都道府県戦争
浅野新
第1話
A県の市役所では「地域活性推進課」課長の熱い朝礼で一日が始まる。今日の課長はいつもの説教とは違い、誇らしげに顔を紅潮させ、嬉しそうに声を張り上げた。
「今日は大変おめでたいニュースがあります。昨日、A市B町のM子さんが無事に男の子をご出産されました!」
職員達の間に歓声と大きな拍手が沸き起こる。
「ささやかではありますが、市より出産祝い金とベビー用品一式を贈呈いたします!」
課長の背後で女性職員が壁に貼られているB町の地図に一つ赤いシールを貼り、再び拍手が起こった。
少子化が止まらない日本では、業を煮やした政府が二千二十年に強硬策として子供の少ない地域の予算を大幅に縮小する事を発表した。それから十年が経ち、今ではどこの都道府県も子供の数を増やす事にばかり躍起になっていた。
A県も例外ではなく、市役所に「地域活性推進課」が新設され、多くの職員を配置し一人でも多く子供を増やすため全員が昼夜を問わずに働いている。壁には民間企業の売り上げ目標のように「今年の目標出生数」「現在の妊婦数」「本日現在の結婚者数と独身者数」から去年のデータ、全国との比較、果ては安産のお守りから最近出産した女性の名前まで、数字や報告書などがびっしりと貼られている。一昔前の定時上がりの呑気な公務員の面影はもはや見られない。
特に先月、隣の県に出生数が追い抜かれて以来課には重苦しい雰囲気が漂っていた。たまたま同じくらいの人口と規模の地域だったから、負けた気が余計にするのだろう。おかげで現状打開策としての企画会議がやたらと増え、日常業務に加えて会議資料作りも重なり職員の業務は増える一方だった。
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