赤ずきんと青ずきん

木野々ライ

赤ずきんと青ずきん

昔々あるところに、二人の女の子がいました。一人は赤い頭巾を被っていたことから赤ずきん、もう一人は青い頭巾を被っていたことから青ずきんと呼ばれていました。二人は仲が良く、いつも一緒にいます。

 ある日、青ずきんは森の奥に住むおばあちゃんの元へお見舞いに行くことになりました。ですが、一人では怖くて心配です。そこで、赤ずきんも一緒に行こうと誘いに行くことにしました。その頃、赤ずきんはというと――


「さっきから煩いんだけど」


 え?


 バンッ


 ******


 こんにちは、青ずきんと言います。いえ、本名ではないのですが皆様が私のことを青ずきんと呼ぶので、是非青ずきんとお呼び下さい。さて、今私は赤ずきんちゃんの家の前にいます。おばあちゃんのお見舞いに行くのですが、一人だと心配なので赤ずきんちゃんも誘いに来たのです。ただ、何故か赤ずきんちゃんの家の前が真っ赤なのですが……。

「誰ー?」

「あ、赤ずきんちゃん」

 家の裏から出てきたのは目的の人物、赤ずきんちゃん。彼女も顔と手、ついでに白い服にも赤い液体が飛び散っていていつも以上に赤いですね。後鉄臭いです。

「何をしていたのですか?」

「何か煩い奴がいたから黙らせてた」

「だから家の前が赤いのですね……」

 おそらくナレーターさん――先程までお話されていた方――の成れの果てでしょう、御愁傷様です。……あれ、何故皆さんそんなに驚いた表情をなさるのですか? ……なるほど、この状況に動じていないから、ですか。確かにこれが異常だと思う人もいるかもしれませんが、赤ずきんちゃんにとってこれは通常運転です。いちいち動じてなんかいられません。世の中には慣れなきゃいけないこともあるのです。

「ところで青ずきんは何しに来たの?」

「実はこれからおばあちゃんのお見舞いに行くのですが、赤ずきんちゃんも一緒に行きませんか?」

「……青ずきんのおばあちゃんって、確か森の奥に住んでるよね?」

「はい、そうですよ」

「オッケー、いいよ! ちょっと待っててね」

 そう言うと赤ずきんちゃんはスキップをして家の中に入って行きました。明らかに目の色が変わっていました。何というかギラギラしてました。例えるなら獲物を見つけた獣、といったところでしょうか。数分ほど待っていると、とてもいい笑顔の赤ずきんちゃんがバタンッ、と効果音が付くくらい勢いよくドアを開け放ちました。服を着替え、手を洗ったのか綺麗になり、変わりに手や背中に重火器を装備しています。明らかにお見舞いに行く格好じゃないですね。

「そんなに重装備で重くないのですか?」

「問題ない。森には狼が出るからね、これくらいの装備で挑まないと」

「嬉しそうですねー」

 狼との戦闘が何より大好きな赤ずきんちゃん。このためにいつも銃を整備しているそうです。こういうところは恐ろしくマメですね。

「そうだ。折角だし、青ずきんもあたしのこの銃で頭巾を赤く染めてあげようか?」

「遠慮しておきます」

「あははっ、冗談だって」

「笑えない冗談ですね」

 赤ずきんちゃんが言うと冗談に聞こえません、というか冗談ではなさそうに見えます。流石にまだ死にたくないですのでターゲットは狼だけにしてもらいましょう。後『折角』の意味を辞書で引いてください、文脈があきらかにおかしいです。

「さあ行くよ! 虫だろうが狼だろうが人間だろうが、あたしの目の前に立ちはだかる者は容赦なく撃ち殺してやる!」

「虫と狼はいいですが人間は止めてください」

 

 

 

 ******

 

 

 

「ほらほら狼の力はこんなものなの? 本気でかかってこい!」

 はい、こちら青ずきんです。今は森の中腹付近でおばあちゃんにあげるお花を摘んでいます。ここのお花畑は、年中たくさん綺麗なお花が咲いていますからね、おばあちゃんもきっと喜んでくれるでしょう。……赤ずきんちゃんですか? 今絶賛、狼とバトル・ロワイアル中ですよ。先程綺麗にしたはずの白い服は見る影もありません。せめて黒い服を着るように勧めてみましょうか。余談ですが、私の頭巾は最初から青でしたが、赤ずきんちゃんの頭巾は元々黒だったのですよ。それが貰った一週間後にはすでに赤くなっていましたね。理由を聞いてみると、狼の返り血で赤くなったそうです。黒が赤に染まるなんてことあるのかと思いましたが、赤ずきんちゃんが言うには『黒は何色にも染まらない。だがやろうとすれば赤く染められるのさ』とのことです。厨二病ですかね。どこの病院に連れていくべきでしょうか。

「おーい、終わったよー」

「ああ、お疲れ様です」

 いつの間にか赤ずきんちゃんが近くまで来ていました。赤ずきんちゃんが通ったと思われる道が真っ赤です。折角の綺麗なお花がもったいないです。とりあえず持ってきていたタオルを赤ずきんちゃんに渡します。使い捨てにするつもりなので白いタオルを持ってきました。あっという間に赤いタオルに早変わりです。ちなみに狼はというと、それらしき肉の残骸が遠くで血溜まりの中に積み上げられていますがスルーしましょう。

「気は済みましたか?」

「うん、いい準備運動になったよ。さあどんどん奥へ進もう!」

「目的がお見舞いであることを忘れないで下さいね」

「次の獲物はどーこーかーなー?」

 全く聞いていませんね。先に行こうとしています。まあ最初から分かっていたことですし、気にしないでおきましょう。それにしてもあれが準備運動とは、赤ずきんちゃんの身体能力は恐ろしいです。狩人さんより強いのではないでしょうか。

「…………グルルルル……ッ」

「あら? まだ生きていたんですか」

 肉の残骸の中に一匹、まだ動けそうな狼がいました。かなりフラフラしてますけどね。こっちに敵意を向けているのか、ヨロヨロ近づいてきます。ああ、また罪のないお花が赤く染まってしまいました。チラリと後ろを見ますが、赤ずきんちゃんは全く気付いていないようです。前しか見ていません。少しは私のことも気にしてほしいものです。……しかしどうしましょう? 今ここで赤ずきんちゃんを呼ぶのもいいですが、必要以上の犠牲(お花)が出てしまうでしょう。それは何だか気分が良くないですね。

「グルルルル……ガウッ…………!」

「すいません。あなたに恨みはないですが、これ以上はお花が可愛そうなので」

 一言断りを入れると、持っていた護身用の拳銃で狼の眉間を狙い、引き金を引きます。強い衝撃と共に放たれた弾丸は見事命中し、狼はその場に倒れて息を引き取りました。狩人さんから拳銃の使い方を指導してもらって正解でしたね。……あ、先程の狼から流れている血がお花をどんどん赤く染めてしまっています。結局こうなるのですか……お花さん、ごめんなさい。多分肉片が飛ぶよりは大丈夫なはずです。是非、自身の養分にでもして下さい。

「青ずきん遅いよ。というか今の銃声って青ずきんが……あーーー! あたし狼一匹仕留め損なってたの? 不覚……! てか何で呼んでくれなかったの!」

「赤ずきんちゃんだとお花がさらに犠牲になってしまうではありませんか」

「いいじゃん、花の十本や二十本。あー悔しい!」

「良いわけないじゃないですか……。とりあえず先に進みましょう? この先にも狼はいるはずですから」

「そうだね。この悔しさを全部ぶつけてやる……」

 赤ずきんちゃんの戦闘欲を煽ってしまったようです。これから犠牲になるであろう狼さん、ごめんなさい。今亡くなった方たちよりさらに無惨な姿となって生涯を終えることでしょう。まだ見ぬ地獄絵図(この場所も十分地獄絵図ですが)を想像しながら、赤ずきんちゃんの後を追い、森の奥へと進みます。おばあちゃんの家へは、もう少し時間が掛かることでしょう。

 

 ……え、そんなに物怖じしない上に狼への対抗策もあるのに、わざわざ赤ずきんちゃんを誘った理由ですか? だってほら、赤ずきんちゃんを一人にすると、暴れて村人を殺してしまうのではないかと怖くて心配だからですよ。

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