大きな樹の下。


マフラーが必要かもしれない。昇降口の掃除をしていると、木枯らしが吹いた。思わず首を竦めて空を見上げる。すっかり秋空が遠くなってしまった。


「こんにちは」


下級生に挨拶される。これでも私は会長なので顔が知られており、私の方もよく挨拶をしてくれる人の顔は覚えている。

挨拶をしてくれた二人に挨拶を返せば、仲良くきゃっきゃと言いながら校舎を出ていった。


「銀杏、文化祭のアンケート集計終わった」


足音がして、赤羽が現れる。冬服の上にグレーのカーディガンを羽織っているのを見て、秋が来たのだと実感した。友人の衣替えを見て思うなんて。


「ごめんね、わざわざ」

「そうじゃない」

「どうもありがとう、赤羽」


それでよし、と赤羽が親指をたてる。


「明日の放課後、会議できるかな。招集かけてみるね」

「じゃあ会議室空いてるかどうか見てくる」

「赤羽、本当にありがとう」

「銀杏は、もっと頼ってね」


赤羽がひらりと手を振った。


この間、文化祭を乗り越えた。

乗り越えたという表現は可笑しいと思われるかもしれないけれど、私にとってはやっと終わった二日間だった。

文化祭は本来文化祭実行委員が主になって運営される。生徒会は殆ど関わることはなく、来年度受験を考えている中学生なんかを相手にすることが多い。

しかし、今回は違った。生徒会長引き継ぎの際に、前の会長からちょっと気を付けておいてと言われていたのだけれど、今年の文化祭実行委員長がそれは仕事のしない人だった。仕事と言っても、一人で何でもするわけではない。委員長会議などで出た話を委員に広めたり、文化祭に関する決めごとで前に立っていれば良いだけ。


「まさか、委員全体を敵にまわしたうえに権限振りかざすなんて」


その話を聞いた帰り、赤羽は大きく溜息を吐いた。

思い描いているイメージはある、でも予算内に収まらない、その為にどうしたら良いか皆で考えて。と、投げられたらしい。

困った副委員長が生徒会に駆け込んできたのは、文化祭の一ヶ月ほど前のことだった。もちろん夏休み中で生徒会の人間は殆ど居なかったなか、私と赤羽が対応した。


「委員長は三年の話し合いで決まるから、立候補があれば即決になることが多いんだろうね。若葉先輩に決まった時点でこうなることを見越さなかった三年生にも責任はあると思う」

「そうだろうけど、荒波立てたくないって思うのが人間の性でしょう。特にこの学校はお嬢さんが多いし、出来ることなら何にも関与したくない」

「それなら、荒波を立てずに流されていれば良いよ。若葉先輩を制御できなくなったからってこっちに持ち込んで文化祭の責任の所在があやふやになってくる」

「赤羽、どうしてそんなに怒ってるの?」


珍しく赤羽は多くを語った。普段はさっぱりとしていて、ネトネトした女子の噂にさえ見向きもしない人なのに。

わたしが尋ねると、赤羽はちらとこちらを見る。


「なんだか嫌な予感がする」

「占い師みたい」

「茶化さないで。とても嫌な予感なんだって」

「それを回避する方法はどうなの?」

「分かったら苦労して生きてないね」


そうして赤羽の言ったことは現実となったのだった。



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