墨と澄。
黒岩の髪の毛の色が落ち着いたのは、夏服に衣替えが完了したときだった。
それを見たのは中学ぶりで、ちなみに一年のときは金に近い茶髪にしていた。バイトを始めてから少し落ち着き、この度久しぶりに黒髪を見ることになった。
「担任にいい加減落ち着けって言われた」
それが髪色のことだったのかはともかく、やはり黒髪はしっくりくる。というのは、わたしの贔屓目かもしれない。
「當金のとこは面談ないの?」
「夏休み前に三者面談あるよ。その前に、生徒会選挙がある」
わたしは前に比べて、随分と自分の学校の話をするようになった。半分意識して、半分は無意識で。
「當金の話を全然聞いてない」と言った黒岩は、とても詳しくそして結構しつこくわたしの話を聞くようになった。それが少し面倒だったので、自分から話すようにしている。
「次の生徒会長決まってんの?」
「たぶん副会長がなると思う。次入りたいって子もいてくれてね、安泰だよ」
「まー當金の肩の荷が降りるんなら良いと思うけど。副会長とはもう蟠りはねーの?」
その問いに言葉を探す。
ファーストフード店内は、夕方よりも静かだった。予備校で模試が終わった後、ここで答え合わせをした。一段落したので新メニューである抹茶シェイクを飲んでいる。
「ないわけじゃないんだけど。これ以上踏み込むのは、もういいかなって」
「卒業したらもう会えないかもしれないから、解消するなら今のうちだな」
「……黒岩くんなら解消しそう」
「當金の方が簡単に解消できると思う。なんたって当事者だし」
それはそうだけど。寧ろ今の状況で黒岩が出てきたら更に話が拗れるだけだ。
「黒岩くんって志望校決まってるの?」
私立理系コースなのだから、私立の理系学部にいくことは予想している。
わたしはいい加減、彼の後をカルガモのようにくっついていくのはやめなくては。なんて思っているけれど、聞いたら寄せに行ってしまうかもしれない。
「波都大、考えてる」
「……え?」
「わかってるとも、波都大は国公立だし、俺の頭じゃ難しいってことも。でも波都大に行けば学費が半分くらいに抑えられることを知っちゃったんだよね」
「難しいけど、無理ってことは無いと思う。わたしは、何事もそう思ってるよ」
それに、神様、わたしは彼に言われる前から波都大は第一志望にしてたんですよ。だからカルガモじゃない。
「うん。俺、當金のそういうところ、本当に尊敬する」
「黒岩くんも無理って言わないでしょう」
「でも一人で無理じゃないって思ってるのと、誰かに無理じゃないって言われるのは、全然違う」
その気持ちは、とても分かる。というより、そんな気持ちにさせてくれたのが他でもない黒岩だった。
「わたしも、志望校、波都大なの」
「マジで! じゃあ今度一緒にオーキャン行こう」
それを聞いて、去年の秋を思い出す。あの時は断ったのに、本当に黒岩のタフさには感動を覚える。
ただ忘れてるだけかもしれないけど。
「うん、行きたい」
抹茶シェイクの中身が空になる。
夏が始まる。
受験生最後の、高校生最後の夏が始まる。
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