第5話 私のあの人

「わたしに甘えてくれたのがうれしかったの。」


淫蕩な白い吐く息にのせて、あの日、ため息交じりに彼女はそういった。


重重無尽な鏡の間。


葉の上に乗った今にも零れ落ちそうな人玉の露のように、豊満な彼女の乳房。


君が本とうに僕のことを愛してくれたあの瞬間は、本とうにうれしかったよ。


やっぱり、女は女だ。女っていいな。生まれてきてよかったなと思えた。


君達は、すべて私が作り出し生み出した。


すべてである私が。


運命という魂の意志。


そして、それを貫徹する神の意志が、われわれの恋を儚く切なく身を切るように痛々しいものにしたんだね。


「私が、T君を愛した、あの瞬間は真実だったからね。」


書きながら、涙が止まらない。


思うに、光源氏は文章など書く必要がなかった。


エロスと愛の世界に自在にはいることができるものに、そのレプリカなど必要ない。


くそ、俺をおいていかないでくれよ。


愛だけが人を復活させるのだ。


愛欲にまみれた男根が、何度でも屹立するように。


愛は、死のように強いのでした。


そして、愛は真実であり、真実はあらゆる虚偽を蹴散らす英雄なのでした。


そして、それはどこか儚げで弱く脆いのでした。


僧院から抜け出して愛欲三昧の日々を送って、高貴な顔が、面影もなく、ただの田舎百姓になった若者。


先生が見せた一瞬の慈悲の涙。


世間の嘘つきは、恋愛が、幸福になるための手段だというが、恋愛とは恐るべき衝動である。


私は誰も愛さない。


傷つくのを恐れて愛さないのではない。


賢者は、一回激しい恋をするそして、その一回の激流ですべてを知る。


菩薩は、一生を捨てる。


すべての女性にやどる、母カーリーの面影。


ゴウルとニッタイは、不可触民を抱いて、兄弟と呼び、愛の涙を流し、大地を転げまわった。


チャイタニヤが生まれたとき、その体の特徴は、ただ唯一、白い肌を除けば、主クリシュナうりひとつだったという。


部屋に飾った、モネの絵のレプリカが、わたしに語りかけてくる。


すべては象徴だ。


早朝始めてみた、車の色でその日の運命がわかる。


聖者が、恍惚の大いなる愛情により、無分別三昧に入った恐るべき表情。


「私は、あなたとはなれてしまうのではないかと思うと、とても怖くてしょうがない。」


愛とは、打算がない。しかも計算されてないわけでもない。


だから愛は完璧な数学だ。


私は、昔は、愛の狂人だった。愛が重かったんだと思う。


重荷を下ろしてもいいいことに気づいた。


それは、より完璧で大いなる愛になるためだった。


つま先から頭のてっぺんまで。


私のあの人は、私のものにはならない。なぜなら私のものなんてのはないから。


だから、私のあの人って言うんだ。


いっぱいのお茶は、哲学ゲームよりもおいしいね。


書物や、偉人の言葉がすごいんじゃないよ。


この世界が本当の書物であり、戯れの場であり、ありのままの世界が法であり教えなんだよ。


それを本とうに生きれる人のハートが偉大なんだよ。


それは人を傷つける野蛮さとはまったく関係ない勇気なんだよ。







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