第8話 生の賭博師

om ah vi ra hum kham


さきわえ給え


すべてのなかに宿りすべてを動かしすべてであるものに敬礼す。


om amogha vairochana mahamudra mani padma jvala pravrttaya hum.


上手くいっている日常ほどうすっぺらいものはない。


やはり錯乱が必要だ。


あの子供のような天真爛漫さだけが、詩の世界に人を誘う。


ま、君程度の人間にはわからんだろうが。


幸せなんていらない。ぞくぞくしたいわけでもない。


髪の毛を逆立てるくらい覚醒したクリシュナのように。


性愛は清らかだ。


ただ零れ落ちる雫のような、愛液の滴りの上に罪深い月光をはらんで、


そしてすさまじい物音のする崖崩れのように、心の垢を落としてくれさえすればよかったのに。


あの日あの時、こんなに愛を誓い合った僕らが


今では、互いに無視を決め込んで、窓ガラス越しに距離をとるまでに至った。


俺は彼女にたえられなかったんだ。


それは俺に問題がある。


一人の少女を愛した。


少女はなんたことはないかわいい子だった。


運命が、錯乱した目で髪の毛を振り乱して私に牙を剥いた。


なぜだろう、私は理想の女しか愛せないのは。


時代がそういう女を減少させたという面もあれば、


単にもともとないものを追い求めているという面もあり、


また、究極的には、どんなものでもいらだたず愛せるというのが安らぎの条件ではある。


すべてを愛しえたとき、すべてをあるがままに受け入れたとき、


あなたは安らぎに満ちるだろう。


kastritilakojvala kastripujanarata


kasutripujakalaya kastrimrigatoshini


愛せない。愛そう。という二元性の努力そのものが葛藤だ。


愛せないのなら、愛せないことにとどまるべきなのだ。


そのとき愛せるだろう。


そもそも、現代社会は、男も愛することを求められる。


いわば、女性化することさえ求められる。


一方で女の男性化も顕著である。


性別が中性化してきている。


女性解放というのは、女性の経済的自立のことであって、それによって女は女でなくなった。

つまり、愛とは虜になることであり、


解放された女にはもはや、愛する能力が十分にのこってるとはいえない。


仏陀は、色即是空 空即是色といったが、女性原理である色と、男性原理である空は互いに相互類似的であり、時代や、地域により、それらは多様な特性を見せるという意味にも解釈できる。


見せ掛けの下にあるのは、無であり、それゆえ見せかけは無に等しい。


見せ掛けは存在しないがゆえに、無である。これは女性的視点だ。


般若心経が、女性形で始まるのはそのためだ。


女性は、見せ掛けの下には、何も存在しないことを知っている。


om namo bhagavati prajnaparamitayai


色即是空 空即是色のさらに奥には、色即色 空即空がある。


迷いの視点から見ると、解脱と輪廻は差がない。


しかし、悟りの視点からすると、両者は絶対にまじわらない。


輪廻は輪廻だ。涅槃は涅槃である。


それゆえに煩悩即菩提であり、煩悩は決して悟りではないのである・・・



権力だって芸術だって、なれれば飽きる。


それらは少しばかりの陶酔は与えてくれた。


命がけの生き方が必要だ。


それは一般的には、男性にとっては天職であり、


女性にとっては恋愛である。


社会も社会じゃなく、男も男でなく、女も女でない現代において


生きるということは失敗してもいいから


自分の実存を賭けて正しく生きることなのだ。


それが自然にかえる道である。


時は満ちた。今がそのときだ。そして、君がそのときになりさえすれば、いつでも道は開かれていたんだよ。そして、その気になることすらも運命の悪戯という偶然の中の必然だったのだ。


いや、偶然などない。必然の中の偶然だったのだ。


正しく生きるとは、間違えてそれに気づいたら即座にあらためることである。


om hrim shrim jvalamukhi mam sarvashatrun bhakshaya bhakshaya hum phat svaha


海岸線の向こうからは、海と交わる太陽がダイアモンドの空に向かって挨拶するのが見えた。

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