第64話 討伐依頼

 ソルと言い合いをしていると、セリアが目を覚ました。


「ん、おはよう、そーま」

「おはようセリア。ごめんね、起こしちゃったかな」

「もう朝だから、かまわない」


 セリアの言う通り、窓からは柔らかな日差しが差し込んでいる。朝を知らせる鐘はまだ鳴っていないようだが、人々の喧騒も少し聞こえてくる。


「今日はどうする? 大図書館に行ってみる?」

「……ギルドで依頼受けたい」

「依頼? いいけどどうして? この前結構稼げたからしばらくはいいかなって思ってたんだけど」

「お金、無くなった」

「無くなったって……銀貨六枚以上渡したはず……あっ」


 日本円にして六万円以上がなぜ二日間のうちに消えたのか。その答えを考えていると、昨日の祝杯でセリアが個人的にお酒を買っていたことを思い出す。

 かなりの量があったし、アルコールが強いお酒はこっちの世界ではちょっとした高級品だ。


 それにセリアはかなりの買い食いをしている。銀貨六枚が消えるのも無理はないだろう。


「じゃあ今日はギルドに稼ぎに行こうか」


 朝食をとったあと準備を済ませ、ギルドに向かう。朝食を食べたばかりなのにも関わらず、セリアがその途中の屋台で買い食いをしていると、昨晩からいなくなっていたフューが僕に飛びついてきた。


「フュー! どこに行ってたの? ここは僕らの村じゃないんだからあまりうろついてると、悪い魔物として退治されるよ?」


 村だとフューの存在が広く知れ渡っていたが、ここはそうではない。冒険者や兵士に見つかれば殺されてしまうこともありえる。

 フューは心外だとばかりに体を大きく伸ばし、魔法を使った。するとフューの体があっという間に見えなくなった。


「なるほどね。光魔法で姿を隠していたのか。それなら確かに見つかる可能性は低いね」


 光魔法で自分に当たる光を反射させず、そのまま透過させれば自分の姿を隠すことが出来る。動きに合わせて調節する必要があるのでかなり高度な技だが、フューはいとも簡単にやってのけた。


 ここまで誰にも見つからずにやってきた方法はわかったけど、僕の居場所はどうやってわかったんだろう。いつもフューは僕がどこにいてもひょこっと現れる。不思議だね。


「今からギルドに行って依頼を受けるつもりなんだ。フューも来る?」


 フューは、当然! と僕の頭に飛び乗ってきた。

 二人と一匹のパーティになった僕達は、ギルドの中に入った。

 ギルドには冒険者はあまりおらず、酒を飲んでいる人も本当にわずかだった。


『この時間帯だと、大体の冒険者共は働きに行ってるんだよ。依頼が張り出されるのは朝の鐘と同時だからな』


 ソルは、人目があるから魔法で文字を書かずに、念話で説明してくれた。


(へぇ、詳しいね。もしかしてソルは冒険者だったの?)

『一応な。貴族になってからやめたけど、それまでは冒険者だったんだよ』


 ソルが冒険者ね。なんだか問題を起こしまくっているイメージがありありと浮かぶよ。ソルって不器用だし、短期だから喧嘩ばっかりしてたんじゃないかな。

 根は優しいのに、色々と損してるよね。


 ギルドの掲示板に行ってみたが、どれを受ければいいのかイマイチわからない。この辺りの魔物の分布を知らないので、どの依頼を組み合わせて受ければ効率がいいのか分からないのだ。


「受付嬢に聞いてみようか。今は人が少ないし、迷惑にはならないよね」

「ん、相談する」


 冒険者登録の時も担当してくれた受付嬢がいたので、話しかけた。


「ちょっといい? ここら辺で一番魔物が多い場所ってどこか教えて欲しいんだけど」

「そうですね、ここから西の方角に歩いて三十分のところにある森が生息する魔物が多いかと。こちらがその森で達成可能な依頼です」


 僕の質問から、魔物が多い地域の依頼受けたいと思っていることがわかったのだろう。依頼書を見せてくれた。流石はギルドマスターを叩けるほどの受付嬢。かなり優秀なようだ。


「じゃあこの中の討伐依頼、全部受けるよ」

「ぜ、全部ですか。全部お受けになるとすれば、総数百体以上の魔物を討伐する必要がありますが……。中にはCランクの魔物の討伐依頼もありますよ? 依頼を失敗すると違約金を払っていただくことになるのは説明いたしましたよね?」


 諭すように受付嬢が説明する。僕達を無謀な子どもだと思い、止めようとしているのだろうけど、このくらいなら問題ない。ちゃんとこなせる依頼だ。



「うん、わかってるよ。ちゃんと達成するから心配しないで」

「私たちなら、平気」

「……はぁ、分かりました。無茶だけはしないでくださいね」


 この目は信じてないね。止めるのは無理だと思って諦めたんだろう。ギルドマスターの試験も見てたはずだけど、やっぱり子どもだから侮られているのかもしれない。

 なら結果を出して信用させるしかないね。


「大丈夫、引き際はわかってるから」


 ギルドを出て、教えてもらった森へと向かう。おおまかな地図も見せてもらったし、ソルが知っている森のようなので迷う心配はない。

 町を出てからフューに馬になってもらい、僕とセリアが乗り、森に向かって駆け出す。


 歩いて三十分の距離なのだから、フューに乗れば一瞬だ。森に入ってからはフューに元に戻ってもらい、走って魔物を探す。

 気配でどこにいるかはわかるので、魔物の発見は容易だった。


「お、ゴブリンの群れだね」


 木の陰から覗き込むと、ゴブリンが十数体いるのを見つけた。


〈ゴブリンはたしか、常に討伐依頼が出てたはずだ。放っておくと爆発的に数を増やすからな。ギルドでも討伐を推奨してるんだ〉

「じゃあ全部倒しちゃおっか」

「ん、任せて」


 セリアがそう言って一歩前に出て、魔法を放った。氷の刃がゴブリンたちの頭に突き刺さり、一撃で命を奪う。


「流石だね、セリア。魔法の命中精度が高い」


 全ての氷の刃が的確に頭に刺さっている。それも頭蓋骨という守りが無い眼球から、脳に突き刺さり、彼らを絶命させたのだ。並大抵の精度ではこうはいかないだろう。

 ゴブリンの討伐証明として、右耳を切り取った後、フューに死体を食べてもらい魔石を入手した。


 魔物の死体は、その場に放置するとアンデット化してしまうため、燃やすかバラバラにして埋める必要があるのだが、フューに食べてしまえばその必要も無い。

 フューさまさまだね。



 次に発見したのは、Cランクの魔物のオークだった。四匹が棍棒を片手に歩いている。

 森の奥に行くほどつよいまものがでるってきいてたんだけど、森に入ってすぐCランクの魔物がいるなんて、この森は結構危険なのかな?


「ソルがここに来た時は、オークとこんなに早く遭遇した?」

〈いや、そんなことは一度もなかったな。オークと言えばこの森で一番強いヤツだったはずだ。こんな浅い場所に来るはずがねぇ〉


 森の奥は空気中の魔力が濃く、魔物にとって過ごしやすい場所らしい。だからその場所は強い魔物が独占することになるのだが、なぜ強者のオークが過ごしやすい場所から離れてこんな所にいるのだろうか。


「もっと強い魔物が奥にいるってことなのかな」

〈その可能性が高いだろうな。このオークたちはそいつらに追いやられたんだろう〉

「Bランク、奥にいる?」


 セリアがポツリとつぶやく。その可能性は否定出来ない。


「少し慎重に進もうか」


 とはいえBランクならは大した問題にはならない。成長した僕達なら労なく狩れるだろう。気にしすぎる必要は無いし、少し警戒しながら進むくらいで丁度いい。


「とりあえずはオークを倒そう。肉が必要だったよね?」

「ん、お肉」


 オークは討伐依頼ではあるけど、必要とされるのはその肉だ。オークの肉は魔物肉の中でも、高級肉として売買されるのだ。

 じゃあ潰したり燃やしたりするわけにはいかないから――


 僕は飛び出し、刀をひと振りした。次の瞬間、オーク達の頭が一斉に落ち、血の噴水が吹き上がる。

 父さんが見せてくれた、魔力で刀身を伸ばす技だ。それを使って一気にオークの首を切ったのだ。オークたちは何が起きたのかもわからず死んだだろう。


 無属性魔法の物体を動かす魔法でオークを逆さまにし、血抜きを行う。頭を切り落としたので、簡単に血抜きができた。

 その次はオークの腹を裂き、内蔵を取り出してフューに食べさせる。フューは喜んで美味しそうにぷるぷる震えながら食べた。

 僕も食べたかったけど、今は森に異変があるのであまり悠長にはしてられない。


 水魔法で腹の中を洗い流して、肉をブロック状に切り分ける。最後に氷魔法で凍らせて、完了だ。


「魔法を使うと簡単だね」


 前世で山篭りした時、狩った猪や鹿の処理はかなり大変だった。それが魔法を使うとお手軽に出来てしまう。


「ソーマ、凄い」

「そんなことないよ。セリアにもできるさ。今度教えてあげるよ」


 今回みたいに肉の納品依頼なんかを受けた時には必須の技能だしね。


 その後も、依頼の魔物を討伐し続け、二時間ほどで全ての依頼を完了させた。


「依頼は終わったけど……どうする?」

「奥、行く」

〈異変を探らずに帰るなんて、お人好しのお前には出来ねぇだろ? 下手すりゃあの町、ビブリオートニスが危ねぇんだから〉


 そうだね。僕の考えは決まっていた。


「じゃあ行こうか!」

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