1-9
***
翌日いつもの様に俺を起こしに来た女々は、どこかいつもと違く、落ち着いていた。
「唯我、昨日はごめんね」
そういった目はどこか何かと戦っているようにも見えた。外で待ってるね。一言そう言った女々は静かに部屋を出た。
「なぁ、蒔杜」
四人で登校する中、俺は前を歩く女々と藤菜に聞かれないように横の蒔杜に話しかけた。
「ん、何」
「今日の女々、何かおかしくないか?」
「うん……もしかしたら昨日の事を気にしてるのかもね」
そのレスポンスに蒔杜も女々の異常に気づいていたかと少し安堵する。
「女々が怖がってたあのゲームどうなった?」
「昨日、藤菜さんと二人で下校時間ぎりぎりまでやってクリアしたよ」
それを聞いて蒔杜の顔を見る。
「本当か?」
「クリアしたのは藤菜さんだけどね」
「そうか。じゃあ女々が怯える事もなくなるわけか。まぁただのゲームだけどな」
「いや、唯我。クリアしたのは第一ステージだけだよ」
そういう蒔杜の顔にどこか恐怖を感じた。
***
今日の一日といえば、休み時間もお昼休みも小休憩も空き時間は、三人揃ってパソコンに噛り付いていた。そこにはいつもと違う違和感があり、何かそわそわする。
極め付きは放課後。もえちゃん先生の挨拶が終われば、それこそ秒で部室に連行されるいつもが今日は訪れなかった。
教室には幼馴染も藤菜の姿もない。きっと部室に行ってあのゲームをしているんだろう。
まさか、みんな女々に感化されてあのゲームを信じちまってんのか。
こんなの絶対おかしい。本当は今すぐにでも部室に行ってそれを確かめたい。
でも、怖くてその勇気が出ない。
……もしかして、あのゲームは女々の言うとおり、本当?
だからこんな明らかにおかしい違和感が生じている?
あーダメだ。俺まで飲まれるな。冷静になれ。ゲームはゲームだ。滅亡なんてしない。
考えすぎで頭の痛くなった俺はその日、部室に行く勇気もなく、確認もしないままに一人で帰路についた。
***
あれから何日が経ったかは数えてない。状況も分からないまま数日が経ち、ついには朝一緒に登校することもなくなった。
俺はあれから一回も部室には顔を出していない。
あいつらともまともに会話もしていない。ずっとゲームをしているから、話しかけづらいのだ。こんなにギクシャクしたのは生まれて初めてだ。
つまるところ、俺は一人になった。
一人で起きて、一人で登校して、一人で昼飯食って、一人で帰る。
でもこの日、数日続いた日常と、違う変化が起きた。
「唯我ぁ!!」
突然の喪失感。胸のざわめき。日常の崩壊。不安な未来。急に押し寄せたその大きな壁に立ちふさがれて、気がつけば俺は誰もいない夕日が差し込む教室に一人でぼっとしていた。
そんな放課後の一幕。
ここ数日何かにとりつかれた様だった幼馴染がそこに立っていた。
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