。

 その石畳に踏み込むと周囲は冷やりとした空気に包まれているのが解る。オアシスの空気に似た感触だ。

 その石畳の道の先に城門と城壁が見える。遠目にもくぐってきた砦以上に立派なものであることが解る。

 隊商に加わってから一週間。その間に二つの都市国家に立ち寄る機会があった。

 この二つの都市国家も城壁をもつ城塞都市で、可彦の目には立派なものに映っていた。隊商長にはカーンウーラはこんなものじゃないと笑われたが、それを目の当たりにして、その笑うところがはっきりと理解できた。

 完全に格が違う。

 砦の下をくぐっただけでその恩恵と権威が身に沁みこんでくる。

 大きな石畳の道は技術力の高さを、生い茂る緑は豊かさの象徴だ。水もなく木々が育つはずもなく、大規模な灌漑施設があるのは間違いなかった。空気が冷えているのもそのおかげだろう。

「すごいね」

 可彦の口から自然と漏れる。

「ゴ・オメーンには及ばないもののシーベよりは経済の点においては凌駕しているかもしれません」

 答えるネフリティスの声は可彦の背後からした。

 可彦は馬の上にいる。とはいえ可彦に乗馬の経験などは無く、手綱は可彦の後ろに乗るネフリティスの手にあった。

 石畳の真ん中を隊商は進んでいく。行きかう人々は隊商に道をあける。大きな城門も止められることなく通り過ぎていく。

「止められないね」

「この隊商の所有者をわすれたんですか?」

「……ああ、そうか」

 この隊商の所有者はこの都市国家の領主なのだ。その行く手を阻む者などいないだろう。

 城門をくぐるとそこは大きな広場になっていた。そこには多くの荷馬車が係留され、さらに多くの人々が行きかっている。大規模な隊商以外にも、大きな荷物を背負った人や、役人風の人物、さらにはそれらの人たち相手に食事などを提供する人の姿もあった。

 可彦たちの隊商もそこに留まる。留まったのは広場に面したひと際大きな建物の前。その建物には隊商に掲げられた旗と同じ旗が掲げられている。留まった荷馬車から直ぐに荷が降ろし始められる。

「どうだカーンウーラは?」

 隊商長が声をかけてくる。すでに馬を下りており、あれこれと指示を出しながら近づいてきた。

「すごいです」

 可彦は素直にそう答えるしかなかった。隊商長はその答えに満足そうにうなずく。

「さて、ついたばかりで申し訳ないんだが、我が主が君たちに会いたいそうだ」

「それってここの領主様ですよね?」

 可彦の問いかけに隊商長は頷く。

「耳の早いお方だからな、ソタニロでの攻防戦に於いても良くご存じだろう。それで興味をもったらしい」

「美味イモノガ食エルカ?」

 そう言いながら近づいてきたのはバルゥだ。

「もう食べてるじゃないか」

 可彦はバルゥを見て笑う。荷馬車に乗っていたバルゥはすでに降りてあちこち見て回っていたらしく、屋台から買ってきたのかすでに手に串焼きらしきものを手にしていた。

「相変わらずすごい人ね」

 ミランダも馬に乗ったまま近づいてくる。

「来たことあるんだ」

「以前に何度かね」

 可彦の問いかけにミランダは頷く。

「それでどこに行けばよいんでしょう?」

 可彦の後ろからネフリティスが隊商長に問いかける。

「ああ、迎えが来ている。馬に乗ったままついて行ってくれ」

 隊商長の視線の先の馬に乗った人物が、こちらを見て一礼する。

「ウラハ歩イテイクノカ?」

「こっち乗りなさいな」

 ミランダがバルゥに手を差し伸べる。バルゥはミランダの手をとるとミランダが引き揚げると同時に思い切り飛び上がる。そのまま器用にミランダの前に乗り込むバルゥ。飛び乗られた衝撃に、馬が少し鼻を鳴らす。

「スマンナ」

「どういたしまして」

「それではこちらへ」

 先導する馬に従い後に続く可彦たち。

「お世話になりました!」

 馬上で振り返り、手を振る可彦に隊商長は笑みを浮かべながら手をあげて返した。

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