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 それから数時間四人で時間を共有し、気がつけば転校生、藤菜たんぽぽと意気投合していた。特に同姓だからか女々と藤菜は物凄い仲が良くなり、俺らの放課後の溜まり場にいつでも来ていいという権利も貰った藤菜は完全に俺らの友達になっていた。


「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! また負けたぁ!! ぽぽっちゲーム強すぎぃ!」


 十五連敗した女々は悔しく声を上げると、コントローラーを机に置いて天井を見上げる。ちなみにぽぽっちとは、藤菜の事だ。


「いえーい十五連勝」


 ピースを片手に笑顔の藤菜は、流石に疲れたのか、ぐびぐびといい音を鳴らして炭酸飲料を身体に入れていく。


「みんな見てこれ」


 俺達がテレビの前にせせこましく集まる中、テレビから少し離れたところでノートパソコンをいじっていた蒔杜が声を上げた。


「面白そうなもの見つけたよ」


 どれどれと興味に誘われて、俺達はみんなで民族大移動のごとく蒔杜のいるパソコン前に集まった。


「悪魔のゲーム??」


 ディスプレイに映し出されたそのタイトルを頭にはてなを浮かべて呟いた。


 それはいわゆる自主制作の無料で気軽に遊べるフリーゲームという奴だった。フリーゲームとは、主にパソコンゲームの事を指し、インターネットやパソコンが普及してきた昨今、無料ということもあり、その需要性が高まっている文字通り、自由なゲームだ。作品によっては商業化を果たし、商品としてメディア展開されるものも少なくない。


「このゲームを始めて一週間以内にクリアしないと地球が滅亡するゲームだって」


 フリーゲームを取り扱っているサイトでそれを見つけたらしい蒔杜は、わくわくした様子でそう言った。


「何それ面白そう!! ねぇ、ぽぽっち」


「そうね、ジャンルは何なの?」


 両太ももに両手を置いた屈んだ体勢でディスプレイを眺める藤菜は言った。それを聞いて、蒔杜はマウスを動かして概要欄をチェックする。


「えっと、制作者……フォレ男。全七ステージあるバラエティジャンルだって」


「バラエティジャンル? 聞かないわねそんな言葉」


 手を太ももから退けて直立した藤菜は、腕を組んで首を傾げた。


「何か色んなジャンルがあるんじゃない? 面白そうじゃんやろうよ、これ!!」


 藤菜の隣の女々は両手をぶんぶん縦に振って興奮した様子で言った。


「もしこのゲームが本当なら、私達は地球の滅亡を阻止する正義のヒーロー……そうだな、一週間ゲーマーズだよ!!」


 その場をくるくる回って両手で拳を前に突き出す動作を何回か繰り返し、パソコン前の俺達三人を見て、女々は自慢の八重歯を見せ付ける様に笑った。


「くだらねぇ。これはゲーム。やって一週間経った所で滅亡なんてしねぇよ。大体、これはフリーゲームのサイトに投稿されたものだ。誰でもできるゲームなんだぞ? クリアできない奴が続出したら、地球何回滅亡すればいいんだよ」


「もぉ~唯我はまたそんな事言ってぇ。いいじゃん少しは夢見たって」


 女々が俺のマジレスに頬を膨らませて、怒る。


「本当の事だろ」


「でもぉ~」


 俺と女々はいつもの事ながらぶつくさ喧嘩を始める。そんな俺達を軽くスルーして、蒔杜はかちっとマウスを押した。


「蒔杜、お前」


 つっかかる女々を押さえながら、顔を蒔杜の方に向ける。ディスプレイから俺を見て蒔杜は言った。


「夫婦漫才の時間かと思って」


「だから、夫婦漫才じゃねぇ!!」


「ナイス、蒔杜。ほら、インストール始めちゃったんだからここまで来たらやろうやろう」


 陽気にそう言って女々は再び、パソコンの中を覗き込んだ。


「ほら、ここに難易度激むずって書いてあるよ」


 パソコンの中の概要欄を指差して、俺を説得するように言った。


「やるのは勝手だが、俺はノータッチだ」


「何で何で!! 唯我も一緒にやろうよ、今のフリーゲームの激むずは本当に激むずなんだよ、ゲームが上手い人いないとクリアできないよぉ」


「藤菜がいるだろ」


「そうだけど、上手い人は一人より二人。多いほうがいいに決まってるぅ」


 俺は今までこのしつこさに負けて、嫌々ながらゲームをしてきた。それは単にゲームがトラウマになっても、ゲームが嫌いになっても女々や蒔杜と一緒に居たかったからだ。


 こいつらは俺にとって、家族同然の存在。そのためなら、嫌なゲームもして来れたんだ。


 でも、俺も人間だ。つまんない事で意地張ったり、意固地になったりもする。こいつらの想いも知らずに、余計な事を言ってしまう。


「上手いと好きは違う。たとえゲームが上手くても、俺はゲームは嫌いなんだ」


 瞬間、場に沈黙が走った。


 ハッとしてやべっ余計な事言ったと気づいて、気まずくなる。


 そんな重くなる空気の中、


「見るだけでもいいんじゃない」


 その沈黙を破ったのは、真っ直ぐな瞳で俺を見据える藤菜だった。


「見るだけでも、ゲームは楽しいものだよ……ねぇ?」


 首を横にこくんと傾げて、藤菜は笑った。


「……そうだな。女々、みんなも悪かった」


 反省してみんなに頭を下げる。


「いいよ、唯我頭を上げて? ゲームは楽しくやらないとーーねぇ、蒔杜」


「そうだね。……さぁ、みんなこの間にゲームの準備が出来たよ」


 本当にこいつらには頭が上がらない。そして、この場を整えた藤菜にも。


 みんなでディスプレイを覗くと、「行くよ」と言って蒔杜はマウスをクリックした。

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