第5話

見上げた先に天蓋が見える。

 背中には柔らかい感触が包み込むように伝わってくる。

「食べ過ぎた……」

 あてがわれた豪奢な部屋、その中央に設えられた天蓋付きの大きなベッド。そのベッドの上で大の字に寝転がる可彦。着ているのはゆったりとした肌触りのいい部屋着。召使が着せようとしてくれたのをさすがに断って一人で着て、そのままベッドの上にダイブしたところだった。

 気分が物凄く高揚しているのが分かる。

 そなたは光だ。

 国王に言われた言葉。その後の視線。自分に向けられてくる容赦なく大きな期待。

 しかしどんなに大きな期待でも、今の自分なら受け入れられる。

 そんな気分だった。

 そしてどんな大きな期待でも、応えることが出来る。

 そんな気分だった。

 何の不安もない。

 なるようになるべくしてなる。

 だからこそ自分は勇者なのだ。

 高揚しているからだろうか、身体が妙に火照る。

 あの口当たりのいい飲み物は酒だったのかもしれない。

 心地よい高揚、興奮。

 冴えわたり、研ぎ澄まされたような感覚が、逆に微睡んでいるような不可思議な感覚を呼び起こす。

 眠れない。眠れないが不快ではなかった。

 そのままベッドの上に寝転がっていた可彦の耳に小さな音が届く。

 それは扉の開かれる音。

 それは扉の閉じられる音。

 そして静かな足音、衣擦れの微かな音。

 自然と向けられる可彦の視線。

 その先にいたのはアルタリアだった。

 その姿は、大聖堂で見た、謁見の間で見た、そして晩餐で見た、どの時の姿とも違って見えた。

 身にまとっているのは白を基調としたゆったりとした法衣ではなかった。

 薄闇の中で逆に浮き出すような漆黒の衣。

 身体の線をはっきりと際立たせ、その胸元は大きく開かれ、真白の肌が漆黒と薄闇の中に淡く溶け込んでいる。

「もうお休みでしたか?」

「い、いや……」

 アルタリアはゆっくりと近づいてくる。その様子を見つめる可彦。アルタリアがベッドの脇に立つ。あわてて身を起こそうとする可彦をアルタリアの細い手が柔らかく制した。

 ただ軽く触れているだけ、それだけで可彦は身を起こすことが出来ない。 

 アルタリアの顔がゆっくりと近づいてくる。長い銀髪が解れて流れ落ちる。

「何も言わず、わたしにすべてを……」

 可彦の顔にあたるアルタリアの息は涼しげに甘い香りがした。

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