第15話 帰還
「ほぅ、言うだけあっていい腕しているな……」
目の前では、園長とメイが激しく武器を叩き付け合っていた。
ジャリどもは危ないからと、かなり遠ざけて軽く結界で囲んである。万が一があったらまずいからな。
メイの本気は知らないが、相当の手練れだというのは分かっている。
そして、園長。恐らく、何らかの魔力が込められた剣だろうが、メイの鋭い一撃をかわし、俺の目でも追うのが限界なほどの突きを繰り出している。
両者の腕は拮抗していた。かなり、ハイレベルな戦いだ。
しかし、もう開始から三時間……頃合いだ。
『メイ、決めろ』
俺は思念でメイに言葉を飛ばした。
「ハッ!!」
俺には答えず、メイは殺気すら伴った連続攻撃を放った。今までより数段速い。これが、メイの本気……。
それに呼応するかのように、園長の速度も上がった。
もはや、試合ではない。このままではいかんな……。
俺は素早く呪文を唱え、二人の間で小爆発を起こした。吹っ飛ぶほどではないが、二人は動きを止めた。
「ドローでいいな。ジャリの前で殺し合いなどするものではない」
俺の言葉に、二人ともハッとした表情を浮かべた。
「いかんいかん、熱くなりすぎてしまったようだ」
「危ないところでした……」
全く、手が掛かる。
「しかし、二人ともいい腕をしていたぞ。メイにも驚いたが、園長も凄い。少なくとも、俺は戦いたくない」
俺は二人に最大限の賛辞を送ったのだが、果たして通じたかどうか。
「ムツにそこまで言わせるとは……。園長、私たち誇っていいですよ」
どうやら通じたらしい。メイが破顔して園長の肩をバンっと叩いた。これまた珍しい行動だ。
「あはは……。さて、子供たちもすっかり冷えてしまった事でしょう」
こうして、自由時間は終わったのだった。
「よし、こんなものか」
俺は相変わらず施設の改装をやっていた。メイは、今頃ジャリどもの相手をしているはずである。
国王から特に指示はなかったが、園長と話しをして、ここの滞在期間を一週間と定めた。
今日が二日目なので、あと五日である。
改修作業もほぼ終わりと言うとき、けたたましい警鐘がなった。
あまりたくさんいないが、一応、園長の他にも泊まり込みの職員がいる。
「何だ?」
つぶやきながら、俺は周辺警戒魔法を使っていた。
すると、なにかバカデカいものがこちらに向かって接近してきている。
「スノーマンです。この時期だけに現れる魔物でして……」
いつの間にやってきたのか、園長が困り顔で言った。
「スノーマン……要するに、雪だるまだろ?」
言ってから、俺は呪文を唱えた。
……目標ロック。距離一キロ。
「フレア・アロー!!」
火炎系最強魔法。コイツの便利なところは、必要に応じて分裂も一点集中も出来る事だ。
今は敵が一体。当然、一点集中だ。余すところなく、その破壊力を発揮出来る。
放たれた火炎の矢は、遙か高く舞い上がり、一気に急降下して目標にぶち当たった。
「……なに?」
周辺警戒魔法によると、全く効いていない。さほど動きは速くないが、確実に接近してきている。
「大きすぎるのです。魔法より、これで叩き壊した方が早いです」
園長は剣を見せた。早く言え!!
『メイ、出番だ。戦闘態勢で庭に出てこい!!』
思念を飛ばしつつ、俺は園長を伴って庭に出た……デカ!!
まだ一キロ近く離れているのに、そそり立つような超巨大雪だるま野郎が見えている。
「特に攻撃はしてきません。とにかく叩いて壊すのみです!!」
園長が叫んだが、あんなもんどうするんだ?
「お待たせ……うわっ、またヘビーそうなものが……」
ズルズルと接近してくる雪だるまを見て、メイが嫌そうな声を出した。
「よく分からんが、ひたすら叩いてぶっ壊せばいいらしい。一応、魔法で援護はするが……さっきフレア・アローをぶち込んであれだ。あまり期待はするな」
「はい」
気を取り直したようで、メイは斧を構えて巨大雪だるまを睨み付けた。
「では、行きましょう!!」
剣を片手にした園長に続き、メイと俺は正門を抜けて雪原をひたすら走った。
そして、ズズズ……と不気味な音を立てて進む雪だるまの足下に来ると、メイと園長が同時に攻撃? を始めた。
メイと園長の連携によって、あっという間に崩されて行くが、なにせ物がデカい。
俺もありったけ魔法を叩き込んではいるが、コイツただの雪の塊じゃない。何らかの対魔法結界で守られている。ほとんど効き目がない。
「施設までおよそ百メートル。間に合わないぞ!!」
この質量で突っ込まれたら、せっかく直した施設が粉々だ。
どうする、考えろ……。
その時、俺は自分を殴りたくなった。なぜ早く気が付かなかった!!
「メイ、園長、離れろ!!」
二人がパッと雪だるまから離れた瞬間、俺は魔法を放った。
「落ちろ、ボケナス!!」
呪文名もない俺のオリジナル。メイをからかうために創った「落とし穴」の魔法。
それを最大級に拡大して、雪だるまの足下に穴を空けてやったのだ。
ズゴゴっと地鳴りのような音を立て、雪だるまは地中深くに消えて行った。
「最初から、こうするべきだったな」
メイと園長が唖然とする中、俺は誰ともなくつぶやいたのだった。
約束の期間が過ぎ、俺とメイは王都へと帰還する事になった。
「何から何まで、お世話になりました」
園長の言葉とジャリどもの黄色い声、そして、いちいち上手い演奏に送られ、俺たちのソリは雪を蹴立てて雪原を進んだ。
「ムツ、今回は大活躍でしたね」
「今回はではない。いつもだ」
それにしても、慰問なら慰問と言えばいいものを……。
「王都に帰ったら、少し羽根を伸ばしましょう。せっかくですからね」
「そうだな。悪くない」
田舎村に住む俺たちにとって、都会の王都に行くというだけでも、ちょっとした旅行なのだ。
少しばかり遊んだところで、バチは当たるまい。
メイの操るソリは、どこまでも広がる雪原を、ひたすら進んでいくのだった。
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