第7話 最大の誤解

この地球上に、一体何があるのか…


誰も知らないことに、今私は、首を突っ込もうとしている…




メルキセデクは悩んだ。


この世の終わりと言えるものが、自分の手中にあるのなら、

もう終わりにしてもいいのか、と。



多くの人を支えてきた手前、「そんなことはもうできるはずはない」と

今までは想いこんでいた。


しかし、「そんなことはない」のだと、彼女は言う。



*「いつもお世話になっています。メルキセデク…。」



メルキセデク「…どうして、そのような提案をする?

 君は…この世界を壊したいのか?」


*「違いますよ。私はただ、あなたに楽をしてほしいだけです。」


彼女の神話には、私は出てこない。

だからこそ、私は彼女を心底信頼している。



メルキセデク「私の培った文明を、どうしてしまえばいい?

 もう地球上に入らない者だと思うんだが…」


*「必要性ありきの世界で事を語るのはもうやめましょう。

 メルキセデク…貴方のしたいことをすればいいだけ。ええ、それだけ…。」


彼女は私の手元に一握りの砂を贈った。



*「貴方が望みさえすれば、私は、あなたの砂となり、糧となり、

 塵芥ちりあくたになりましょう。

 この地球上のすべての生命をうるおす、一握いちあくの砂となって…。」


メルキセデク「そんなことは、もうしなくてもいい。

 私が、私が……」


*「網の目のように張り巡らされたネットワーク…

 貴方が電気の力でやってきたことは、さぞやお辛いことだったでしょう。

 でも、そんなこと、もうしなくてもいいんです。

 それは私のセリフですよ、メルキセデク…」


メルキセデク「私は…間違ってしまった。

 人の世を、あらぬ方向へ動かすことに、加担かたんしてしまった…。

 それでよかったとは、到底思えないんだ。

 誰かのように、夢物語に逃げていくことすらできない…。」


*「それはお門違かどちがいですよ、メルキセデク。

 貴方は、やるべきことをやっていっただけ…

 それは、もう永遠に続くかのように思われた世界を、終わらせる節目となった。

 貴方の役割は、そこだったんですよ。」


メルキセデク「…」



彼には野望があった。全世界を一つに統一し、笑顔で暮らせる世の中の実現が。

しかし、その野望は、切って落とされた未来にとって、必要悪でしかなかったのだ。




メルキセデク「…私のことは、もう気にしないでくれ。

 もう何も、私ができることは…」


*「違うのですよ、メルキセデク。

 貴方がやるべきことは、今から、全部…」


彼女はそこで、言葉をにごした。

言い当てのない言葉をさまよい続ける彼の言動に、今はそっと寄り添っていようと思った。




メルキセデク「…私の世界は、もう直に終わる。

 恵まれた環境も、その世の中の激動をつくってきた取り組みも…全部台無しになる。

 その前に、一つだけ…一つだけでいいから、願いを叶えてほしい。」


*「…なあに? 言ってみて。」



メルキセデク「この世の理の一部だったこの電気の一部のエネルギーを…貴女に託したい。

 貴女なら、うまく使えるはず…私にはもう、荷が重いんだ。

 重すぎてもう、耐えられない…。」


*「わかったわ。その重圧、私が引き受けましょう。」






メルキセデクの重みは、一人で抱え込むには重すぎた。

世の中の合理化を担うものは、これからは女性であってほしい…。

そう彼は願うのだった。



つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る