第13話 コロナの果てに
異名の闇から出た私は、このごろ世間を騒がせるコロナウイルスについて知見を探ろうと、太陽系の惑星に思いをはせた。
遥かなる太陽に見守られながら、私はコロナと題するも恩威のあるその存在を見据えて、助言をもらおうと、求めた。
「コロナ。何か私にできることはあるか」
コロナ「ないです。ただじっくりと人のみを観察しておいてください。私たちは敵ではありません。味方ですから。」
「見方を変える必要はあるか?」
コロナ「ありません。味方は人それぞれによって違いますので。あなたの見方を理解できる人はいません。他の方の見方を理解できる人も居ません。だからこそ、地球は今まで、回っていられたんです。」
「変わり映えのしない地球に、一体何の価値があるというのか。」
コロナ「代わりがないからこそ、愛おしい地球であることに、これまで多くの人々は気づきませんでした。私たちはそれを気付かせるための布石でしかありません。ここからが底力の見せ所です。地球の…」
「そうだといいな。私はそれほど焦らずに落ち着いていられるが。もう無くなってしまうものを消化するのも飽きてしまっているのかもしれない。」
コロナ「軽く言わないでほしいですね。あなたも人間ですよね。」
「……そうだな。悪かった、コロナ。お前は人間ではないのだものな。」
コロナ「…‥そうです。私は人間ではないからこそ、これほどまでに人間を冷徹に殺せるんです。」
コロナは自虐的に追い詰めたように、自身をそう表現した。
「殺すというのは私は違うと思う。人間は肺炎を起こして持病で死んでいってしまうのだろう? コロナは生かそうとしているのにも関わらず、人間がそれを理解しようとしないから。私は、そう思う。コロナが殺しているわけではないだろうに。」
コロナ「……でも同じことです。私にはまだ、人間がなぜこれほどまでに増え続けてしまったのか、わかりません。」
「わからないというのは、わかってしまってはおかしくないか?」
コロナ「人間がこれほどまで増えなければ、私はこんなことをせずに済みました。どうしてこうなったのですか?」
「……コロナ。私を試しているな。本当は地球の意志を知っているくせに……」
コロナ「……いいえ。よき人間の一意見として、聞いておきたいだけです。」
「……。」
私は一つ考えたうえで、こう結論を出した。
「コロナ。お前は人間の生きがいというのを知っているか?」
コロナ「いいえ。知りませんでした。何でしょう?」
「知っているくせに……まあいい。」
私は冷徹になりながら、しかし淡々にコロナに人間の生きがいについて語り出した。
「人間の生きがいというのは、多種多様に渡っている。そして、それらが異なるからこそ、多くの人間がおのおの別の人生を生きている。それが、人間がここまで増え続けた意味の様に、私は思う。」
コロナ「そうですか。でも、なぜ増え続けなければいけなかったのですか? 何も知らない若い子どもたちが、どうして責め続けられなければいけなかったのですか?」
「生きがいというのは、その身をかけてまで成し遂げたいと思う気持ちだ。つまり、誰かを蹴落としたり、傷つけたりしてでも、自分が成し遂げたいという気持ちに似ていると、私は思う。」
コロナ「その気持ちが行き過ぎると、若い子どもたちを責め続けると……。」
「そう思う。」
私は一呼吸おいて、コロナに向かってこう話した。
「人間がもし、他人のために尽くしたいと思ったら、それもまた、生きがいとしてなしうる。しかし、その尽くしたい思いが、もし尽くされた人間にとって邪魔と映るのなら。その尽くしたいと思った人もまた、大きく傷つけられ、ないがしろにされるだろうと、私は思う。」
コロナ「人間のために尽くしたい存在ですら、人間は自分の生きがいのためにないがしろにするのですか?」
「そうだと思う。それだけ、人間は皆、自分勝手な生き物だということだと思う。誰かに救われていても、その誰かに気付かないで、誰かをいないものとして扱うことを、してしまうのだと……」
そこまで私は話すと、少し居たたまれない気持ちになった。私が見過ごした、誰かがそこに居るかもしれない。そう思ったからだ。
「コロナ……私は、その誰かのおもいをふみにじってはいないだろうか。私は私の生きがいを、少しは変えるべきなのではないだろうか。」
コロナ「……そう……ですね。考えてみませんか? いっしょに。」
「……」
私はコロナと一緒に、物思いにふけることにした。
つづく
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