第7話

「ん……」

 光に照らされた岩肌が見えた。顔を脇に向けると崩れた神像の跡が、逆に顔を向けると床に座るネフリティスの姿が見えた。

「目が覚めましたか」

「うん」

 可彦は身体を起こす。身体には毛布がかけられていた。胸に手をやる。小さな傷跡。ただ、以前あったあの剣の傷跡は完全になくなっていた。

「思ったより早く目が覚めましたね」

「そうなんだ」

「まだ一時間も経っていませんよ」

 ネフリティスは立ち上がると可彦に歩み寄る。

「どうですか?」

「どうですかって?」

「何か変わったことは?」

「うーん……」

 可彦は身体のあちこちを動かしてみる。それから何かを念じるようなことをしてみたり、手を合わせて前に突き出したりと、いろいろと試し始める。しかしそのうち目を閉じて首をひねり、しばし考えてからネフリティスを見た。

「何もない。そっちは?」

「こちらも何も」

 ネフリティスは首を横に振る。

「神様が来ることも、扉が開いて秘密の部屋が現れることも、ましてや財宝が手に入ることも、何もなしです」

 それでもネフリティスはどこか嬉しそうだった。

「そっかぁ」

「まぁご無事で何よりです」

「うん」

 可彦は台から降りると大きく伸びをして、左右に身体を傾ける。

「良い顔をしていますね」

「そう?」

 ネフリティスに向けた可彦の顔は、穏やかだった。

「まぁ、ふっきれた感じはするよ。それにさ……」

 可彦は手を大きく広げ、少し声を大きくして言葉を続ける。

「不死身の身体って、すごく勇者っぽくない?」

「なにが勇者っぽいのかはよく解りませんが、人智を超えた能力なのは確かですね」

「うん、そうだよね」

 可彦は頷く。

「それにさ、これはきっと試練なんだ」

「試練?」

「勇者にはさ、やっぱり試練がつきものだよ」

「なにがやっぱりなのかはよく解りませんが、大なり小なり人生には試練があるもの。それに挑もうという姿勢は良いことです」

「うん!」

 可彦は大きく頷く。微妙に話がかみ合っていないのは、あまり気にしていない。

「せっかくだから、もうちょっとこの世界を楽しんでみることにするよ」

 可彦は笑みを浮かべる。今までにない屈託のない笑み。

「探してみるよ。今はまだわからない何かを」

「約束通り、お手伝いしますよ」

 可彦の屈託のない笑みに、ネフリティスも優しげな笑みで応えた。

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