第2話 守護霊との対話

*「もういいのですか?

 心残こころのこりは……ないですか?」


1人の守護霊しゅごれいがささやく。

私はこう答える。


「何が『心残り』だ。そんなもの、とうの昔に置いてきた。地底ちていにな。

 地上ちじょうに心残りなど、あるはずがなかろうが。」


*「ふふ。そういう態度たいどは嫌いではないですよ。

 ですが……」


しばし時を止めて、彼女は考える時間をくれた。




*「どういうわけか、『その物語』が終わるまでは、あなたの出番はなさそうです。

 きっと、いいことをする時間をくれているのでしょう。

 何も気にせず、ただひたすらに前を向いて、走り続けるのもいいですよ。

 たまには。」


「言いたいことはそれだけか。

 どうしてそこまで、『その物語』に加担かたんする?

 地上の資源など、すべて仮初かりそめの手段にすぎないというのに……。」


*「あなたがそう思っているのは、分からなくもないですが。」


彼女はひらりと身体を返したかと思うと、そこには大きなブラックホールが垣間かいま見えた。




*「思っているよりも、地球の波動は、そう簡単には取り込めないようです。」


「……。」




*「私が今この状態を続けていると、あなたに身の危険がおよぶことになります。

 でも、それでも新しい世界をつくるためには、必要なこと。

 どうかわかってください。

 創造と、吸収の、ついとなる意味を。」


「……わかった。」



いつもの軽い冗談かと思えたが、彼女の口調くちょうにははきはきとしたものは見られず、

ただ何かを必死でえているようにも見えた。

これがまやかしであっても、もしかすると、もっと別のものを背にして、

今日も絶えず戦っているのかもしれない。

そういう気持ちを汲むと、私は何も言えなくなった。



*「……冗談にしては、よくできているでしょう? このブラックホール。

 宇宙の一つくらいは、軽く丸め込めそうですよ?」


「冗談はよしてくれ。そんなたいそうなものを出されても、何も変わらない。

 地上は、自らの手で変えていくものだ。

 外部の助けはらない。」


*「へぇ…。」




少し動きを止めたかと思ったら、

彼女はまたたく間に姿をりゅうに変え、

その白いかがやきを見せつけて、こういった。



*『あなたが何をしようとも、私のやることは変わらない。

 壊す時は壊すし、直す時は直す。

 それが、私のやり方だから。

 …さからうのなら、どうぞご勝手かってに。』


「…行ってしまった。」



どうやら機嫌きげんそこねてしまったらしい。

いや、逆か。

「安心した」のかもしれない。




彼女はいつも、「心配ない」と判断すると、私の前から去る。

私が何かに強く依存いぞんしていないか、つねにチェックしているのだ。


誰かにたよりきりの生活では、自らの人生を生きるなど、到底とうていできやしない。

そういう部分を、身をもってわからせてくれる分だけ、彼女は信頼しんらいあたいする。



「誰かの力を使って世界を変えるのは、地上の人生ではそぐわない。」

私はそう思っている。

だからこそ、彼女がいかに大きな力を持っていようとしても、それにたよろうということはしない。


それがわかっているからこそ、私はいつも、彼女に頼らないそぶりを見せる。

そして、彼女は私を、大きな力で挑発する。

私が、大きな力に惑わされないように。

けん制のけ引き……それが楽しいのだ。



「次は誰が来るかな……楽しみに待ってよう。」

今日も私は、そこでひつを置く。

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