第5話

鈴木美優は中学校から自宅へ帰ってきた所だった。中三ともなると誰もかぶらないヘルメットを、ちゃっかり学校と自宅近辺だけかぶる事にしている美優はそれを脱ぎ、自転車を車庫に入れて玄関を開ける。

「ただいま」を言っても返事がない所から、電話好きの母親が誰かとしゃべっているに違いない。リヴィングルームに入ると母親がこちらに背を向けてやはり話しこんでいて、美優が帰ってきた事にも気付いていない。

「あー、あれね、無理心中の。子供さん可哀想よね」

「年子で、うん、二歳と三歳って一番大変な時じゃない! やっぱりお母さん一人では」

「ランクどうだったのかしらね。いや、そこまで知らないけど。Cならどこでも受け入れてもらえたでしょうに」

 また子供がらみのニュースか、と母親の話の内容から美優は推測した。子供関連のニュースは最近何かと増えた。死んだりでもしたら大騒ぎになる。

子供って何がそんなに偉いんだろう。

同じ火事の事件でもお年寄りが亡くなった時と子供が亡くなった時ではニュースの扱いに雲泥の差があり、人一人が死んでるのは同じなのになんでだろうと美優はいつも不思議に思う。

帰って来たよという意味で母親の正面に回って手を振り、ようやく気付いた母が手を振り返した事を確認してから二階への階段を上がる。自分の部屋へ入り、学生鞄を置いて制服を脱ぎ始める。


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