第2話 死後の世界

 気がつくと僕は真っ白な広間にいた。周りには人魂のようなものが沢山ある。それらは大きさも色もバラバラで、統一感はあまりない。


(あれ……? 僕は死んだ……んだよね? じゃあここは天国なのかな? 声も出ないし……今僕はいわゆる魂の状態ってことなのかな?)


 僕は状況を把握するため、周りを見渡した。これは父さんの訓練のおかげでついたクセのようなものだ。


『理解できない状況に陥った時ほど、落ち着いて、状況を確認しろ』


 父さんはこの言葉を繰り返し僕に言い放った。そしてそれが出来るようになるまで、繰り返し訓練をしたんだ。


(あぁ、寝ている間に運ばれて、起きたら森の中だったとかいうこともあったなぁ……そこから一週間サバイバルだったっけ……)


 僕は遠い目をしながらも状況の確認は怠らない。


 まず見つけたのは大きく、美しい扉だった。その扉の中に人魂たちは次々と入っていっているようだ。


(あれは何なんだろう……この人魂みたいなのが魂だとしたら……あの扉は天国か地獄への入り口みたいなものかな……)


 思考をめぐらせていると、ふと気がついた。


(もしかしたら、僕の姿も人魂みたいになっているのかも)


 恐る恐る視線を下ろし自分の体を見てみる。すると案の定、青と赤が入り交じったような人魂のようなものが目に入ってきた。


(うわぁ、僕も人魂になってるんだ……あれ? でも大きさがおかしいような……)


 僕には周りの人魂が、一番大きいものでも五、六歳の子供くらいの大きさにしか見えなかった。つまり、それだけ周りの人魂と僕にサイズの違いがあるということだろう。


(どうしてなんだろう……大きさの違いは何かを表してるのかな?)


 そんなことを考えていると、強烈な光が僕の視界を真っ白に塗りつぶした。


(ま、眩しい……何が起きたんだ?)


 僕は周囲に異変がないか確認する。すると、恐らく僕と同じくらいの大きさの人魂が、目に飛び込んできた。


 気になって観察してみると、大きさだけではなく、色も全く同じだという事に気がつく。


(僕の体は周りのどの人魂とも少しは色が違う……他の人魂同士でも色が同じものなんてないのに……どうして同じなんだ?)


 そう疑問に思っていると、体が何かに引っ張られるように動き出した。その方向は今見ていた方向、つまりあの僕と似ている人魂の方向だった。


(なんだこの力、逆らえない……!)


 僕は不思議な力に引っ張られ、どんどんあの人魂に近づいていく。どうやら向こうもこっちに近づいて来ているようだ。


 必死に逆らおうとしてみるが、体が自分のものではないかのように、自分の意思で動かすことができなかった。


 そしてあの人魂がとうとう、すぐ目の前にまで近づいてきた。


(ぶつかる!)


 僕はきたるべき衝撃に備える。だが、予想に反して、衝撃は来なかった。あの人魂とはぶつからず、接触した時、にゅるんと融合してしまったのだ。


(どういうことなんだろう。僕の予想が正しかったら僕達は魂の状態……それが融合……?? どうなるんだ?)


 僕は今の状況を理解しようと考える。だがその思考は中断された。いつの間にか目の前にあの大きな扉があったのだ。


 その扉は近くで見ると、より一層芸術的で、緻密な細工が施され、 天国の扉だと言われても信じてしまうような美しい扉だった。


(いつの間に!? あぁ、だめだ扉に入っちゃう……)


 僕の体が扉に入りかけた時、僕の体は光に包まれた。その光に心を洗い流されるようで心地よかった。


 その心地よさは天にも昇る気持ちで、自分の心と体がほぐされていき、周りと溶け合い、自分と周りの境界線があやふやになっていくようだった。


 そして、あやふやになった境界線から自分が外に溶けだしていき、流れていくのがわかった。


(あぁ気持ちいいな……だけど、だめだ。どうしてかはわからないけどこのままじゃだめな気がする)


 そう直感した僕は、その光に流されまいと必死で抵抗した。目を固くつむり、自我を必死で保つ。

 その光の心地よさは異常で、何度も身を任せてしまいそうになったが、訓練で鍛えた精神力で耐える。


 数分、あるいは数秒だったかもしれないが、その光に耐えていると、ふっと光が消えた。すると安堵する暇もなく僕の意識は再び暗転した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る