1-8

***


 学校全体に下校のチャイムが鳴響き、残っている生徒はぼちぼち校門を抜けて帰路に着いていく。


それは俺達も例外ではなく、なかなかクリアできない「悪魔のゲーム」を尻目に部室を出て昇降口に辿り着く。


「惜しかったね、ぽぽっち。もう少しでクリアだったのに」


 黒いローファーを下駄箱から出して、女々は横の藤菜に言った。


「ホントよ。何回もリスタートしてようやくゴール手前まで来たのに! このチャイムが憎いわ」


 あの後、藤菜が挑戦した「悪魔のゲーム」は進んでは死に、進んでは死にを繰り返し、ようやくゴール間近まで来たのが最後の挑戦になった二十五回目の事だった。時間がなかった為に屈辱の自滅を余儀なくされた一戦。


 俺と蒔杜の前の二人はその話をしている。


「でもさ、最初は遊び半分だったけど、本当に滅亡したりしないよね?」


 女々がまだ心配そうな顔をして言う。


「大丈夫だって。お前はその~あれだ。漫画の読みすぎだ」


 不安がる女々の頭にそっと手を置いて、安心させる。


「いひひ。そっか。そうだよね」


 撫でられたのが嬉しかったのか、あっという間に表情を変えて口角をあげる女々。


「よし、じゃあ行こうか」


 蒔杜が言って、俺達は学校を出て、帰路についた。



***


 次の日、女々の猛烈ラブコールで目を覚ました俺は、学校の準備を整えて家を出た。


「おはよう。唯我」


 家を女々と一緒に出ると、家の前で蒔杜がいつもの様にニコニコ笑って挨拶をした。


「おはよう蒔杜。……ってあれ?」


 蒔杜に挨拶を返すと、その後ろに通学カバンを膝の前で両手で持った藤菜が蒔杜からひょっこり顔を出していた。


「藤菜じゃないか。どうした」


「おはよう。みんなと一緒に登校したくて来ちゃった」


 可愛らしくぺろっと舌を出して、おどけて言った。


「昨日あたしが教えたの、ぽぽっちに」


 言って女々はぴょんぴょん跳ねながら、家の敷居を出た。


「きゃ!?」


 そこで何もないところで何故か着地に失敗した女々は思い切り盛大に、その場で転んだ。


「大丈夫か、女々。気をつけろよ」


 近くにいた俺がすぐに前のめりに倒れた女々に手を差し出す。


「ごめんごめん。ありがとう唯我」


 言って女々は俺の手を掴んで、立ち上がる。


「おっかしいな。ちゃんと着地したつもりだったのに」


「女々はおっちょこちょいだからね」


 ははっと笑って蒔杜が言った。


***


 放課後部室に集まった俺達は、混乱しているのか大きな声を上げる女々をなだめていた。


「だからこのゲームは本当なんだよ!!」


「分かったから一旦落ち着けって」


 何故女々が突然こうなったか、今日一日過ごしていて、度々ポルターガイストに遭うと言い出したのだ。

 ポルターガイスト。それは怪奇現象の一つで、物が独りでに動き出したりする現象の事。

 そんな怪奇現象に見舞われるのは、この「悪魔のゲーム」が本物だから。

 ゲームの始めに目安は一日一ステージクリアと書いてあった為に、昨日クリアするべきだった第一ステージをクリアできてないから突然こんな事が起きてると女々は語る。


「それにあたし今日だけで四五回は転んだよ? 唯我起こしに行く時もだし、家出るときも、学校でだって転んだし。急にこんなに転ぶのおかしいよ!!」


 治めえようとするが、一行に治まる気配がない。と、いうのも女々は大のホラー嫌いでその手の物は苦手中の苦手なのだ。


 なかなか治まらない女々に仕方なく、最終手段を使う。


「怖いよな。俺が一緒にいてやるから大丈夫だ。だから落ち着け……なぁ?」


 言って女々を優しく抱き寄せて、包み込む。


「……うん。唯我がこうしてくれれば怖くない」


 最終手段は効果覿面こうかてきめんで女々はあっという間に落ち着きを取り戻す。


「なぁ、蒔杜。藤菜。悪いが今日は女々と先に帰る。いいか?」


 蒔杜と藤菜の方を向くと、二人はその方がいいと気遣って、俺は女々を連れて岐路についた。

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