前編
ここみずべちほーのライブ会場では今日も今日とてライブ前のお楽しみコーナーであるヒーローショーが繰り広げられていた。
主演はこちら、ホワイトタイガーちゃん。
「我が名は仮面フレンズホワイト!貴様を倒すものだ!行くぞ!」←2号
対するはこちら。
「俺の名は仮面フレンズシローグ… ホワイトよ、割れて食われて砕けちるがいい!オォウラァァァァアッ!」←前任者
なんか隠す気ない名前で悪者を演じているパパ、クロがいなくなってやっぱり寂しいのかこうして悪ふざけにも勢いが増している。
ママが言うには「好きにさせてあげて?」だそうで、今もニコニコと最前列から笑顔を向けている。
ここではストーリー上ホワタイちゃんが苦戦することになっていて、傍目から見るとガチバトルに見えるあの戦いも殺陣の一種だそうなんだけど。
「んスターライトナックルゥッ!」CV若本
バコーン!
「ぐぁっ!?なんて強さと凄みのある声なんだ!」
壮絶な死闘にしか見えなくても二人とも楽しそうで何よりだとは思う。
そうして舞台裏からショーを見る私の肩をPPPマネージャーのマーゲイさんがポンと叩いた。
「さぁユキちゃん!そろそろ出番ですよ!」
「ねぇ本当にやらないとダメなの?」
「当たり前でしょう!さぁ新しい世代の力を見せてあげて!」
そうだ、実は私は出演者だ。
ホワタイちゃんが苦戦して人質の子がいじられたときに現れて参戦しなくてはならないのである。
「悪者注意だホワイトよ、トドメを刺してくれる… んローグブレイカァーゥッ!」ツテテテッテ ツテテテッテ♪←技待機音
迫り来る悪に人質のサバンナ親子の悲痛な叫びが会場に響き渡る。
「大変だー!ヒーローが負けてしまいますかねぇ!?」←焦り
「ど、ど、どーしよー!?シンザキちゃん!どーしたらいいのー!?」←焦り
「座して待ちますかねぇ…」←冷静
さて、それじゃ行きますか…。
衣装を着込み野生解放でフレンズ化した私は胸をミチミチに締め付けながら舞台へ颯爽と向かう。
「準備はいいですね?そんじゃ張り切っていっちゃってぇぇいッ!」CV若本
「もう!その声やめてよ!」
私はこの日ニューヒーローとして舞台に上がるのだ!
「そこまでよ!」
「誰だぁ貴様はぁ?」
私はパパの前に立ちはだかり、スーっと息を大きく吸うと名乗りをあげる。
そう、私の名は!
「私の名は…!悪は絶対許せなぁーいッ! 正義の味方ッ!仮面フレンズ!スノォーッ!ホワイ(ト)ッ!!!」←謎ポーズ
…
しん… として空気が重たい、THE静寂。
おかしいな、歓声があがるってマーゲイさん言ってたのに…。
「なんですかねぇあのポーズは!クソダサいですねぇ!」
「こらサン!そんなこと言っちゃダメだよ!えと、えっとぉ… ち、力強いね!」
「ないですねぇ…」
嘘っ!?頑張って考えたのに!?
「ユキおま… あ、いや… ブルルルァァァアッ!まぁとめてかかってらっしゃぁいッ!」
「よ、よく来てくれたスノーホワイト!一緒にやつを倒そう!」
もうやだ二度とやらない…。
私は今回の出来事をこのたわわ~な胸の奥に刻み込んだ。
…
まぁそれはいいとして。
「ユウキ、実は頼みがある」
「どうした改まって?」
ゲンキおじさん、パパの親友でパークにはよく顔を出す、特別調査隊のメンバー。
“ノゾミちゃん”ってサンの一つ上くらいの娘がいる、サンはノゾミちゃんが来るとデレデレする。
まだ子供のクセにませているよ、まさか私より先に小さな子達が恋愛に目覚めるなんて。
一方私はと言えば…。
辺りを見回し男の人を見てみるが、どーもピンとこない。
クロは言ってた。
『ユキも死ぬほど人を好きになればわかるよ』
でもわかんないよ、好きってなに?みんなが好きなのとはまた違うのはわかってる、でもそうなると私はどうなるの?辛く苦しんだりするの?
そんな複雑な気持ちを抱いている私を他所にパパとゲンキおじさんのほうの話が着いたみたい。
「わかった、クロの部屋も空いてるしそこに泊まってもらおうか?ところで、“その彼”フレンズは平気なのか?俺はこんなだし、博士達だっている… ユキだって」
「いや、その点は問題ねーよ?美人に囲まれてむしろ喜ぶさ」
「それはそれで心配なんだけど、うちには年頃の娘が…」
「まぁまぁ!無理にとも言わないがそこをなんとか!」
パパ達はなんの話をしているの?
この時は聞けなかったけど、やがて家に帰り夕食が済むとみんなにお話があるとパパが皆に一声掛けた、この場を借りてゲンキおじさんと話してたことを話すんだと思う。
この場にいるのはパパの他にはママと博士助手、そして私。
「実は外から一人男の子をうちにホームステイさせたいんだけど、どうかな?気に入らないなら断るけど」
ホームステイ…?
つまり数日一緒に住む子が増えると言うのだ、ゲンキおじさんとはその事で話し合っていたんだね?ホームステイか…。
なんでもその男の子は少々訳アリらしく今とても元気がないって、パークに住むことで前向きになれるんじゃないかとゲンキおじさんからの提案だった。
フレンズセラピーっところかな?
「来るのはゲンキの親戚、ユキと同じで今年で16才だ、名前は“アサヒ”」
「僕は構いませんよ?ゲンキさんにはお世話になってますし」
「我々も特に嫌とは言わないのです」
「まぁ、あまり生意気なのが来られても困りますが」
「変に癖の強い子ではないらしいからその辺は大丈夫だろうさ?でユキはどうだ?年頃だし、やっぱり男を入れるのは抵抗あるか?」
抵抗は… ぶっちゃけまったくない。
私の隣にはずっとクロがいた、正直今更男の子と住むからなんだと言うのだろうか?パパも男、ゲンキおじさんも男、ナリユキおじいちゃんも男、クロとは10才くらいまで同じベッドでお風呂も一緒だったし、むしろ私はパークで1番男の子に耐性があるのではないかとすら思っている、だから…。
「別に大丈夫だよ?」
となんの気になしにそう返事をすると、パパは複雑そうな顔を私に向けて言った。
「本当に?別に断っても…」
「フフフ、シロさん?もしかしてユキが盗られないか心配なんですか?」
「や、うーん… 年頃の娘が家にいるのに年頃の男を住まわせるというのもなんかいいのかな?って」
パパはクロがいなくなってから少し過保護になっているのかもしれない、クロが行ってしまった後も少しボーッとすることが多かった、珍しく包丁で指を切ることもしばしばあったので、気持ちよく送り出したはいいけどやはり心配なんだと思う。
だからきっと私もいついなくなるのかと不安を感じているのかもしれない。
愛されていると思うと幸せだけど、親の気持ちになったことはないので正直どれ程不安なのかわかりかねる部分はある、だから私は答えた。
「もー!大丈夫だよ!」
「まぁ… そうだな?ユキだし」
なんだかその言い方に若干やぁトゲがあるように感じますかねぇ…?
「そうですよ、ユキですから?」
「ユキなら大丈夫なのですよ」
「なんと言ってもユキですから」
なんで!?私ってそんなにズボラな子だと思われてるの!?酷いよ!女の子やぞ!人並みにお洒落したり女の子らしいことも考えてるんだよ!?←つもり
そんなことがあり、後日パパからおじさんへ例の彼を受け入れ可能だと連絡を入れていた、その彼のホームステイが決まった瞬間である。
どんな子だろう?同じ年頃の男の子かぁ?
男の子ってやっぱりいっつもエッチなこと考えてるのかな?クロだって澄ました顔して絶対エロいこと考えたし。←偏見
ということはお風呂とか着替えは気を付けないとね?普段は割りとオープンな環境の中タオル一枚でフラフラ歩いたりして「みっともないから服を着ろ」と怒られることもしばしば… はい、勿論気を付けます。
でもやっぱりそんな私も恥じらいくらいある、その状況は家だからつい気が抜けてそうなってしまうだけ、他所でもそんなことしてるわけではない。
でも今回はうちに異性の他人が住む、下着もちゃんと隠して部屋も綺麗にしておかないと!野生解放なんて絶対見せられない、ただでさえ恥ずかしいのにそれを同じ年頃の男の子に見られるなんて家出案件もいいとこだ。
これだけは気を付けていこう、ホントにこれはマジで気を付けないと。
えーっと…。
アサヒ… アサヒ…くん?って呼んだらいいのかな?それともアサヒって気軽に呼んだ方が親しみやすいのかな?
でも、今まで同じ年頃なんてクロしかいなかったしぃ?
心配事もあれどなんか楽しみかも~なんて?仲良くなれるかな~?
…
後日、ジャパリパークキョウシュウエリアに向かう船、ゲンキと共に一人の少年がその船に乗っていた。
やや茶色がかった髪の色で特に大きく特徴はない服装、普通にグレーのジップ付きパーカーに下はジーンズとスニーカー、彼は退屈そうに寝転がりその船が港に到着するのを黙って待っている。
楽しそうでもなく、ただ単に船が止まるのを待っていた。
「アサヒ、なぁおいアサヒ?寝てるのか?」
「起きてるよオジさん」
「もう着くぞ~?美人がいっぱいだぞ?」
だからなんだと言うのか…。
と彼は考えていた、女性に興味が無いという訳ではない、無論興味は人並みにある。
だがとてもたくさんの美人が周りにいたとして、自分にそれをどうにかする甲斐性は無いので居たところでこっそり眺めることしかできないだろう。
人見知りで女性と話すのが苦手という訳ではなないが、歳並みに美人を前にすると少し緊張するだけである。
実際クラスメイトとは男女関係なく普通に話している、彼は世間一般で言う普通の高校一年生だった。
尤も… 今の彼は学校という場所に足を運ぶ気にはなれないのだが。
「着いたぞ、荷物忘れるな?」
「うん」
やがて船が動きを止め港にたどり着く、彼は体を気だるそうに起こすとゲンキに言われた通りキャリーバッグを引きずりながらゆっくりと船を降りた。
外に出た時、その景色に思わず声が出た。
「はぁ… すっご…」
彼は率直にそう思った。
噂に聞いたサンドスター火山、森もあれば雪山も見える、砂漠もあると聞いている、ありとあらゆる環境がこの大きくもない島に全て備わっているのだ。
「ようこそジャパリパークへ?」
「アハハ… うん、どうも」
船内でいいだけ聴かされていた曲のタイトル通りゲンキからそう言われた彼は、思わず苦笑いしか出すことができなかった。
いい曲だけどあんまり聴いてるとこ人に見付かりたくないな… ってそんな印象の曲だったからだ。
そうして苦笑いしながら島に足を踏み入れるアサヒ、そんな彼を出迎える人達が既にここにいる。
「ようこそアサヒくん?初めまして、ゲンキから聞いてるかな?」
「短い間だけど、自分の家だと思っていいからね?」
船を降りるなり男女二人組が彼を出迎えてくれた、片方は髪が真っ白の男性… 獣の耳と尻尾があって顔立ちは割と整っている。
もう片方は普通の女性… に見える、彼女の長い黒髪は少しクセがありフワリとウェーブがかかっている、こちらも笑顔が素敵な美人だとそんな印象を受けた。
「アサヒ、お前がしばらく世話になるとこの家主… でいいんだな“ユウキ?”」
ユウキと呼ばれた男性、アサヒは彼のことを既にゲンキから聞いていた。
フレンズと人間のハーフ、故に女性しかいないはずのフレンズだが彼は男性である。
そしてゲンキとは親友と呼ばれる仲である。
「なんでもいいよ… アサヒくん?こんな姿をした俺が怖いかもしれないがそんなに固くなることはないよ?何も取って食おうなんて考えてないから、どうか楽にして?」
「あ、いえそんな!しばらくお世話になります!ご迷惑お掛けします!」
妙な気遣いに彼は慌てて深く礼を返した、特に恐れている訳ではない、フレンズという生き物を初めて見て少々唖然としていたのだ。
「なんか、ゲンキの親戚にしては礼儀正しいんだな?ちょっと驚いた…」
「まぁ、
「否定はしないのかよ…」
そんな風に笑い合う二人を見ていると確かに親友同士なんだなと感じるが、このユウキという人物… ここジャパリパークではシロと呼ばれている彼は不思議なことに随分と見た目が若々しい、アサヒから見てもとてもゲンキと同じ年齢には見えないのである。
そしてそれは彼の妻も同様のことで。
「えーっと… アサヒくん?うちにはあなたと同じくらいの娘がいるの、良かったら仲良くしてあげて?ちょっとお転婆だから迷惑かけるかもしれないけど…」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
娘のことで苦笑いしているこの女性、ユウキことシロの妻で“かばん”というらしい。
変わった名前だが話しに聞いた通り美人で、やはりこちらも夫同様にとても若々しいと思い彼は少し見とれてしまった。
不思議な夫婦だ… と彼は礼の後もぼんやりと二人を眺めていた。
「滞在は2週間、まぁ夏休みだからこいつがまだ居たいって言うならギリギリまで引き延ばしてやってもいいさ?その代わり宿題ちゃんとしろよ?」
「わかってるよ…」
「うん、それじゃ行こうか?どうぞ、バスに乗って?」
シロに言われアサヒは大人しくジャパリバスに乗り込んだ、ゲンキとはここでお別れだ。
これより滞在期間の2週間、その後またここに顔を出すことになっている。
この2週間が彼にとってどれほどの経験、思い出になるのか…。
それはまだわからない。
…
「ただいま、連れてきたよ~?」
パパとママだ!いよいよ例の彼と初顔合わせだ!緊張するぅー!
と私はいの一番に外へ飛び出した。
「おかえりなさい!」
「よく戻ったのです」
「客人をもてなす時はお菓子ですよ、さっさと作るのです」
「はいはい」
私は男女間の不安はあれど同じ年頃の子がくるというのが楽しみで仕方なくなっていた。
どんな人?どんな顔?どんな声?背は私より高い?低い?特技は?趣味は?外には何人くらい友達がいるの?向こうはどんな感じ?楽しいの?どうしてパークへ来たの?
聞きたいことはいろいろ考えていた。
だって同じ年頃の友人、私にはそれが初めての存在だったから。
そして遂にこの時、私と彼はその日初対面を果たした。
「あ、どうもアサヒです」
「よく来たのですアサヒ」
「我々はこの島の長」
「アフリカオオコノハズクの博士です」
「助手のワシミミズクです」
「あ、はいよろしくお願いします」
空を飛ぶ二人にやや困惑気味のご様子、先に博士と助手に挨拶をした彼はペコリと丁寧に礼をした。
すごい!本当に私と同じくらいの男の子だ!しかも礼儀正しい!ゲンキおじさんの親戚なのに!
よーし!第一印象が大事だし元気にご挨拶するよ!
私は彼の前に立ちギュッと手を取るとかなり元気よく挨拶をした。
「初めまして!私はシラユキって言うの!みんなユキって呼んでるから是非そう呼んで!あなたはアサヒって言うんでしょ?なんて呼んだらいいか考えてたんだー!えーっとねぇ?“アッくん”はどうかな?どう?やっぱりちょっと馴れ馴れしいかな?」←一息
「えーっと…///」
早口だったかもしれないしスゴい勢いで困らせていたのかもしれない、それでも私はその時なぜかとても嬉しくって、両手でガッシリと彼の手を握りブンブンと激しい握手を交わしていた。
「ほらユキ?彼が困ってるよ?少し落ち着いて?」
とママに言われてやっと正気に戻った。
「あ、ごめんなさい!なんだかこうして会えたのが嬉しくって…」
「いや、いいよ大丈夫… えーっと?アサヒです、シラユキちゃん?でいいんだよね?これからお世話になるので、どうかよろしくお願いします」
「は、はいこちらこそ!」
慌てた私とは対極に彼はとても落ち着いていた、丁寧に礼をして私に挨拶を済ませると、ニコッと優しく笑いながら静かに握手を返してくれた、苦笑いではないはず。
「あとはその… 呼び方は任せるよ?呼びやすいように呼んで?君はユキって呼んでもいいのかな?えっと… 可愛い名前だね?」
「へ?可愛い…」
そ、そうかな?///
いや、言われたのは名前のことなんだけど、それでもなぜかこう浮き足立つような感覚に陥った。
パパに言われたのも違う、クロに言われたのも違う、もちろん島中のみんなに言われたのともまったく違った不思議な感覚だった。
これが年頃の男の子が友達にいる感覚かぁ?とそれを楽しむことにした。
「ありがとう!えへへ///じゃあアッくんでいいかな?」
「うん、いいよ?よろしく」
「よろしくね!じゃあ、部屋まで案内するね?船旅は長くて疲れたでしょ?」
「ありがとう」
私は彼を連れて家に入り、クロの部屋まで案内することにした。
ちなみにクロの部屋は地下室のことではない、クロが地下にこもっていたのはギターの音を気にしてうるさくしないようにする為の配慮だ。
だから実質、この本当のクロの部屋に人が入るのはかなり久しぶりである。
「ここがそう、好きに使って?」
「誰かの部屋… かな?いろいろ揃ってるように見えるけど」
「うん、双子の兄がいてね?クロユキって言うんだけど… 出ていっちゃったから」
「そうなんだ?お兄さん、どうかしたの?」
クロは… スナ姉を追って家を出た。
分かりやすく簡単に話すなら“愛を取り戻しに行った”って感じだろうか?
私達はクロのベッドに並んで腰掛け、気を楽にクロのことを話した。
…
「へぇ、情熱的なお兄さんだね?やっぱりユキとはそっくりなの?双子だし」
「あんなに情熱的だったとは思わなかったけどね?クロはママ似なの、私はパパによく似てるでしょ?あ、これ見て?去年の写真」
写真はクロと私が15才の誕生日にキョウシュウで撮ってもらった写真、ヒマワリおばちゃんことヒマりんを筆頭にもみくちゃにされてるやつだ。
別のやつの方がよかったかな?もっとキメ顔で落ち着いたやつ、失敗失敗…。
「本当だ、お母さん似なんだね?」
「うん、性格もそうだよ?私よりずっと頭がいいの」
クロは昔から落ち着きがあって私よりずっと大人だった、双子なのにこんなに違うの?って少し羨ましく思ったこともある。
代わりに私はクロよりずっと感覚で動いていた、だから考えて答えを出してから行動するクロより早く行動に移ることができた。
でもあの日は違った…。
クロはあの日家を出る時は考えているというより「とにかく会いに行く」ってそんな感じだった、全ては本人に会ってから考えるってそんな目をしていた。
だから、人を好きになるとそこまで自分を変えられるの?って後から不思議に思ってたし、それは今でも思う。
「寂しい?」
なんて言われたのは、私がその時そんな目をしていたからかもしれない。
だってずっと一緒だったもん、ママのお腹の中にいるときから一緒だったクロだもの。
そりゃあケンカもしたしムカつくこともたくさんあったけど、世界に一人しかいない私のお兄ちゃんだもん。
仲は良かった、だから…。
「少しね?」ってそう答えた。
そしたら彼は「そっか」って心配そうに私を見てた。
話しててわかったのは彼が優しいんだなってこと、それがわかると安心して彼のことをもっと知りたくなった。
「でもアッくんが来てくれたし、しばらくは寂しくないよ!改めてよろしくね!」
「あの…///」
「あれ?どうしたの?顔が真っ赤だよ?」
「あぁ~いや… うん、俺も来てよかったよ?ユキに会えて… その、良かった///」
「私も嬉しい!ありがとう!」
顔を真っ赤にした彼は目を逸らしたまま両手で顔を覆ってしまった、きっと照れ屋さんなんだね?
そういえば彼はどうしてウチに来たの?訳ありだとは聞いていたけど肝心の訳は聞いてないや… 聞く雰囲気でもなくなってしまったし。
なにか辛いことでもあったのかな?それはわからないけど、私達と数日暮らすことで少しでも救われるといいな~?なんてお節介かもしれないけどそう思ってる。
でも握手したときからちゃんとわかってたよ?あっくんなんだか疲れた目をしてるなって。
するとこちらから尋ねたわけではないけど、彼は私に向かいなにか意味深な質問を投げ掛けた。
「ユキはさ…」
「なぁに?」
「それまではずっと楽しいと思ってやってたことが急につまらなくなることってある?なんかこう、いろいろ原因はあると思うんだけど… そんな経験はある?」
私には難しい質問だった、意図もわからず上手に答えることができない。
こんなとき、クロだったら上手く答えられるのかな?
そう思うとなんだか悔しい… クロに対してではなく、せっかく話してくれたのに上手に答えることができないそんな自分が悔しいと感じている。
“クロなら”とか“パパやママだったら”とか、答えが導き出せずに人に頼ろうとする自分が残念でならない。
彼は私に話してくれたのに、私にはいい答えが出せない、そんなのって辛いよ?彼は答えを聞くことで何か変わると信じてるはずだもの。
でも、わからないなりに今の私が答えるとしたら…。
「私にはよくわからない… でももしそれがもうほんとうに楽しくなくってアッくんのことを追い詰めてるなら、無理してやる必要はないんじゃない?」
こんな答えしか出してあげられなかった。
「ゴメンねこんなことしか言えなくて?私あんまり頭がいい方じゃなくて…」
「あぁいや、いいんだ?困らせてごめん、初対面なのにいきなりなに話してるんだろうね?俺…」
なにがあったかは知らないけれど、楽しかったはずのことをやりたくないと思うなんてよほど嫌なことがあったに違いない。
助けになってあげられたらいいけど。
…
その晩、アサヒは自分の家とはまったく違う環境だったためか少し眠れずにいた。
ジャパリパークのシロ一家と島の長の二人、心良く自分を招き入れてくれた優しい人達だ。
彼にとって、向こうでの自分を知らないみんなとの暮らしはどこか肩が軽く感じていた。
“ケモノはいてもノケモノはいない”。
本当にそうなんだな… と彼はその場にいることに安心感を覚えた。
みんな優しかった、食事も美味しかった、それから…。
「無理してやる必要はない… か」
彼は、シラユキのような女の子には初めて会った。
彼女は正直だ、彼が学校で話す子達のように裏がない、何もみんなが腹黒いと言っているわけではないが、彼の周りに群がる子は皆彼ではなく彼の“才能”に近寄っているに過ぎなかった。
どうしてやめてしまったの?
もうやらないの?
頑張ろうよもったいないよ?
…と人の気も知らないであれこれ好き勝手言ってくる学校には既に嫌気がさしていた。
「二週間か… すぐ終わりそう」
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