第96話 二人の歌
たった数日間の話さ、僕の悩んでいた期間のことだ。
中には辛くって辛くって何ヵ月も何年も悩む人だっているのに、僕ときたらたった数日で解決してしまった。
周りからみたら僕の悩みなんて大したものではなかったのかもしれない、もっともサーバルちゃんに対する恋心をスタートとするなら、僕の悩みは12年くらいの悩みってことになるのだけど。
色々解決してから、もう何日も経った。
僕はクロユキ、みんなはクロって呼んでる。
「クロ~!スナ姉~!朝御飯できたって~!」
ユキがドア越しに僕らを呼んでいる、もう朝なのか…?そう思いながらゆっくりと目を開けると、僕の腕を枕にして眠る彼女の姿が目に入る。
同じベッドで寝てるのは僕の恋人でスナネコのフレンズ、僕と妹はスナ姉と呼んでいる。
「ユキが呼んでる、スナ姉?朝御飯だって?起きて?」
少し肩を揺すると彼女は「ふぁ…」とアクビをしながら猫らしくグッと体を伸ばした、シーツがめくれて背中が露となり、それを見た僕は昨晩のようについ触れてみたくなったが、彼女は目線を動かすとすぐに僕の方を見て言った。
「おはようございます… でもクロは“その状態”で布団を出られるのですかぁ?」
「…」
このままじゃダメなの?
この状態はふっくらなんだって?だからダメなの…。
でも待たせるわけにはいかない、だからすぐに一戦終えてかr…いや前屈みになりながらでも行かなければ。
「出s…いや出れるよ?そう、サンドスターコントロールを使えばね?待ってて?コォォォオ…」←リラックスする呼吸法
心頭滅却… 心頭滅却… 心頭滅却…。
「おぉ~… でもこっちの方が早くはないですかぁ?」モゾモゾ
「あぁ朝からそんな!スナ姉待って!?あーはー!?」
そんな楽しそうな僕の叫びを聞いてドア越しにまたユキの声がする。
「も、もぉ~!朝だよ!?ほどほどにしてよ!みんな待ってるんだからね!す、済んだら早く上がって来てよ?///」
ユキが階段を上がり、僕は天に昇る…。
クロユキでした。
…
朝は大体こんな感じ、いや若いからいつも元気って意味ではなくてだね?
曲の練習で夜はスナ姉と地下にこもりっきりだから朝はこの様だ、眠くて敵わない…。
しかも二人で布団に入ってみろ、結局寝る時間がさらに遅くなるんだ、だからスナ姉を始めなにも言わないでいてくれるみんなには頭が上がらないんだ僕は。
いやはやスゴいね?地下室?
「おはようクロ、いろいろあるだろうが朝御飯には遅れないようにしてくれ?みんなで食べるのがルールだ… スナネコちゃんもあまりクロのこと甘やかさないでよ?」
「満足…」ツヤツヤ
「なるほど“朝食”は済んだとでも言いたいのかい?」
「し、シロさん朝ですよ!変な話しないでください?」
父と母が帰ってきて、フェネちゃん達は本業に戻ると図書館を後にした。
フェネちゃんは僕のせいで深く傷つけてしまったけれど、アライちゃんがいつだって隣にいるおかげか、みんなの前ではいつものフェネちゃんだった。
「はいよー」って笑いながらなんでも冷静にそつなくこなす彼女のその姿を、僕はいつだって尊敬している。
彼女はあの晩、僕とのことを「からかったに決まってるじゃないか?」と言っていた。
確かに彼女の性格ならそういうからかい方もできそうだけど、最初に迫ってきた夜もその答えを僕が出した夜も、彼女の本当の心だったと僕は思っている。
それにあんな風に泣かれたら嘘だって言ってるようなものじゃないか?もしあれが演技なら、彼女はパークで一番の名女優だ。
フッたと言えば、父もその昔ツチ姉をフッたらしいじゃないか?
こっそり話してみたのだけど「辛いけど選択を迫られることもあるさ?」とどこか遠い目で語っていた、表には出さないが父にとっても辛い出来事であったのはすぐにわかる。
ただし後悔はしてないそうだ、父は母のことを引くほど愛しているし、その結果僕達兄妹がこの世に生を受けている。
家族に囲まれた父は…。
「こんなに幸せになったことなんてないよ」
と僕に笑いかけた。
あと、初孫が近いかな?だって… んもぉー!き、気が早いんだからぁ~!
ところでステージで僕らの曲の御披露目の件なんだけど…。
「お前たち、いよいよ明日ですよ?」
「仕上がりは順調なのですか?」
二人の長は食後の僕らに「調子はどうだ?」と言うようなことを言ってきた。
答えは決まってる。
「「バッチリ!」」
お互い一度目を合わせてからニッと笑って言い返す。
これなら文句なしのバッチリ最高な演奏ができる、スナ姉の歌も僕の弾くギターも最高!今ならライトハンド奏法もできそうだ。←エレキでやれ
「よい返事なのです」
「やるのはPPPの前座となります、ヒーローショーと同じようなものです」
「ボクはいつだって構いませんよ?」
「まさか本当にやるとは思わなかったし、その方が僕も気楽でいいや」
いよいよ明日、それが僕とスナ姉の晴れ舞台となる、結婚式じゃないけど晴れ舞台だ。
「そういえば、タイトルは決めたのですか?確か名無しだったはずです」
「決めたよ、歌うとき発表するから楽しみにしてて?」
そうそう、タイトルは大事… ちゃーんと二人で相談して決めたよ?愛する我が子のようなものだしね?
緊張するけど楽しみだ、僕らの曲がこんな大きくなるなんて。
それにほら?これってあれだよね?
共同作業ってやつでしょ?
…
「ビックリしましたねシロさん?スナネコさん、サーバルちゃんの家では世話を焼いてるだけなんて言ってたのに」
「うん、照れてたのかもね?まさか恋愛するなんて本人も思ってなかっただろうから」
俺が妻と家に帰ったとき、クロとスナネコちゃんがイイ関係になっていた…。
いや驚いたさ!だってスナネコちゃんだぞ!からかい上手のスナネコちゃんがクロにくびったけだなんて誰が予想したかなぁ?←フラグ乱立済み
「サーバルちゃんとのこと、ずっと小さい頃から悩んでたみたいだったから僕は安心しました… あんな風に誰かといて幸せそうにしてるところを見ると、なんだか僕らまで安心しませんか?」
「勿論そうだけど、なんか今も地下室で昔からの友人と息子が“そういうこと”をしてる思うと複雑な気がしない?あのベッド俺達もお世話になったんだよ?」
「そ、そーですけど!/// まぁいいじゃないですかぁ!クロだってほら… 男の子だし?いつまでも子供では…」
今に孫ができる、俺もいい歳だけどまだおじーちゃんってほどでは… それに妻を見てみろよ?あれはどう見ても20代!俺だってどっと老け込んだ見た目してるわけではない、フレンズ化がデフォになってからは老いが遅い、カコ先生ほどではないけど似たような状態に俺もなってしまうとはね。
「どっちかな?」
「え?なにがですか?」
「孫だよ」
「それは気が早いんじゃ?だってカコさんの言ってた通りなら僕達やお義母さん達と同じです、一年は妊娠しません」
そう、フレンズと子供を作るということ、これは大変特殊なことである。
フレンズ化して人の姿はとっているが元々は動物、俺自身の話をするならホワイトライオンと人間の間に子供ができて生まれているということになる。
カコ先生には常々疑問を投げ掛けていた。
「なぜ妻は新しく妊娠しないんですかね?俺が種無しになったということですか?」
「双子を産ませといてそれは無いと思うけど… 代替わりの関係かしらね?多分フレンズが子供を産むというのは代替わりに近い行為なのよ?ユキちゃんの場合は君がそうで、かばんちゃんの場合はクロユキくん、そして君はシラユキちゃんがそれぞれ代替わりの役を担ってるということよ?」
ユキ(母)→ユウキ(シロ)
かばん→クロユキ
シロ→シラユキ
とつまりこういうことである。
代替わり… 同個体で記憶をリセットして新たなフレンズとして生を受けるそれと似たようなもので、先生によると子供は自分達の代替わりした姿だと言うのだ。
「勿論子供達には子供達の人格があるし、二人の間に産まれた新たな命であることには変わりないわ?でも、代替わりっていうのはそもそもそういうものでしょ?命を次の世代に繋ぎ、伝えていく… 君達二人の後はあの二人が引き継ぎ、その次は君達の孫… そしてその次もその次もってね?」
「なるほど… じゃあ妊娠にしばらく時間がかかったのは?」
「ユキちゃんもあなたを妊娠するのに一年ほどかかったそうね?そしてかばんちゃんも一年… サーバルちゃんもやっと妊娠にしたみたいだし、恐らくフレンズは子供を妊娠して産むということに準備期間が必要なのよ?」
「準備… ですか?」
「例えば卵を産む動物だってフレンズになればヒトの姿をした女性になる、本来そうでない動物も胎生になるということよ?つまり人間のような体で人間として遺伝子を受け入れ妊娠するにはそれを馴染ませなくてはいけないということだと私は思う… って偉そうに言ってはみたけど、どれも仮説に過ぎないし詳しく調べた訳でもないから証明はできないわ?あまり期待しないで?」
でも先生が言うんだからほとんど間違い無いんだろうと俺自身は思っている。
でないとこんなに張り切ってる俺達夫婦に子供が二人だけで済むはずがないじゃないか。
「それなら、一年後に孫か…」
「あの… ごめんなさいシロさん…」
「…?どうしたの急に?」
聞くと彼女、少し悩んでいたそうだ。
いや特別ストレスになるほどでもないがやっぱり気になるものは気になっていたらしい。
「シロさん、赤ちゃん楽しみにしてるみたいだったから… もうできないのかな?って思うとなんだか申し訳なくて…」
妻はお腹をさすり暗い表情をしている… だから俺はゆっくりと優しく、そんな彼女を抱き寄せる。
「子供を楽しみにしてると言うよりは、君との間に子供ができるのが嬉しいんだよ俺は?そして既に二人も可愛い子宝に恵まれたんだ、もう十分さ?いつも張り切ってる俺が言うと説得力に欠けるけど、あまり親のワガママで子供をつくるのも… なんかね?」
そんなことを言うと、涙を浮かべていた妻もくすりと笑っていた。
そんな反応を確かめると続けて俺は言う。
「だからお願いだからそんなに思い詰めないでよ?おかげで今は子供たちも手間が掛からないから二人の時間も増えたじゃないか?たくさんデートできるね?今からでも遅くない、若い頃できなかったこととか行けなかった場所とか、いろいろ試そう?いろいろ行こう?これからも君には俺の妻として隣にいてほしいんだ… ダメかな?」
「もぅ… えへへ… グスン… ズルいですよこんなタイミングでいきなり?当たり前じゃないですか?どこまでも着いていきますよ?奥さんですから」
もう、結婚何年かな?クロとユキは今年で16になるから、単純に16~17年は夫婦やってるのか?結婚した時俺は17だったか?じゃあ俺もう30代かよ?老けたなぁ。
でも…。
「君は、いつまでも可愛いね?」
「シロさんも、ずっと素敵なままですね?」
見つめ合い言葉を口にしたとき。
「「愛してる」」
「「あ…」」
「あっはは…」
「えへへ…」
また同じ言葉を繰り返し、不思議だね?って笑いあう。
そんな今夜はしっとりした夜になりそうだ。
なーんてピンクモードに入って二人してチュウチュウし始めた時だ、俺達夫婦の部屋のドアをノックする不届きもn…来客が現れた。
コンコン
「博士さんでしょうか?」
「どうかな?出てみるよ」
時間としては遅いというほどではない、誰が起きていてもおかしくはないし眠っていてもおかしくはない、そんな時、俺達の部屋に現れたのは?
「はいはーい、どなたー? …って」
「スナネコです」
スナネコちゃんだ、わざわざ来るなんてタイムリーな、丁度君の話をしてたところだよ…。←ピンクモードの前のことです
「どうしたんですか?」
「二人に大事な話があります」
妻が尋ねると彼女はそう言うのだ、もしかして妊娠?だなんて、俺はいろいろ思考を巡らせて考えていた。
「さてはクロのことかな?なにか迷惑でもかけた?」
「いえ、クロは素敵な男の子です、ボクにはもったいないくらいに…」
何か様子が変だな…。
スナネコちゃん、君は一体何を考えてる?
「聞いてください… ボクは…」
…
ライブ当日の朝。
僕達は朝早くみずべちほーに行きマーゲイさんとPPPに挨拶をしておいた、前座とは言え歌わせてもらうのだからこれくらいはやはり礼儀かなと思う。
「よく来たわねクロ!あなたの曲を楽しみにしてるわ!」
「作詞作曲すべて自分でやったということだろう?才能があるとしか思えないよ?」
「ギターと言えば、最高にロックなやつ期待してるぜ!」
「楽しみです!確か歌はスナネコさんが歌うんですよね?私前から可愛い声だと思ってたんですよー!」
「ねぇシロー?ご飯はー?」
一斉に喋り出すもんだから少し驚いてしまった… そして父はフルルの要望に答えマカロンを手渡している、こうなることは既に予想していたんだろう、流石だぁ…。
「へぇ~?どーやら噂通りこちらのお二人はイイ関係のようですねぇ?パパとママは大事な息子が色気付いてきて不安ではありませんか~?クスクス」
「マーゲイさんみたいに鼻血ばっかりだすよりは歳並みに恋愛してくれるほうがいいさ?人生何事も経験だからね」
「…」
「おや?かばんさんどーしました?元気がないみたいですが?」
確かにおとなしい…。
母はなにやら難しい顔で悩んでいるように見えた、父はそんな母を見て優しく肩を抱くと、なにかコソッと話しかけている様子だった。
「かばんちゃん…」
「あ… はい…」
すると一瞬だけ僕達を見つめると、母はニコりと笑い僕とスナ姉に「がんばってね?」と応援の言葉をくれた。
なんだろう?なにか不安なことでもあるんだろうか?
「クロ…」
「なに?」
スナ姉がボクに声を掛けたとき、彼女もまた笑顔ではあったのだけど。
「いえ… ボクとクロの愛を皆に見せてやりましょうか?」
「えへへ、もぉ~… うん!そうしよう!」
どこか目が悲しそうに見えたのは気のせいだろうか?早起きしたからまだ眠かったのかもしれない、昨晩は少し出てたみたいだしライブが終わったらゆっくり休んでもらおう。
…
そうして時間が迫った時。
チューニングは済んだ、軽くリハもした。
あとは成功させるだけ…。
そう思っていると、突然スナ姉がぎゅっと僕に抱きついてきた。
こうなるとどんな顔をしてるかまでは見えないけど、彼女はただ強く、とても強く僕を抱き締めていた。
「どうしたの?」
って僕も抱き返しながら髪を撫でた、すると彼女は言った。
「帰ったら、いっぱい構って?ボク、鬱陶しいくらいくっつくかもしれませんけど… それでも構ってください?」
彼女はこれから歌うというのに、僕にはなんだかその声が震えているように聞こえた。
彼女にしては珍しく本番前の緊張でもしてたのだろうか?あるいは、泣いていたのかもしれない…。
だから僕は。
「言われなくたってそのつもりだったよ?僕の方こそ鬱陶しかったらごめんね?」
そう答え、薄暗く誰もいない舞台裏で向かい合い見つめ合うと、始まる前にそっと口付けを交わした。
唇が重なり、体もグッと密着している。
するとなんだかまるでひとつの体になったみたいで、妙な安心感を覚えた。
「じゃあ、行こうか?」
「はい!」
ステージに上がると「クロ~!」って皆の呼ぶ声がした。
客席には家族やみんなが既に集まっていて、他にもPPP待ちのお客さんで溢れかえっており正に満員御礼と言ったところだ。
大きなステージだ、それでも僕は怖くない。
彼女が隣にいてくれるから。
僕達はこの場を借りて自分の曲をみんなに聞いてもらえることに感謝し、それを言葉にして述べる。
「この曲はスナ姉と二人で作ったんだ?一人じゃとても無理だった… だから二人で作ったこの曲を、これからみんなに送ります!じゃあよかったら聞いてください!」
一度顔を見合わせると僕達は合わせて曲のタイトルをみんなに伝えた。
「「ぼくのフレンド!」」
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