1-12

***


「蒔杜の事、頼んだぞ」


 俺はそう言って靴を履いた。


「うん。唯我も気をつけてね」


 玄関先まで付き添ってくれた女々が、心配そうに言った。


「そんな顔すんなって。後は俺たちが何とかするから、俺達は一週間ゲーマーズ、だろ?」


「うん!!」


 それを聞いて、女々は嬉しそうに笑う。


「じゃあ行ってくる」


「待って」


 靴をしっかり履き、立ち上がって玄関の扉に手をかけた時、女々に呼び止められて咄嗟に後ろを振り向いた。


「!?」


「口は本番用、だから今はこれで」


 振り返った突如、それに気づく間すらなく、俺の頬が小さく濡れた。


「女々」


「頑張って。大好きだよ、唯我」


 にこっと女々は手を振り出す。


「あぁ、行ってくる」




***


 夕日も完全に沈んで辺りはすっかり真っ暗になったそんな道を俺は必至に走っていた。

 全速疾走とはまさにこの事。ゲームを開始してから今日が最後の夜と女々に聞かされた俺は周りなんてお構いなしに駆け抜けていく。

 自分的には普通に走っているだけなんだが、きっと道行く通行人は俺を色眼鏡で見ているだろう。

 生まれつきの三白眼に必至になって風をすり抜ける顔はまさに鬼。そりゃ、そんなのが全力疾走してたら変な目で見られてもおかしくない。


 だが、今の俺にはとにかく時間がない。今日が最後の夜だとすれば、明日の夕方にはクリアしないと行けない。逆算して今から始めたとしても、明日の朝までにクリアしたい。

 こちとら学生なのだ。間にある休み時間でクリアは難しいし、効率的ではない。なら、今から始めて朝までにクリアが妥当。

 それに俺はこの数日、一回もそのゲームをプレイした事がない、いわば初見プレイ。

 攻略するにしたって時間が欲しい。


 話では今、藤菜が第五ステージをしている。クリアしていたとしても残り二ステージ。

 とにかく急いで部室に走るしかない。


「ゲーマーなめんなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



***


「はぁ……はぁ……」


 息を切らしてようやく辿り着いた学校にばれないように裏から入って部室を目指す。

 校舎は完全下校で生徒もいなく、静まり返っている。

 そそくさと部室前までやってきて、その扉を開けた。


 そこで中央の机に一台のパソコンを置いて、真っ暗の教室でゲームを進める藤菜と目が合った。



「君なら来ると思った。君は私と同じ目をしているから」


 にっと笑って扉を閉めると、藤菜に近づく。


「悪い。待たせたな状況は?」


「うん、それが……」







「まだ第五ステージ!?」


 驚愕して思わず大きな声を出してしまう。


「お前なら、第六ステージに進んでると思ったけど」


「ごめん。第五ステージはRPGなんだけど、ここから進めなくて」


 見れば、どうやら旅の途中の中ボスに手こずっているようだった。


「わかった。藤菜は少し休め。後は俺がやる」


「ありがとう」


 言って藤菜は席から立ち上がって別の椅子に座った。

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