1-5
「お邪魔してます」
力が抜けた声で扉前の二人に挨拶をして、藤菜は俺を見た。
あまりにも突然の事に言葉が出ない。
そんな部室内でそこだけ別空間の様なテレビの前に、形相を変えた女々がずかずか歩いてくる。
「何でここに藤菜さんがいるの!! 唯我とナニしてたの?」
「おい、発音がおかしい」
小声でさり気無く、突っ込む。
「何って……ゲームだけど」
眼前まで詰め寄られた藤菜は恐る恐る答える。
「げえむ? ……ってもしかして『にゃんこ☆ファイター』!?」
無言で首を縦にコクリ。
瞬間、女々はぱっと顔つきを変え、後ろの蒔杜を見た。
「蒔杜!! 唯我が『にゃんこ☆ファイター』で遊んだって!!」
そう言われた蒔杜も泣きそうな顔をして、「うん!」と答えた。
二人のやりとりの意味も今の状況も理解できず、二人に向かって口を開く。
「なぁ、どういう事だ? 俺がこれで遊んだら何かあるのか?」
そう言った俺の顔を見て、女々は嬉しそうににこっと笑って再びこちらに近づいてきて言った。
「いいの!! 気にしないで。……それより藤菜さん。あなたが唯我をゲームに誘ってくれたんだよね? ありがとう」
「ひゃい!?」
お礼を言うと、突然女々は藤菜にぎゅっと抱きついた。
「えっと、どうして私はお礼を言われているのかしら?」
いきなり抱きつかれて、硬直したまま藤菜はそう言った。
「本当に……ありがとうね」
それは何か含みがあるような想いの詰まったありがとうで、藤菜はこれ以上聞くのは野暮だと考えたんだろう。えぇと言って気持ちを受け取った。
「さて、あたし達もやろう!! ねぇ蒔杜」
藤菜から離れた女々はそう言っていつもの様に元気に蒔杜を見た。
「そうだね、やろう。あっ、これ唯我の分の飲み物」
言って蒔杜は両手に持っていた炭酸飲料を一つ俺に渡してきた。
「サンキュ」
「ほら、蒔杜。やっぱり大目に買っといて良かったでしょ」
「そうだね」
女々も両手に持っていた飲み物を一つ藤菜に渡した。
「藤菜さんも一緒遊ぼう」
「……いいの?」
「もちろんだよ。ゲームは一人でも楽しい物だけど、みんなでやる方がもっと楽しいもん」
言われて藤菜はありがとうと礼を言って飲み物を受け取った。
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