第5話♢始まるフロント:5

目を開く______


俺達が立っていたのは、大きな針葉樹が沢山そびえ立つ森だった。

なんだか、想像していた森とは少し違っている、朝なのに暗くて肌寒いし、気味が悪い。



「なあ、ミューここが西の森か?」



俺がそうミューに質問するとミューは、真っ直ぐ森の中を見て何の反応も示さない

森の中に何かがいるのだろうか、ミューは額に汗を垂らしながら腰に納刀していた短剣を手に取り警戒している。



「ユウキ、警戒して森の中から何かが高速でこちらに迫ってきている。」



「森の中……」



俺は、急いで落ちている木の棒を拾い上げ魔法を木の棒に掛けた。



「クラフ・ゴット」



さっきまでは、ただの棒が聖剣に変わる。

前の剣とはちょっと違うな、見た目とかが?


その剣を、森の方に向けて俺は、目を瞑って動いているもの全ての感覚を感じ取った。


兎、熊、虫そして______なにか、人間の形に近い物体。


来る、間違いなくこちらに向かって来ている。

オーガか?いや、違う……この感覚つい最近どこかで、と言うか今もすぐ近くにいるではないか!



「おい、ミュー剣を下ろせ。今近付いて来ているのは、幻獣だ。」



「幻獣?やっぱり、生きてたんだ!」



俺が、接近している物体を教えると剣を下ろすどころか思いっきり剣を振り回して喜んでいる。

やめてくれ、それが手から抜けたら……


そんな事を考えていると、予想通りミューの手から短剣が抜け勢いよく俺の頬の2センチ位横を通過し奥にそびえ立つ木に深く刺さった。



「あ、あああ……やめてミュー」



震えながら、俺は今も暴れて居るミューを止めたのだが、ミューは手から短剣が抜けた事に気付いて居ない、だから反省している気配も無い。

そんな、茶番を俺達がして居ると接近していた幻獣はもうすぐそこまで来ていた。


森から、俺の顔目掛けて何かが飛んで来る。なんか、硬いもの……剣だ。

俺は手に持っていた剣でその剣を弾き飛ばし、森に向かって話す。



「出てこい。」



俺は、森の中で潜伏術式を展開しようとして居た幻獣に話を掛けるが、



「………」



返事が無い。

あちらもかなり警戒しているようで中々反応を示そうとしない


俺がどうすればいいのか考えていると、ミューが俺の前に立ち森に向かって話し始めた。



「私は、第十七 幻獣族 族長の娘だ!私の友に剣をむけるでない!」



「「え……」」



森の方から、小さいが多数の声が聞こえてくる。そう、幻獣は一人だけでなく多数いたのだ。


正直言って、幻獣は他種族に比べて能力や強さがやや劣るのではないかと心の中では少し思っていた。

けれども、神の知恵ストールを所持している俺から幻獣は存在事態を感知されなかった。


つまり、幻獣は決して能力と力が劣っている訳ではなく、オーガや魔族そして、人類の能力がとてつもなく高いと言う事だ。


そんな、能力や力が遥かに高い種族相手に幻獣はこれから戦いを仕掛けようとしている。



カサカサと音を立てながら、背の高いがっしりとした体の男が一人森から姿を現した。


ミューは、驚いた顔をしながらその男を見つめている。



「やあ、ミュー」



男は、ミューを見て、微笑みがら口を開いた。



「兄さん……?」



「そうさ、久しぶりだな」



「なんで、遠い国へ旅に出たはずじゃ……」



「うん。 旅の途中で立ち寄った酒場で、幻獣族とオーガ、が戦闘状態に入ったと聞いて慌てて戻って来たんだよ」



「こんな、数日で戻ってこれたの?」



「それがね。親切な人間の魔法使いが急いでいる僕を見て、テレポートをしてくれたんだ」



「人間が……?ありえない……」



「それが、本当なんだよ」



「嘘……嘘よ!!あんな、私のお母さんを殺した種族なんかが、んな親切な事をする訳が無い!」



ミューが、そう発言すると兄はさっきまで微笑んでいた表情を変えてミューを睨む。



「ミュー!その話はするな!」



「はい……」



ミューの、母親が人間に殺された?何故……?そもそも、人間は幻獣を殺す程の力を持っているだろうか?

人間が、強いと言われているのは、武器を所持してからこそだ、だから今回の戦争で人間はオーガと魔族の裏で同盟を結んだそんな、貧弱で力の劣る人間が幻獣を……


俺がそんな、事を考えていると


ミューの兄が、表情を緩め優しく俺の方を見て口を開く。


「これは、これは、初めましてミューの友人さんどの様な要件でこちらまで?」



「あ、はい……それは……」



「ユウキは、私達幻獣を救ってくれる人物よ!」



俺が口を開き、話そうした瞬間ミューが俺の言葉を遮り兄に俺の事を紹介し始める。



「ユウキは、私がオーガに追いかけられている時急に登場して私を救ってくれたの!」



「それは、凄いね。初めましてユウキ君?僕は、アインシュ・ロード・ディスカンパニーだロードと呼んでくれ、宜しく。」



そう言って、ロードは右手を俺に差し伸べてくる。

その手をガッチリ結び握手を交わす。


名前長くね……?


「それで、話は変わるがユウキくん君は幻獣族、オーガどちらの味方だい?」


周りに居る、幻獣族の人々の緊張が高まる。



「それは……もちろん、幻獣族ですよ。」



「やはりそうでしたか!いやいや、もしかしたらなどと思ったのですが、でも良かったです!」



「ははは……」



俺は苦笑いをしながらその場を乗り切った。もちろん、俺が人間だとばれない様に____



「それでは、ミュー、ユウキさん我々の隠れ家へお連れします。」



ロードはそう言うと、俺とミューをさっき言っていた隠れ家まで案内する。

森の中は、とても入り組んでおり、一人で入ったら間違いなく迷子になると思う。


樹海と言ったら分かり易いと思う。


何分か、歩いていくと開けた、大きな広場にでた。

かなり広い、東京ドーム2個分程はあると思う。


その、大きな広場に沢山のテントと幻獣族の人々が詰めあいながら生活をしていた。

沢山のテントの中に一際大きい立派なテントがある、多分族長のテントであろう。



「ここで僕たちは、生活しています。食料の調達が大変ですが、近くに川があるので水には困らないので結構生活し易いですよ。」



「そうですか。」



案外、生活しやすいらしい幻獣族の人々も笑ってはしゃいでいる。まるで、今が戦争中だという事を忘れているかのように、



「どうぞこちらへ」



そう言ってロードは、一番大きいテントへ俺とミューを案内する。


テントの中に入ると、俺の2倍は背がでかく長いヒゲを立派にはやした男が椅子に座っていた。

その男は、こちらを数秒見つめたのち、ゆっくりと口を開く



「よく来た。旅人よ、そしてお帰りミュー」



そう、その男はミューの父親であった。つまり、族長

見るからに、如何にも族長の雰囲気が漂っている。



「ただいま、お父さん」



「ああ……」



どうしたのだろう、この親子あまり仲が良くないようだ。



「初めまして、僕はユウキと申します。」



「ユウキ……珍しい名前だな……よろしく頼む」



威厳のある立派な表情で族長は俺に向かって挨拶をする。



「はい。」



「それで、ユウキくん君は何故ここへ?」



「それは……幻獣族を救うためです。」



俺がそう口にした途端、族長は物凄い剣幕で俺に向かってこう言った。



「他種族の力は借りん!帰れこの無礼者!」



「なんで!お父さん!ユウキはとても強いんだよ!なのになんで?」



「ミュー、他種族の物に力を借りるなど恥を知れ!しかも、こやつは人間じゃぞ!」



族長がそう口にした瞬間、テント内の空気が固まった。

嘘だろ……族長は、ほんのさっき会ったばかりの俺が人間だと分かったのか?

しかも、神の知恵ストールの能力で人間だとばれない様にしていた筈なのに、



「人間……なの、ユウキ?」



ミューは、体を震わせながら俺の事を見つける。



「あ、あ……人間だ。」



「嘘でしょ……」



そう言うと、ミューは走ってテントを後にする。

出ていく時に零れ落ちた涙が光り輝やいていた。



「さあ、人間よさっさと、ここから出ていけ!」



「はい。」



俺はテントを後にした。

俺がいなければ確実に幻獣族は負けてしまうだが、幻獣族は俺のすくい救いを拒絶している。



「どうすればいいのか……」



森の出口へ続く道を一人歩きながら、そう小さく俺は呟いた_____

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