第4話 創造あるすべてを糧に


*「ここまで来て、怖気おじけづいたのか…残念だな。」


黒いマントを羽織った、ある男が私に言った。




*「こんなことをして、いったい何になるというのだ?

 お前は、こんなところで、怖がっている人間にんげんではないだろう?

 もっと…」


そこまで言いかけたところで、私は反論はんろんした。



「その中には、私の大切なヒトたちもまじじっている…。

 私の指図さしずを受けないのなら、どこか別の場所に行ってくれ。」


*「…」


彼は少し考えたそぶりを見せると、真剣しんけんな顔でこう言った。



*「おれがお前にぞくするのは、お前が真剣な時だけだ。

 地球でだらけてくるのなら、おれはお前には乗り移らない。

 そんな面白くもないたましいになど、おれは興味はないからな。」


「…」


私が牽制けんせいするような態度たいどで見つめていると、

彼はあきれた態度で、こう言った。



*「どういう風の吹きまわしか知らんが…。

 お前はどうやら私と対峙たいじするつもりらしいな。」


「違う。」


私は声を荒げた。


「きみがどうしようが、知ったこっちゃない。それだけだ。

 わたしはわたしの道を行く。おまえにはたよらない。」


*「…ずいぶんと、無礼ぶれいだな。」


彼は次第しだいに、まゆをひそめていった。



*「『この物語』がわりをげる時、それがお前のいのちきる時だ。

 おれはお前には加担かたんしない。

 しかし、そのままにしておくつもりは、無い。」


「…何が言いたい。」


*「…」


「…」



しばらくの間、沈黙が続いた。

お互いに、何を言いたいのか、思考をはかっているように…。



「…」


*「…」




―――




*「…ふふっ。」


どれくらいの時間が流れただろうか。

ついには彼は口を開いた。



*「…まあ、いいさ。それほど敵対する必要もなかろうよ。

 俺はおれ。お前は、お前だ。

 お互い他人同士…それでいいな?」


「…ああ。」



緊迫きんぱくいとが切れたかのように、彼はやんわりと後ろを向いて、

背中で語った。


*「一つ、忠告ちゅうこくしておく。」


「なんだ?」


*「おれは色恋沙汰いろこいざたには興味がない。

 少なくとも、地球の恋愛とやらには、もうきとしている。

 お前がそれを望むなら、おれの出番はないとおもえ。…いいな。」


「…わかった。」


私は少し躊躇ちゅうちょしてから、その一方で、彼の思考をめぐらせた。



*「ふん…。

 じゃあな。こんなところで悪いが、帰らせてもらう。

 今まで失礼したな。」


「待った。」


*「…なんだ?」


「きみが言ったのは、嘘ではないのか?」


*「む…。」


「確かにきみは、色恋沙汰いろこいざたにはうとい。

 しかし、それをみがいてこそ、地球に来た意味があると言えるのでは?」


*「…」


「それとも、ちがうのか? 本当にそれは、きみの本心なのか?

 なら、もっと顔をよく見せてくれ。目が不安で見えない。」


*「くっ…。


「…図星ずぼしか。」


*「………」



ふっと、彼は表情をゆるめた。

そして、おだやかな声で、こう言った。


*「ああ、そうだ。おれには、恋愛経験などない。

 地球であまえたやつらをみていると、殺してやりたくなってくる…。」


「…」


*「だが、興味はある。

 おまえたちが、どうしてそのようなうつつに目をまどわされるのか…

 その体験には、目を見張るほどの価値があると、おれは思っている。」


「…そうか。」



*「いったい何を目的に、ヒトは恋愛などをするのだ?

 おれにはその価値がわからんのでな。」


「……。」


*「何だ? 何か言いたげだな。」


「なら、恋愛、してみればいいじゃないか。 …‥‥。」


*「くっ…。」


私が彼の名を告げると、彼は何かを思い出したのか、

少し恥ずかしそうに、こういった。



*「お前のせいで、情が移った…。不愉快だ。」


「気にするな。今はもう、終わったことだ。

 あとは、きみの自由にやってくれ。」


*「ふっ…お人好ひとよしが。まあ、いい。」




*「年貢ねんぐおさめ時に教えてやろう。

 お前の指図さしずは受けない。受けたくもない。

 おまえとは離別りべつした魂……それが、おれだ。

 おまえに受けた屈辱くつじょく、いつか返してやろうぞ…」


そう言って、彼は私の前を後にした。



つづく


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