来る者拒まず、去る者追わず。
文化祭は何とか行われた。
先生方が事を知ったのは文化祭が終わった後で、生徒会の顧問である先生から謝られた。謝られても困る。これは校風なのかもしれないけれど、結構明華の生徒たちは個人主義なので、生徒間の問題は生徒たちで解決する。そういう色が、強い。
うまく黒岩から文化祭の話を躱し、文化祭も終わり、暑さが去るとともに周りが落ち着いてきた。
と、思っていたのはわたしだけだった。
「……お団子、食べる?」
「……ほしい」
三本セットの団子がコンビニで安くなっていたから、と赤羽が買ってきた団子のパックがこちらに近付く。そんなに団子を食べることってないけれど、和菓子は嫌いじゃない。
みたらしのタレがついている串を手にとって、ぱくりと食べる。
「赤羽はそつがないよね。とても羨ましい」
「銀杏は結構貪欲だよね。いつも羨ましがってる」
赤羽も串を持って食べていた。
「でもほら、文化祭終わって良かったよ」
何も言わなくなったわたしを見かねて慰めるように話を繋ぐ。他に誰も居ないのに。
文化祭アンケートのことで生徒会の人間が集まったのは半数だった。予想した通り生徒会は少し割れたようになり、表面上は協力してくれたものの、中身は全く賛成なんてしていなかった。見事に終わった瞬間、あとはご勝手にという感じに文化祭関係の集まりには来なくなった。
それは仕方のないことだと思うし、わたしが咎められることでもないのでこちらも黙っていた。元々文化祭実行委員だった子たちと後始末をして、なんとか終えることが出来た。むしろ、実行するまでよく手伝ってくれたと思う。
銀杏は善人すぎる、と離れていく松江たちを見て言った。
それから、生徒会が文化祭実行に半分以上携わっていたことを生徒が知ると、ばーっと噂が流れた。
『當金会長が文化祭実行委員会の様子を見かねて、生徒会を動かして、前年通りの文化祭を運営した』という噂だ。
結果だけみればそうなのかもしれないけれど、わたしの発言に誰も賛成なんてしていなかったし、赤羽がいなければあそこで生徒会も粉々になっていたかもしれない。それに、運営できたのはみんなの協力があったからだ。
そんなことを話をしている生徒たちみんなに説明していくわけにもいかず、わたしはただ沈黙を守った。松江も表立ってわたしに何か言ってくることもないし、来年の夏にはまた選挙があって、会長が自動的に立つことになるのだ。
「わたし、全然向いてないの。会長とか、そういう人の上に立つみたいな、リーダーみたいな」
「そう? あたしはあの、松江とぶつかった銀杏の言葉を聞いて、すごいなって思ったけどね。生徒の気持ちを掬いたいって、鳥肌が立った」
「あら赤羽、何時の間に鳥になっちゃったのかしら」
「良い鶏ガラをとってほしいよ、本当」
残念、わたしは料理ができない。それは他の誰かに頼むより外ない。
会議の終わった生徒会室は静かだった。帰らないわたしを見て、赤羽も残ってくれているのだろう。
「良いの、陸上部の彼女は」
「えーそれ聞く? 彼女ね、婚約者いるから。そっちに移行しちゃったみたい」
「そうなの、難しいね、恋愛って」
「銀杏も可愛いんだけどねえ、ちょっと対象外かな。ずっと友達でいよう」
「嬉しいけど喜べないような」
「好きなひといないの?」
女子高生のような、恋バナ。今まで友達がいなかったわけではないけれど、なんとなく避けてきたその話題。
いや、誰もわたしとは恋の話をしたいと思わなかっただけかもしれない。
黒岩さえ、わたしにそんな話を振ってきたことはなかった。自分の彼女報告はするのに。どれだけ興味がなかったのだろう、と今更落ち込む。
「いるような、いないような」
「どっち」
「今の赤羽が言ってたのと同じ気持ちになるの」
「うん?」
「好きだから、ずっと友達でいたいなって。そういう人ならいる」
外は冷たい雨が降り始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます