いま行くね。
購買へ行くと、既に列が出来ていた。ガラス戸の中からペットボトルのお茶を取って、列に並ぶ。
「銀杏、ちょっとこれ持ってて」
「え、あ、うん」
前に並んでいた赤羽が持っていたサンドイッチとやきそばパンを渡され、待つ。ささっと牛乳を持ってきた赤羽が帰ってきた。
「ありがと」
「赤羽は沢山食べても太らないよね。羨ましい」
「食べた分動かないとそれは太るって。あ、今日の放課後だよね、会議」
「うん、よろしくね」
赤羽もわたしも生徒会メンバーであり、赤羽は会計、わたしは副会長。同じクラスになったことはないけれど、生徒会を通じて知り合った。
赤羽と最初に目が合って、「當金さんのこと知ってるよ。模試の成績、いつも載ってるし」と言われた。申し訳ないけれどわたしは赤羽のことを知らなかった。それを伝えると、「じゃあこれからよろしく」と笑っていた。
女子にしてはサバサバしていると思う。クラスメートに赤羽がいたことを言うと、赤羽は有名人らしい。確かに背は高かったし美脚だった。それで有名なのかもしれない、なんていうのは違った。
「後輩と付き合ってるって」
「そうそう、あの陸部のね」
「この前デートしてたらしいよ」
女子の情報網は笑えない。次から次へと出てくる噂話が「クラスの誰々は他高の何とか君と付き合っている」という所まで飛んだところで、わたしは席を立った。
前に黒岩が「女子ってなんであんなに他人のことに詳しいんだ」と感心していたのを思い出す。その時わたしは同意できなかったけれど、今なら分かる。
ばいばい、と手を振っている一年生。それに答えるように赤羽が小さく手を上げる。それは想い合う人同士で、わたしの歩調は緩んだ。
「銀杏、どした?」
「ううん。入ろう」
「うん」
女子校でこういうのは珍しくない。なんて言うのはこの学校に限ったことかもしれないけど、中学の時出会いがないと嘆いた友人が内部進学しなかった例はある。たぶん、それだけが理由でもないと思うけれど。
赤羽は噂を知っていると言う。「でも気にしていない」らしい。
「あー眠くなりそう」
「寝ないでね」
「あ、先輩! こんにちは!」
一年生の監査の子がバッと立ち上がって敬礼をする。どうして敬礼なのだろう。面白くて笑っていると、赤羽は呆れた顔をしながらわたしの隣に座った。
会議は遅れて来た会長を交えて、すぐに始まった。
この学校は夏の生徒会選挙で会長が代替わりをする。なので今の会長は三年生。生徒会は三年生の会長と書記、わたし達二年生の副会長と会計と監査、一年生の仮監査と仮書記の一人ずつで成立している。監査と会計の数は年によって違うが、副会長と会長は一人ずつだ。
大体は副会長だった生徒が、会長になるとされている。
「銀杏は会長に立候補するの?」
「……実はあんまりそんな気はないの」
「へえ、珍しい」
「副会長も先生に頼まれて推薦でなっただけだから」
「その言葉、銀杏が言うと嫌味に聞こえないね」
帰り道、赤羽と並んで駅へ向かった。「後輩の子は良いの?」「ピアノがあるんだって」と教えてくれた。
この間までは咲いていた桜が既に散っていた。
赤羽とは駅で別れた。黒岩のバイト先の店へどうしようか迷っていると、携帯が鳴った。黒岩から。
「もしもし」
『當金? どこいる? 俺、あの猫公園にいるんだけどさ』
「うん」
『めちゃくちゃ可愛い猫いる』
「え、見たい。いますぐ行くね」
わたしは駅を通り抜ける。
おいでおいで、という黒岩からの言葉を聞いて、通話を切った。
桜の樹はもう目に入らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます