第99話 親子喧嘩

「なぁんじゃ珍しいの?土産はあるのか?」


「ご無沙汰してますスザク様、はいこれお弁当です」


 紅く神々しいそのお姿に変わりはない四神獣スザク様は今日も元気にパークを守っている。


「辛気臭い顔じゃの?悩みか?」


「俺は親として正しいのかと思いまして…」


「ケンカでもしたか?」


「ケンカというか…」


 こんなことってあるだろうか?


 息子の愛する女性が遠くへ行くのを手助けするんだ、しかもお互い離れることは望んでいない。


 俺個人の意見としてはだよ?


 あんなのスナネコちゃんが意地張ってるだけじゃないか?録画のあと泣いていたのも俺は知ってるんだ、それに船で海に出たときだって大泣きしてたじゃないか?


 ツチノコちゃんのこと言われたら俺は弱るけどさ?


 向こうに着いた時、俺たちもツチノコちゃんには会った… 早朝だったから少し迷惑そうな顔されたけどスナネコちゃんを見たときにそういうことかと察してツチノコちゃんも機嫌を直した。





 その日、青い髪の彼女はフードを下ろしてポニーテールにしていた… どういうわけか肩はノースリーブに変わっている、彼女もそれなりにコントロールを極めたということだろうか?まぁ要はこの数年でやっとイメチェンしたってことだ。


「おはようツチノコちゃん、それ… 似合ってるね?可愛いよ?」


「おい!世辞なんざいいんだよ!日が昇ったばっかりだぞ!迷惑考えろテメー!」


「ごめん、でも彼女の希望でね?理由は本人に聞いて?」


「あぁん?ってなんだよ… 予定より随分早いな?」


 ツチノコちゃんとスナネコちゃん… かつて砂漠コンビと言われた二人は、砂漠でもなんでもないこの場所でまた再結成された。


「早くツチノコに会いたくて… 早とちりしました」


「そんな腫れぼったい目で言われてもな… なにがあった?」


「なんでもありませんよ?もう帰ることのない故郷にサヨナラを告げると、案外泣けてきたってだけです」


「フン、まぁいいさ?よく来たな?なんかほら… 嬉しいぞ?」


 聞いても教えてくれないことはわかっていたんだろう… 妻が先生にも丁寧にお詫びをして、これから俺達は船に戻るだけなんだが。


「やっぱりダメだ…」


「シロさん?」


 言うまいと… 言えるはずがないと心に決めていたんだがダメだ、やっぱりクロが可哀想すぎる!


「スナネコちゃん、考え直さない?」


「やめてください、ここまで来て…」


「クロはどうするんだよ?君だってクロのこと簡単に忘れられるはずないだろ?」


「話が見えないな?どういうことだ?」


「ツチノコさん、実は…」


 妻がツチノコちゃんに一部始終を話した、これだけは言えないとスナネコちゃんから固く止められていたことだったが、親友に隠し事しながら今後を過ごしていくのもどうだろう?やつばり辛いんじゃないか?なんて約束を破った言い訳をしてみる。


「クロと… スナネコがか!?」


「信じられないだろうけど事実なんだよ?スナネコちゃん、これをツチノコちゃんに話した上でもう一度聞く、本当に帰る気はないの?クロのもとに!」


「あの、ボクは… クロ…」


 スナネコちゃんはなにか言いかけたが、うつむくとそれをすぐにやめて涙を拭った。


「いえ、始めから決めていたことです…

ボクはツチノコと行きます」


 そんな未練たっぷりで本当にいいのか?クロが好きなんだろ?どうして二人が離れる必要があるんだよ!


 多少無理にでも止めよう?俺がそんな物騒なこと考え始めた時だ。


「おいスナネコ?別にいいんだぞ?無理しなくても?」


「無理なんかしてませんよ」


「お前が来てくれるのはそりゃ… オレも嬉しいぞ?で、でもなぁ!オレはお前が向こうでクロと幸せにやってんならそれはそれで嬉しいんだよ!なに意地張ってんだ!」


「ツチノコがボクを迷惑だと言うなら仕方ありません… その時は残ります」 

 

 前の彼女なら口からデマカセを言ってスナネコちゃんを突っぱねたかもしれない、でも彼女も長く離れていた為か、あるいはここで離れるともう会うことはないという心にある寂しさを誤魔化せなかったのか。


 ツチノコちゃんは、彼女に言い返すことはしなかった。


「迷惑なわけ… ねぇだろ」


 この返事がくることを読んでいたのか、スナネコちゃんの方が一枚上手だったようだ。


「なら行きましょう?ボクは確かにクロが好きですよ?その気持ちは誰にも負けません、でもツチノコだって昔からのボクの親友なんです、ずっとずーっと待ってたのにツチノコはもうキョウシュウには帰りません、もう会えないなんてあんまりです… 流れ星が願いを叶えてくれないなら、自ら叶えに行くまでです」


 そのままツチノコちゃんも折れてしまった… 俺達夫婦は急な別れになったと二人に再度サヨナラを言ったが、こちらとしてはやはり釈然としない… でも、ツチノコちゃんのことを考えるとやはりこれが正しいことはんだろうか?


 そっか、君ともサヨナラか…。


「ツチノコちゃん!」


「…ん?」


「またね?」


「あぁ… またな?バカ野郎?」


 もう会えない… それを知りつつ俺達はキョウシュウへ戻った。

 



… 




「ふーむクロがのぅ?」


「俺は間違ってたのかな…」


「知らんわ… だが1つ言えるのが、スナネコを止めても無駄だったということじゃろうな?お前が止めても協力を断ってもなにかしらの方法でこの島を出たじゃろう」


 だよね… 我が道を行くスナネコちゃんだもの、意地でもゴコクへ向かうだろう。


「それで、どうするんじゃ?」


「どうって…?」


「本当にバカ親父じゃなお前は!約束通りスナネコは向こうに送り届けた!伝言もクロに届いとる!あとはなんじゃ?何もないじゃろ!だぁったら父親としてやるべきだと思ったことをやらんか!このバカ猫!」


 父親としてやるべきこと?


 俺は… 俺がクロの立場だったら…。


 そうか、だったらアイツのために俺がしてやれることと言えば…!


「わかった!行きますッ!」


「うむ、皆によろしくのぅ?」

 







 

 スナ姉からのメッセージを聞いて、まごまごしてるうちに夜が明けてしまった。


 だが迷ってる場合ではない、すぐに追いかけないと!とにかく港だ!港についてから船のことを考える!



 僕はクロユキ、みんなはクロって呼んでる。



 だけど…。



 同じように“クロ”って呼ばれていても、僕の中の特別の“クロ”がある。



 大切な人が呼んでくれる“クロ”だ。



 ざっと荷造りを済ませ僕は地下室を飛び出した、とりあえずゴコクエリアだ!絶対に追い付いてやる、誰にも邪魔はさせない!


「わぁ!?クロ!?どこ行くの!?」


「ゴコクエリア」 


「もしかして、スナ姉を追うの?」


「そうだよ、だからなに?」


 ユキ… 僕の双子の妹…。


 彼女は僕の扱いが絶妙に雑だがこれは僕とユキが仲のいい兄妹だからだ、信頼関係あってこそのお互いの憎まれ口だ。


 そしてユキは、とても家族思いだ…。

 そんなユキは僕に言ったのだ。


「いってらっしゃい?」


「止めないんだ…?」


「止めても無駄なんでしょ?わかるよそれくらい、兄妹だもん?でもどうしてそこまで必死になれるの?だってスナ姉は自分の意思で島を出たんだよ?今更追いかけても迷惑になるかもしれないんだよ?」


 双子でありながら今の僕とユキには決定的に違うところがある、それは男女の違いとかフレンズとしての特性の違いだとかそんなことではない。


「ユキもさ?死ぬほど誰かを好きになれば多分分かるよ?パークじゃあ年頃の男の子なんていないから難しいだろうけど、きっとユキも誰かと恋に落ちる日が必ず来る、だって僕達双子なんだから?僕だけにあってユキにないはずないよ」


「恋?私が…?」


「うん、だからもしその時が来たらユキも後悔しないようにね?」


 まだユキにはわかんないんだろうな、でもそれは無理もないよ、こればかりは周りの環境に対して男に産まれた僕が早かっただけだ。



「クロ、行くのですね?」

「海を渡るのです、宛はあるのですか?」


「博士、助手…」


 宛なんてない、あるはずがない… でもどうにかしてやるさ?こうしている間にもスナ姉はどんどん遠くへいってしまうんだ、とにかく今は一歩でも彼女に近づきたい。


「では捕まるのですクロ?港までなら連れてってやれるのです」


 と僕に手を差し伸べたのは助手だった。


 助手はいつもそうだ、いつだってこうして僕を助けてくれるんだ… 心配性で優しい助手、僕はそんな助手が大好きだ。


「いつもありがとう助手?でも助けてもらうのもこれで最後になるかもしれない」


「帰るつもりはないのですね?」


「わかんない…」


 そうだ、わからない… わかるはずがない、僕だって無理に連れ戻そうなんて思ってないんだ、二人の旅に僕も着いて行くかもしれないし追い返されるかもしれない、あるいはスナ姉のプライドよりも僕への気持ちが勝って戻ってきてくれるかもしれない。


 その時、ツチ姉のことだからきっとスナ姉に「行け」って言ってくれるんだ、でもスナ姉はどうかな?ツチ姉を一人にしないために着いていったのに。


 だからその時僕は逆に言ってやる… 僕を連れていけないなら三人で帰ろうって!


「クロは、本当に立派になりましたね?」


「そんなことない… 諦めがつかないからこんなことになっているんだもの」


「それは違います、ただ気持ちが大きいだけですよ?だから自信を持つのです、好きなら全力をぶつけるのです!できますか?」


 暖かい激励… 助手はいつだって僕に味方してくれる、だから僕の答えはこうだ。


「当たり前さ!港までお願い!助手!」


 飛び立つ瞬間、次に現れた人物に僕は再度呼び止められた。


「待ってクロ!」


「ママ!止めても無駄だよ!僕は行く!絶対に行くから!」


「止めないよ!だからこれ…!持っていきなさい!」


「これって…?」 


 あっという間に僕の腕に巻かれた物があった… それは普段母の腕に光る物、わかんないことはなんでもそれが教えてくれるんだ、それはいつだって母とサーバルちゃんの頼もしい味方だった。


「ラッキー?」


「ラッキーさん、クロをお願いします?今まで助けてくれてありがとうございました!今度はクロを助けて上げてください?」


 母の目には涙が浮かんでいた… そのまま僕を抱き締めて「いってらっしゃい、気を付けてね?ちゃんとご飯食べてね?」って言ってくれて、なんだか母の温もりというのをとても久しぶりに感じた僕は少し照れくさかった… でも、嬉しかった…。


「カバン サーバルトノ三人デノ旅カラ始マリ 君達家族トノ生活 楽シカッタヨ」


「僕もです、今までお世話になりました!」


 母から受け継いだラッキーを装着し、家族からの想いを受け取り、今まで生きてこれたことに感謝して。


「いってきます!」


「「いってらっしゃい!」」


 僕は今度こそ助手に掴まりギターを背に飛び上がった。





 でも飛行中に思ったんだ…。





「パパ… どこにいるんだろう?」


「大丈夫ですクロ、何だかんだ言ってアイツは過保護なのです… きっとどこかで見ているのです、照れているのですよ?」


 そうだろうか?


 僕は怒りに任せて父に掴み掛かったんだ、そんなバカ息子には愛想を尽かしているのではないだろうか?


 せめて一言、ごめんなさいくらい言いたかったってそう思う。


 パパ?パパだったらどうしてた?


 やっぱり意地でも彼女を迎えに行った?もしママがどこかへ行ってしまったら、パパならすぐにでも家を飛びとしたかな?


 僕は行ってくるよ?だから…。


「いってきます…」


 風に掻き消されるくらい小さな声で、その場にいるはずもない父に対してそう言った。









「とりあえず港には着きましたが…」


 日の出港… 今は昔と違い何隻か船が出入りしている。

 資材の搬入であったり調査隊の人たちの出入りであったりいろいろだ、お客さんと呼ばれる人が入るようになるのは今から見ても大分先になるだろう。


「ここからゴゴク行きの船を探して連れてってもらうよ?こんなにあるんだ、絶対あるよ?助手、ありがとう?もう大丈夫だよ?」


「クロ…」


 フワリと僕の目の前に降りてきた助手は優しく僕を抱き締めた。


「…助手?」


 温かかった… 先程の母の時とはまた違い、やはり血の繋がりというのがないと変に意識してしまうものだ。


「私の話を聞くのです、聞くだけでいいのです?返事はいりません…」


 僕はもう助手より背が高くって、助手の頭はちょうど僕の胸の辺りにぐっと縮こまる形に収まっていた。


 トクン… トクン… って僕の心臓の鼓動が、助手にもしっかりと聞こえていることだろう。


「もしもの話です、このままクロを送り出し、そのあと無事にスナネコ達に会えたその後、優しいクロのことですからスナネコの意思を尊重するのでしょうね?

 その時は、彼女らと一緒に旅をすることになる場合もあるでしょう… あるいはキョウシュウに仲良く帰ってくる場合もありうることです、ですが… スナネコがどうしても帰らない、クロも着いてきてはいけないと突っぱねてきてしまった場合… どうか、どうかその時はクロだけでもここに帰ってきてほしいのです?」


 僕は言われた通り返事をせずに助手の肩を優しく抱いていた。


 でもそれだけだ、特に他意があるのではなく… 彼女が懐にいるからと言って強く抱き締めるようなことせずに、ただ肩をゆったりと抱いている。


 助手が言うのは僕がスナ姉にフラれた場合の話だ、もし… そうなったら僕は…。


「帰ったとき… もしクロが傷付いて帰ってきたときは!その時は私が…!」 


 と助手がそう言いかけたときだ、僕らの前に猛スピードでバギーが走り込んできた。


 キキキィ!とタイヤ痕を残し僕らの前に現れたのは他の誰でもない、間違うはずもない。


「パパ…」

「シロ…」


「クロ… こんなところでどうした?行かないのか?」


「行くさ、船を探してるんだ」


 父は怒っているようには見えない、ただし何か飲みこまれてしまいそうな… そんな圧力のようなものを感じる。


「まぁ待て、船を探しても無駄だ… ここにゴコク行きの船はない」


「探してみないとわかんないだろ?」


「いいやないんだ… それにここの人達みんな仕事中だ、邪魔してあげるな」



 わかった… 父は僕を止めに来たんだな?


 ゆっくりと近づく父からは敵意こそないがやはり威圧感のようなものをひしひしと感じる、最悪の場合僕を力付くで止めるつもりだと思う。


「…!」


 ブォン!という音ともに僕は光の手を左右に出現させて父の前に立ちはだかる。


「クロ… シロ!何をするつもりですか!」


「助手は少し黙っててくれるか?親子の問題なんだ」


「パパ… 僕は海を渡る、絶対にだ!邪魔はさせない…!例え家族でもだ!」


「俺が邪魔に映るのかクロ?ならどかしてみろ、俺は逃げも隠れもしない」









 親子喧嘩。



 シロにしてもクロにしてもこんなことをしたのは初めての経験だった。


 シロは野生解放で肉体のスペックを限界まで上げ、クロユキの巧みなサンドスターコントロールから生み出される技の数々を避け、受け流していた。


「遅い!それじゃハエが止まるぞ?」


「くっこのっ!」


 一撃たりともクロユキの光の拳は当たらなかった、大振りの巨大な拳ではシロにとって軌道を教えているようなものだった。


「ならこれだ!」



 鋭くッ!速くッ!



 次にクロユキが使ったのは通常の大きさ程の光の拳をパンッ!と弾けるように打ち出す技… その昔、シロ自身がブラックジャガーに習いやがて編み出した技だった。


 弾ける無駄の無い連撃。


 パパパンッ!!!

 音速の拳が数発繰り出されたが。


「やるじゃないか?でもただ速いだけでもダメだ、そんなんじゃ向こうで足元救われるぞ?やるならもっと正確に狙え!」


 シロはそれをクロユキ同様に光の右手を生み出しすべて凌ぎきった…。


 二人の戦闘スペックにはそれぞれ差がある、サンドスターコントロールのみで見れば右手でしか自由に攻撃に移れないシロよりも全身余すことなく攻撃に使えるクロユキのほうが遥かに上回っているのは確かだ。


 しかし、それでも彼の攻撃がシロに届かないのはシロがこれまでに培ってきた戦闘感であったり、あるいは内に秘める野生の本能のおかげでもある。


 そもそも人間の動きを少し良くしたくらいのクロユキよりもホワイトライオンの力をフレンズとして自由につかえるシロでは身体能力に大きな差ができる、それによりクロユキは父という大きな大きな壁にぶつかっているという状態だった。


 しかし…。


「まだっ!」


 クロユキは持てる全ての技を使い父親と戦い続けた、全ては愛する人のため…。


 例え父親であろうとも押し退けて彼女の元へ行かなくてはならない、それほどまでにクロユキはスナネコを愛していた。


 彼にとって譲れない勝負だった。


「二人ともやめるのです!なぜ戦う必要があるのですか!」


 助手の叫びは二人に届かない、譲れない物があるのはお互いにあるからだ。


 クロユキの使う技には父親であるシロに習った技もあれば自ら編み出した技もある、その全てを使い… 組合せ… 迎え撃つ。


 だがどれも決定打に欠けシロには効いていない、そうして翻弄される息子クロユキに父シロは問う。


「勝ちたいかクロ?」


「なに…!」


「俺に勝ちたいか?」




 勝ちたいッ!

 こんなところで負けられるか!僕は絶対スナ姉のとこに行く!ここで諦めたら一生後悔する!先に待つ結果が僕の望まない結果だとしても僕は行かなくちゃならない!でないと先に進めない!


 僕はスナ姉を愛してるんだッッッ!!!




 クロユキはぐっと歯を食い縛り意思を強く見せた。


 故に構える、あの技だ。


 下手をすれば命を奪うことになる、あの技を打ち込むために… 父に禁じられたあの技を父に向けて使うために。


「引いてよ、パパ…?」


「気にするな、叶えたい目的があるなら乗り越えて見せろ?俺はただその上をいけばいいだけさ、勝ちたいなら全力で撃て!いいな?全力だ!半端に手加減したら前みたいに手の平抉るだけで止められるぞ!」


 クロユキの手のひらに凝縮されたサンドスターが高速回転を掛けながらシロに向けられた、その高エネルギー体をまともにくらえばこれまで何度も修羅場を潜り抜けた彼とて、流石にただではすまないだろう。


「死んでも知らないぞ!あぁぁぁあッ!」


 ズダァァァンッ!


 という弾けるような音とともにエゲつない程の回転を加え光弾が撃ち放たれた。


「ガァァァァァァアッッッ!!!!」


 シロは右手にありったけ集めたサンドスターの拳でそれを迎え撃つ。


 バギィャァァァァァァンッッッ!!!


 ぶつかり合う父と子のサンドスターはその場で拮抗としていた。



 バリバリ!バリバリ!

 と力と力のぶつかり合う余波が港に散っていく。




 おいおいなんだ?全力ってこりゃ前の比じゃないな…!俺の半端の力じゃ… 持たないぞ!?


「ぐぅッ!がッ!… グルァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」


 


 バンッッッ!!!



 



 決着がついた…。





「はぁ… っぶねぇなおい?また右腕ぶっ飛ぶかと思った、参った!負けたよクロ?お前の勝ちだ、俺はもう動けない」


 自分のサンドスターを使いきりスターキャノンをなんとか相殺させた父はフレンズの特長が消え地面に座り込み、息をあげていた。


「パパ、僕…」


 僕は父を、殺そうとした… 殺そうだなんて思ってなかった、でも後先考えずやったこともない全力のあの技を使った。


 父でなければ間違いなく殺していた… なのに父は笑いながら、満足したようなそんな顔で言った。


「強くなったなぁ?やっぱりクロは器用だなぁ? …ん?あぁやっと来たのか、遅いんだよアイツ」


 新しく船が港に着いた、これは調査隊の船、乗っているのは誰?父はこの船が来ることを知っていたの?


「ユウキ!来たぞー!」


「こらゲンキ!お前が遅いから息子に殺されかけただろうが!」


「え… っとこれはどういうこと?」


「シロ?なぜゲンキが来ることを知っているのです?」

 


 




 父は始めから反対なんてしてなかった。


 僕のために船を用意してくれていたんだ、さっきのはそのための時間稼ぎでゴコク行きの船は本当にここには無い、わざわざゲンキおじさんを呼びつけていた。


「パパ、なんで…?」


「俺がスナネコちゃんに言われたのはクロに内緒でゴコクに連れてくことまでだ、その後はお前に協力するよ?お詫びと言っちゃあなんだけどな?追うんだろ?」

 

 今思えば、父は避けてばかりで反撃してこなかった… なら始めから言ってくれれば戦う必要はなかっただろう?と思うのだけど、父は僕の成長を見たかったのかもしれない… 言われてみればまるで稽古をつけられているような感覚ではあった。


「クロ?」


「なに?」


「これを持っていけ?」


 渡されたのはキーだ、パパが乗ってきたバギーのキー…。


 僕がバギーに?ユキと勝手に乗って怒られたあのジャパリバギーに?


「二人はどこまで行ったかな?なんにせよ歩きじゃキツいだろ、壊すなよ?」


「いいの?」


「もちろん、まぁ俺にできるのはここまででこんなもんだけど… クロはしっかりものだから後は一人でも大丈夫だろ?なにすぐに見つかるさ?愛し合ってるんだろ?」


「ボクモイルヨ」


「なんだいたのかラッキー?じゃ、クロを頼むよ?しっかりしろよお前マジで?」


 ゲンキおじさんの乗ってきた船にバギーを乗せ、そのまますぐに港から出港した、父と助手がこちらに手を振っている。


「気を付けるのですよー!」

「辛くなったらいつでも帰ってこいよー!あと、ツチノコちゃんにもよろしく言っといてくれー!」


 あぁ… 僕は故郷を離れるのか…。

 

 そう思ったら涙が溢れてきた、だんだん遠ざかる父達の姿に胸を締め付けられた。


 

 スナ姉… 僕が行くと迷惑かな?


 だけど、僕は行くよ?


 だってもっと君と一緒にいたいから。



 だから…。


 いってきます。

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