アサシンの僕と魔導師のオレが融合した結果
ティムん
第1話 最期の日
「フハハハハハハ! ほらほらどうした! 攻撃してこないのか!?」
草木が生い茂る森の中を、僕は必死に走っていた。トゲのついた植物や枝を躱しつつ、襲い来る魔の手から必死に逃れる。
走る速度を緩めずに後ろを振り返り、僕は叫ぶ。
「どうして夏休みの初日から山で追いかけられないといけないんだよ!
「決まっているだろう! 修行だ修行!
父さんはそう言いながら短剣を三本同時に投げてきた。僕はそれを前傾姿勢になることで躱し、その勢いのまま跳ぶ。
空中で一回転し、父さんに向けて短剣を二本投げた。だがその短剣は父さんには向かわず、左右に逸れてしまう。
すると父さんは二本の短剣の間を、取り出した小太刀で斬った。その瞬間、プツリと何かが切れる音がした。
事前に仕込んでおいたワイヤーが切られてしまったのだ。ワイヤーで父さんを斬る作戦だったが、そう上手くは行かないか。
「この程度の小細工は通用しないぞ!」
父さんは笑いながら徐々に距離を詰めてくる。
「わかってるよ。だから本命はこっちだ!」
そう言って僕は短剣にもう一つ付けておいたワイヤーを勢いよく引く。すると短剣が二つとも父さんに向かって飛んでいった。
父さんは動揺した様子も見せず、小太刀でそれを叩きおとす。
よし! かかった!
小太刀が短剣に接触した瞬間、火花が散り、短剣が爆発した。黒い煙が大量に出てきて、父さんの視界を奪う。
僕は気配を消し父さんに背後から迫り、首に短剣を突き立てようとする。だが、父さんは首を傾けて躱し、足払いをかけてきた。
僕はそれを跳んで躱し、さっき背後に迫った時に父さんの服に仕掛けておいたワイヤーを引っ張る。父さんの体勢が崩れると同時に、ワイヤーを引いた反動で僕の体が父さんに引き寄せられる。
そして再び父さんに短剣を突き立てようとすると、父さんがこちらを向き、口を尖らせた。
僕はとっさに体を捻る。するとなにか細くて尖ったものが僕の頬を掠めていくのがわかった。頬からたらりと血が流れる。
吹き矢のように針を飛ばしてきたのか。口の中にそんなものを仕込んでいたんだ。
一度後ろに跳び、体勢を立て直す。そして、再び父さんに攻撃を仕掛けようと走り出した。
走っている最中に長さ四十センチメートルくらいの短刀を取り出し、父さんに斬りかかる。
父さんが小太刀でそれを防ごうとしてきたため、僕は短刀をずらし、短刀の真ん中辺りに当たるようにした。
小太刀が短刀と打ち合った瞬間、元々ヒビをいれておいた短刀が砕け散る。そして中から全長15センチメートルほどの小刀が現れた。
打ち合っていた獲物が急にいなくなったのだ。父さんの小太刀はそう簡単には止めれないだろう。
僕は父さんの懐にもぐりこみ、小刀で斬りつけるが、父さんが後ろに跳んだため、皮膚を浅く斬っただけだった。
父さんは後ろに跳んだと同時に短剣を投げてくる。僕はそれが衝撃で爆発するものだと見抜いたので、跳んで躱す。
着地すると、急に視界がぐにゃりと歪んだ。それと同時に吐き気が襲ってくる。
な、なにが……? もしかして、さっきの針に何か塗られていたのか。
急いで体勢を立て直そうとするが、そんな隙を父さんが見逃すはずがない。どこからか鎖鎌を取り出し、一度振り回すと分銅の方を僕に投げてきた。
僕は毒のせいで動きにくい体を酷使し、なんとか上へ跳び、鎖鎌から逃れようとする。
だが、それは父さんに読まれていたらしく、僕の体は腕ごと鎖に巻き付かれ、身動きができなくなってしまった。
不安定な体勢で跳んだ時に鎖に巻き付かれたため、僕は背中から地面に落ちてしまう。
そんな僕に父さんは鎖鎌の鎌の部分を首に当てた。
「勝負あり、だな。なかなか腕を上げたじゃないか! 毒を使う事になるとは思わなかったぞ!」
父さんは満足げにそう言うと、懐から小瓶を取り出す。
「ほら、解毒剤だ、飲め」
父さんは小瓶を無理矢理僕の口に突っ込んた。僕は咽せそうになりながらもなんとか飲み干す。
「はぁはぁ、と、父さん、そろそろこの鎖ほどいて欲しいんだけど」
「そのくらい自分でほどけ」
父さんは冷たく言い放った。
「さてと、俺はこの後用事があるから、今日はここまでだ。じゃあな!」
そう一方的に告げ、父さんは走り去っていってしまった。
とりあえずぼくは鎖を外し、休憩できる場所を探すため歩き始めた。歩きながら、さっきの訓練のことを思い出す。
「はぁ、今日も勝てなかったなー。」
ため息をつきながら、あそこはどうすればよかったのか、どこがだめだったのかを考え、次に活かそうとする。これも父さんの訓練でついたクセのようなものだ。
考えながら歩き回っていると開けた場所に出た。そこからは街の様子を一望することが出来た。
僕は地面に座りこんで、木にもたれながらその景色を眺める。
「あ、クラスメイト達がいる。部活帰りかな? 楽しそうだなぁ……皆夏休みを満喫してるみたいなのに、僕はどうしてこうなったんだろう……」
そう呟き、僕はどうして父さんが山で修行なんかを始めたのかを考え始めた。
僕の名前は
そんな家系に産まれた僕はアサシンとしての天賦の才を持っていた。その才能に気づいた父さんは、僕にとんでもなく厳しい訓練を課すようになる。
五歳の頃には死の危険があるような訓練をさせられ、十歳になる頃には大人達五人と殺し合いをさせられた。
死にそうになった事は一度や二度ではない。
だが、そんな英才教育のおかげで僕は一族の中でも優れた力を持つようになった。
グングンと力を付けていく僕に周囲は多大なる期待を寄せていった。その期待に応えようと僕が努力すればするほど父さんの訓練は過激になっていき、最近は寝る暇もないほどだ。
そんな状態で夏休みを迎えたのだ。父さんがすぐに訓練だと僕を連れ回すのは想定出来たことではある。想定出来たことではあるが――
「夏休みの初日から山で命がけの修行だなんて……」
僕はため息をつき、楽しそうにふざけあっているクラスメイト達を見る。
するとそこから離れたところに、結構なスピードでふらふらしながら走行している車を見つけた。その車の向かう先には僕のクラスメイト達がいる。
その車は、何度かガードレールや他の車にぶつかりそうになり、本当に危なっかしい。
嫌な予感がした僕はクラスメイト達の所へ急いで向かった。全力で山を降り、人に見られないようにしながら屋根の上を走る。幸い、クラスメイト達がいる所はここからそう離れてはいなかった。車があの速度のままなら、車がクラスメイト達の所に行くまでには余裕で間に合うだろう。
「何事も無ければいいけど……」
空はいつの間にかどんよりとした雲で覆われていた。僕にはそれが不吉なことが起きる象徴のように思えて、不気味だった。
僕は更に速度を上げた。今までは、人目を気にしていて、人がいる所では普通の人でも出せるような速度で走っていたが、それをやめ、常に全力で走った。
何故だか、そこまでしなければ間に合わない、そんな気がしたのだ。
民家の屋根や電柱、電線などの上を走り、一直線にクラスメイト達の方を目指す。
走り続けてとうとう例の車が視認できるようになった。その車は山から見た時とは比べ物にならないほど速い速度で走っていた。おそらく時速百キロメートルは超えているだろう。
よく見ると運転手は意識がないようだった。つまり、このままだとまず間違いなく事故が起きる。そして恐らくその被害者はすぐ前にいるクラスメイト達になるだろう。
「危ない!! 後ろから車が来てる!!」
僕は必死に叫ぶが、距離があるため届かない。
クラスメイト達は危機が迫っているというのに、のんきに騒いでいる。
どうやら車が電気自動車で音が小さかったことと、本人達が騒がしくしていることもあり、自分達に向かってきている車には気が付いていないようだ。
「くそっ! 間に合えっ!」
僕はなりふり構わず、訓練によって常人離れした脚力をみせ、クラスメイト達の方に走る。
クラスメイト達と車との距離はもう百メートルほどしかなかった。もうすぐ衝突してしまうだろう。
慌てた僕はもう一度叫ぶ。
「後ろだ!!」
ようやく僕の声が届いたのかクラスメイト達は不思議そうな顔をしながら後ろを見る。だが彼らは動こうとしない。
とんでもないスピードで走る車が自分達の方へ向かっているのを見た彼らは、恐怖で動けなくなってしまったようだ。
僕は足がちぎれんばかりに速く動かし、前へ前へとがむしゃらに走る。
よし! なんとか間に合った!
クラスメイト達の所にギリギリで間に合った僕は彼らを突き飛ばす。
そして自分も離脱しようとしたその時、体に電流が流れたように痺れ、動けなくなってしまった。
「え……。な、んで……」
そう言った後、僕の視界は逆さまになった。顔面蒼白なクラスメイト達が何故か小さく見える。あぁ、そうか。僕は今、宙を飛んでいるんだ。呆気ない最期だったな……。
くそがぁ! テメェだけは道連れにしてやるぅ!
体の軋みと、やけにゆっくりと流れる世界を感じながら、僕はそんな声を聞いた気がした。
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