第11話 メイの覚醒?

 メイの家には地下室がいくつかあり、そのうち何部屋かはまだ入った事がない。

 日向ぼっこを終え、いつもの地下室で昼寝していると、ガチャガチャとなにか金属音が聞こえて目が覚めた。

 そっと通路に出てみると、今まで入った事のない一室が開いていた。隠密行動は猫の必須技能だ。足音と気配を消してその部屋に入ると、浮かない表情でメイがとんでもないモノを持っていた。

 丈は人の背を越え、巨大な刃はなんでも叩き割りそうだ。

 そう、メイが持っていた者は斧。それも、戦いのために作られた戦斧というやつだ。

 おおよそ、彼女に似合う代物ではなかったが……。

「あっ、ムツ。きたんですね」

 斧を持ったまま、彼女は苦笑した。

「ああ……。なんだ、そのバカデカい斧は?」

 ゆっくりと彼女に近づいていき、俺は疑問そのままに問いかけた。

「ええ、私のウチは代々戦士の家系でして。私もみっちり仕込まれているんですよ」

 メイが戦士ねぇ……。

 ああ、戦士っていうのは、こういう重破壊武器を扱う白兵戦のエキスパートだ。

 似たようなので剣士もいるが、こっちはどっちかっていうと速度重視になる。

「どう考えても想像がつかん。ポンコツ……」

 瞬間だった。メイがどう見ても重い斧を当たり前のように振り回し……なに、目で追えん!?

 ビュゴーっと猛烈な風が吹きぬけ、俺の頭上に斧の刃があっメイがその気だったら、今頃俺はこの世にいない……。

「ば、ばかやろう、ごめんさいじゃねぇかこのやろう!!」

 ちょっぴり半泣きになっていたのは秘密だ。ちょっぴりだぞ。

「ああ、すいません。実際にお見せした方が早いかと……」

 メイは斧を引っ込めた。

「本気で死ぬかと思ったぞ……それにしても、これだけの才がありながら、なんで魔法使いなんだ?」

「ムツも知っての通り、私は戦闘行為が苦手です。格好付けたいい方をすれば、守りたいんのです。これは、戦うための存在している戦士としては致命傷なんですよ。戦士としても半端、魔法使いとしても半端、時々、こうして斧をみて気を引き締めているんです」

 ……ポンコツだな。やっぱり。

「なら、どっちもやればいいじゃねぇか、戦士と魔法使い。半端もん同士足せば、一人前になるかもしれねぇぜ?」

「えっ?」

 メイが声を上げた。

「一緒にやっちゃいけないって法があるわけでもないだろう。あー、これから俺らしくないない事言うぞ。守りたいって言ったが、そのためには戦わなきゃならん事もある。先日の村は遅かったが、もし間に合っていたらどうする? 拷問みたいに胸板に穴を空けるなんていう汚れ仕事は俺がやるが、真っ向勝負となればお前もちっとは役に立ちたいだろう? 持っている能力を使わないなんていうのは愚の骨頂だ。その戦士の能力と攻撃以外は強い魔法使いの能力が合わさってみろ。そこらの敵なんざ目じぇねぇ」

 それだけ言って、俺は部屋を出ようとしたのだが……。

「ちょっと待って下さい。あれは、確か……」

 ガチャガチャ引っ掻きまわしていたと思ったら、メイの姿が変わった。

 野暮ったい魔法使いの服から、いかにも動きやすそうな軽装鎧に着替えたメイは、いかにもそちらの方が自然という感じだった。

「フン、ちっとは見られるようになったじゃねぇか」

 こうして、少なくとも俺はあまり聞いた事のない、メイという名の魔法戦士が誕生したのだった。


 とはいっても、今は冬である。

 基本的には家の中だが、魔法の練習と斧の鍛錬だけは雪が積もった庭でやる。気合いが入ったらしいのはいいが……。

「お、おい、もう勘弁してくれ……」

 俺を仮想敵としての追いかけっこである。いまだ、俺はメイの斧を避ける事に成功していない。鋭すぎて、全く捉えられないのだ。こいつ、こんな能力が!!

「まだ実家にいたころの、半分もこないしていないですよ。ムツがやめるならやめますが……」

 ……ムカ!!

「おうよ、かかってこい!!」

 数分後、俺は本当に足腰立たなくなって、メイに運ばれて家の中に入った。

 ……まさか、あのメイに負かされる日がくるとは。

 なにか新境地を見つけたのはいいが、少し加減してくれ……。


「あっ、この斧の銘ですか? 『カール・グスタフ』といいまして、一応、家宝級なんですよ。実家を出てきたときに渡されのですが、正直重荷でしかありませんでした。ああ、重いっていう意味ではなく‥‥」

「分かっている。俺はそこまでバカではない」

 夕食後、斧の手入れをしながらのちょっとした座談会とでもいうか……。俺とメイは今で話し込んでいた。

「戦を生業とする戦士にはなりたくない。ならばと飛び込んだのが魔法学校でした。幸い人並みの魔力はあったようで、上位魔法使いにもなりましたが、結果として納得いかないどっちつかずの状態になっていまして。ムツのお陰です」

「使い魔としての仕事をしたに過ぎん。主の迷いは俺にも影響するからな」

 格好付けて言ったわけではない。いざという時に迷われると、思念で繋がっているこちらの判断にまで、影響が出る可能性がある。それを潰しておきたかったというのは、嘘ではない。

「やはり、ムツを使い魔に選んで正解でしたね。痛い思いをした甲斐がありました」

「だから、それを言うな……」

 ったく……。

「あわわ、そういうつもりでは!?」

「分かっている。そういうつもりだったら、今頃猫パンチだ」

 ナチュラルにやるからな、コイツは。

「あ、ああ、そうだ。こんな事も出来るようになりましたよ」

 強引に話題を変え、メイは斧を構えてなにか呪文を唱えた、すると、その刃がもの凄い熱量をもった火炎に包まれた。

「あちち。よせ、家が燃える!!」

 今度は、強烈な冷気を放つ刃だ。

「魔法剣ならぬ魔法斧か……お前、どこまで進化するんだ?」

 半ば唖然としてしまいつつ、今は普通の斧に戻ったそれを見つめてしまった。

「はい、呪文構成は元から考えてあったのです。やってみるものですね」

 なぜだろう、メイがすごく生き生きとしている。いいことだ。

 こうして、俺たちは少しだけ夜更かしをしたのだった。


 その日の昼頃だった。村の警鐘が鳴ったのは。

「自警団全員集合。関係のないものは屋内に!!」

 村長のデッカイ声が聞こえた。

「どうした?」

 村の広場で声を上げていた村長に声を掛けた。

「ああ、スノー・ウルフだ。三百近いかもしれん。お前たちも手伝ってくれ!!」

 俺は急いで周辺探査魔法を使った……いるわいるわ。

 スノー・ウルフとは、この時期だけ出現する狼に似た魔物だ。全身真っ白な被毛に覆われている事からこの名が付いたが、群れで村や襲う厄介者だ、

「なんだ、この異常な数は。多くても、せいぜい三十くらいだろう?」

 それでも、この程度の規模の村なら、感嘆に滅ぼせるだけの力を秘めている。それが、三百っておい!!

「自警団の人数は?」

 メイが冷静に村長に聞いた。

「十名だ。全員装備は竹槍で練度は低い」

 ……ダメだ。終わった。

「ムツ、同時に何目標攻撃可能でしたか?」

「ああ、二百八十六目標だ。現在三百二目標捕捉」

 言いながら、すでに攻撃魔法の準備はしている。まるで、村を表と裏から挟むように来ているが……。

「村長、自警団の皆さんは裏手で警戒を。ムツ、裏手の敵を殲滅して下さい。残った表面の敵を私が潰します」

 ……本当にメイか?

 凜として指示を出す彼女に、誰も反論はしなかった。

「おい、メイ。これはお前のいう、何かを守るための戦いだ。抜かるなよ」

「はい!!」

 こうして、戦闘は開始された。


 役立たずの自警団員がそれなりに配置についたところで、俺は裏手側の反応全てと表側の可能な限りの反応全てをロックした。

「フレア・アロー!!」

 俺の頭上に現れた二百八十六本の目映い光りの矢が一気に上空に打ち上がり、村の周囲は大爆発の嵐が吹き荒れた。

「裏手殲滅。表面残数三二頭。急がないとな……」

 当たり前だが、相手は均等な数に割れていたわけではない。裏手を集中砲火したため、表面にかなり多く残ってしまった。先も言ったが、この数で村を一つ出来るのだ。

 俺は急ぎ村の表門を抜け、表面に回った。そこでいきなり出くわした。三頭のスノー・ウルフと対峙しているメイと。素早い一撃で一頭を屠ったが、残り二頭が同時に跳んだ。

「ファイア!!」

 低威力とされる魔法だが、俺が本気で使えばひと味違う。一瞬で二頭を包んだ炎は、骨になるまで焼き尽くした。

「よぅ、頑張ってるな」

「ムツ、助かりました。一気に叩きましょう」

 斧を構えながら、メイが言った。

「言われなくても。さっきの一撃でいい感じでばらけてる。お前は左側から回り込め。俺は右側からいく。敵の位置は意思共有で分かるだろし、俺の位置は元々分かるだろ?」

「はい、では掛かりましょう!!」

 そして、俺たちは雪原を駆け抜けていく。組織だって来られたら辛かったが、てんでばらな今なら余裕……とは言わないまでも、どうにか対処は可能だった。

 さすがの俺も魔力がヤバいな……と気をそらしたとのがいけなかった。茂みに隠れていたスノー・ウルフが、いきなり飛びかかってきた。

 ……しまった!!

 本気で焦ったその時だった。バキンっともの凄い音がして、スノー・ウルフが真っ二つになった。凄まじい量の体液を頭から被り、気分は最悪である。

「ムツ!!」

 斧をドスッと地面に立て、こちらに近寄ってきたのはメイだった。

「ああ、無事だ。見た目は最悪だがな……」

 俺は思わずため息を吐いた。

「良かった……」

 ビチョビチョの俺を抱え上げ、メイは安堵の息を吐いた。

「で、合流したってっことは、今のが最後か……」

 一応、魔法で辺りを探査した俺は、そっと胸をなで下ろした。

「はい、帰りましょう!!」

 こうして、小さな村の結構大きな事件は、解決したのだった。

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