第6話

「国王陛下万歳!」

「勇者様万歳!」

「大将軍閣下万歳!」

「王国軍万歳!」

 王城から王都を貫く石畳の大通り。その両脇に群がる人々。その中を行く王国軍の行進。

 その行進の中央に位置する馬車の上に可彦の姿はあった。

 白銀に輝く甲冑姿、腰には意匠の凝った一振りの剣。

 乗る馬車は八頭立ての重厚で巨大な馬車。

 馬車の四方には矛槍を構えた騎士が立ち、三方に据えられた巨大な弩弓にはそれぞれ二名の兵士が配置されている。

 馬車というより戦車という方が妥当かもしれない。

 天幕は折りたたまれ、馬車の中央に可彦とフォル卿が立ち、群衆の歓声に応える。

「ベクヒコ殿、昨晩はよく眠れましたかな」

「え……うん」

 曖昧に答える可彦。その様子にフォル卿は大きな声をあげて笑った。

「胸を張りなされベクヒコ殿。戦のことは我と王国軍にお任せ下さればよろしい。それより周りを御覧なさい」

 フォル卿の言葉に再び周りに目を向ける可彦。

 大観衆だ。

 手を振り上げ、歓呼する男たち。

 歓声を上げ、花を投げる女たち。

 手を合わせ、まるで祈るように見送る老人たち。

 楽しそうに、無邪気に追いかけてくる子供たち。

「ベクヒコ殿、皆貴公を見送っているのです。光である貴公を」

 その期待に応えられるだろうか。今まで不思議と持ち上がってこなかった不安がここにきてこみ上がってくる。

「ベクヒコ殿、貴公に課せられた重圧、察するに余りあるが、今それを心配しても仕方ありますまい」

 フォル卿は豪快に笑う。

「光たる貴公がここにいるというその事実こそが最大の意義であり、そこから生まれる結果は全て天命。どのような結果になろうとも、受け入れるしかないのです。今の貴公の仕事は皆に光を与えること、さぁ胸を張りなされ、そして皆に応えなされ」

 可彦は頷くと胸を張る。そして左右に目を向け、ゆっくりと、出来る限りゆっくりと、観衆の一人一人を見つめるように顔を動かし、さらにゆっくりと手を振る。

 その姿に観衆の歓声がさらにいっそう高らかに、勇者の行進を華やいでいった。

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