第12話

他の県の対策では「男も女も早く結婚して妊娠・出産する事がどれだけ有利か」を全面的にアピールし、無料冊子や大学の特別講義などで、卵子や精子能力の観点から、育児する体力の観点から、定年まで働ける期間が長い事で貯蓄ができ老後破産のリスクを抑えるという金の観点から、なるべく早く産む事を推奨している。女性が十六歳で結婚できる事から、十代での出産を宣伝するほどだ。

「さすがに高校生はまずいだろう」

女性保護団体に目をつけられたら後々が面倒な事になる。それにまず役所内の女性の理解が得られないだろう。

「あくまでネットでの噂ですから、そこまでどうなってるかは分かりません」

 そこまで一気に話した杉本が恐る恐る矢口を見上げた。

「すみません、矢口さん関係ないと思って言ったんですが、お気に障ったとか・・・」

「全然気にしてねぇよ。言ったろ、俺のは健康だったって。ちゃんと調べてもらったし。・・・で、そこは出生率上がってるのか」

 矢口の回答に、杉本は良かった、とほっとした表情を見せた。

「そうなんですよ。とにかく子供の数が増えればいいという戦略取ったみたいで。地方初のドラマや漫画で十代、二十代の主人公の愛や性を扱った作品を大量に出したらしいんですね。金をかき集めて人気アイドルとか使って。そうしたら十代の出産が増えたそうです。それを見込んで赤ちゃんポストを設置してたからけっこう回収できたみたいですよ。皆健康優良児だそうです。すごいですよね」

「そんな後々めんどくさくなりそうな事うちもやろうってのか、お前」

 矢口がげんなりとした様子で言うと、杉本は慌てた。

「もちろん分かってます! うちはクリーン、婚活パーティーもそうですけど、正攻法で行ってますよ。ただ、うちの県の女性って多くても二人くらいまでしか結局産んでくれないじゃないですか。うちは子供手当も大した事ないし。上層部の肩を持つようであれですけど、奇策でないともう子供の数を増やすのも限界があるんじゃないかと思って」

「かと言って赤ちゃんポストはまずいだろう」

「二十代にしぼれば・・」

「トーキョーと違って数がいないだろ。・・・まあ、若者の結婚・出産を促すっていう案自体は悪くないから、それを一つ入れようか」

 話しながら矢口がカタカタとパソコンに文字を入力するのを眺めながら、杉本が髪の毛をがしがしかきつつ唸った。  

「他にもあったんですけど――、囲い込みって言うんですか、それをやってる所もあるそうなんですよ。僕はそれはどうかと思うんですが」

 パソコンを打ちつつ、うん? と矢口が頷いた。

「子供の数を増やすのも限界があるじゃないですか。だから今、県に在住しているこれからの若い労働力と出産する若者をいかに他府県、特に都会へ流出させないか、いろんな好条件をつけて引き止めるってやつだそうです」

「うちもやってんだろ」

「え」

「えってお前知らなかったのか」

「そうなんですか!? え、それちょっと引きますよ。どこで学ぶ・働くってくらい本人に選択させてあげてもいいじゃないですか」

 あれだけ鬼畜な案を出していたくせに、時々こいつのツボがよく分からないと矢口は思いつつパソコン画面を見つめたまま言った。

「そんな甘い事言ってたらこんな地方、誰も残らねぇだろ」

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