第25話

「皆さん、本日は素晴らしいニュースを報告します。わが課の矢口君が子宮移植手術を受けられる事になりました。その為明日から特別休暇に入られます。彼の大きな勇気を称え、手術の成功、そして是非ともお子様の誕生という素晴らしい一報を頂けるよう、全員一丸となって応援しましょう!」

何かの就任式かと思うほどの仰々しい大きな花束を女子職員から手渡され、力なく笑う矢口を杉本は呆然と見つめていた。彼は次々に握手を求められ、後は任せろだとか、仕事は心配するなだとか上司や同僚から台本のような言葉をかけられている。

 

 杉本は一ヶ月前の休日に矢口に呼ばれ、事の顛末と移植手術を受ける事を聞いていた。あまりの衝撃に言葉をなくす彼に、矢口は「子供がいないと、俺の存在価値はないんだよ」と寂しそうにつぶやいた。


まだ十数名という数であるものの、全国に比べるとわずかではあるがこの県の男性出産者は多い。女性がより良い仕事を求め都会に出てしまったから男性の数が多いと言うだけなのだが、課長や上の人達はすでに男性出産の多い県としてここを売り出そうとしていたのではないか。増えない移住者に見切りをつけ、若い男性をターゲットにして出産可能予備軍を増やす。その宣伝役としてまず職員が標的になったとしたら。妻が妊娠したばかりの自分には声がかからなかっただけで、子供がいない若手の既婚男性や矢口のような中年独身男性に精神的プレッシャーを与え続けていたのだとしたら。


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