第88話 せっきょう
僕はクロユキ、双子の妹にシラユキがいる… みんな僕らのことをこう呼ぶ。
「クロ、ユキ」
空が青い、あと頭のてっぺんが痛くて仕方がない。
何故ならば…。
「いつまで寝てる、みっともないからそこに座れ、正座だ」
今しがた、父に二人して拳骨をくらったばかりだからだ。
…
少し前のこと。
「ガァァァァアッッッ!!!」
「うぁぁぁぁあッッッ!!!」
二人の渾身の一撃が交差する、そのほんの一瞬のことだった。
「やめないかっ!」
「「っ!?」」
いつのまに現れたのか父が間に割って入ってきてきたのだ、それからは本当に一瞬で事は済んだ。
ユキは父の出した光の壁に阻まれそれに弾かれた、僕のスターキャノンは父が片手で受け止めてそのまま手の平に吸い込まれてしまった。
あまりに急な出来事で二人してぼさっとしてると頭にガツン!と鈍い痛みが走る。
「いっだぁ!?」
「いったぁーい!」
僕もユキも頭を抱えてゴロゴロ転がってる辺り、お互いにこれは拳骨をくらったなと察した。
にしても痛いっ!?そういうわけで現在僕らは頭を抱えたまま正座説教の真っ最中というわけだ。
「いろいろ聞きたいことはあるが二人とも、まずは俺が言いたいことが何かわかるか?」
なんでも父と母は昨日からここにいたらしい、わざわざ僕が来るのを待っていたようだ。
そして先程までいがみ合っていた僕らだが、今は顔を見合わせ「やってしまったねぇ」という顔で同時に答えた。
「「なぜケンカをしてたか」」
それに対し父はしかめっ面のまま答えた。
「違う、たまにケンカくらいすることもあるだろう… でもお前たちのやったことは兄妹ゲンカなんて生優しいもんじゃない、いいか?あれは“殺し合い”というんだ!自覚はあったか!」
「「…」」
思わず黙り込んでしまった、当然そんなつもりなどなかった… 殺してしまおうなんて微塵も思ってない。
だって家族だよ?そりゃ確かに熱くなりすぎたけど。
殺し合いだなんて…。
「ユキ」
「はい…」
まず父はユキを咎めた、順番だろう… 僕はこのあとだ、おとなしく座して待つ。
「家族に爪を向けるな、お前の爪は俺や姉さんと同じで力を目一杯込めれば大抵の物なら容易く切り裂くことができる、あのまま振り下ろしていたらクロはバラバラになってたってことだ、そんなに憎いのか?」
「そんな… そんなことないけど…」
「どうなるか見たいか?」
「いや… やだやだ… 見たくない」
今隣で聞いている僕ですら全身から大量に冷や汗がでている、ユキなんて既に泣きながら震えているじゃないか?
こんなに父が怒っているとこを僕は前に一度でも見ただろうか?それくらい珍しいことだ… 普段はむしろ母が怒る、父のこんな姿はもう二度とお目にかかることはないかもしれない。
そして父は驚いたことに怯えるユキに目もくれず「こうなるんだよく見とけ!」と思いきり左手を振り下ろした。
ザンッ!と僕らのすぐ手前の草が地面ごと抉りとられ大きな爪痕を残している… ユキの力ではさすがにそこまではならないだろう、こんなことになるのは父を含めたほんの数人だと思う。
いやこうはならないだろ。
なんて思ったとしても、勿論そんな屁理屈みたいなことはこの状況では口が裂けても言えない。
「もうしません!絶対もうしません…!本当にごめんなさい…」
でもご覧の通り効果は抜群だ、怯えきったユキは今にもお漏らしするんじゃないかというくらい泣いている。
「おばあちゃんに習ったことをしっかりとその身に刻め!お前の体にはこういう力が宿っているんだ!覚えておけ!」
「はい…!」
怖い怖い怖い… 次は僕の番だ、これは自業自得なだけに下手に言い返すこともできない、素直に謝ろう反省してます本当に。
僕が悪かったよ~?ごめんなさいごめんなさい!
「クロ、さっきの技はなんだ?」
うわぁ… きたよ僕の番だ。
「えと…」
「答えろ」
ここでスターキャノンですって答えなくてはならない僕の気持ちを誰がわかってくれるだろうか?
「スターキャノン…」ボソッ
「技名なんざいいんだよ、あれはなんだ?どこで覚えた?」
どこでもない、あれは僕が編み出したんだ… コントロールの練習をするうちにスターショットができるようになってそれの強化版としていつしかスターキャノンを覚えた、実戦で使うのは初めてだ。
隠しても仕方ないのでそのまま伝えた。
「そうか、じゃああれがどれだけ殺傷能力が高いか理解してたか?」
「いや…」
「正直に答えろ」
「僕があれを使ったのは生半可な技ではユキに負けてしまうと思ったから… ユキはとても強い、僕よりもずっと頑丈で… だから負けたくなくてそれで…」
僕がしてるのは言い逃れだ、論点を少しずつずらして言い分を言っているだけ、そしてこれは今の父にとって怒りを促進させるものでしかなかった。
「理解してたのかッ!どうなんだ!じゃあお前はあれがどれ程危険な技かもわからずに使っていたのかッ!」
「…」
何も言えなかった、すごい威力なのは知ってた… 全力で打つと岩も砕ける、でも正直に話せなかった。
「わかった、ならこれを見ろ?」
「ヒッ…!?」
父は自分の右手の開くと僕たちに見せた、思わず声が出たのはそれがあまりにも衝撃的な見た目をしていたからだ、ユキだって戦慄を覚えて凍りついている。
父の手の平はズタズタのボロボロで血が滲んでいる、フレンズ化して頑丈なはずの父の手がだ… こんなのおかしい、だってあのときスターキャノンを確かに吸収して何事もなかったはずなのに。
「見ての通りズタボロだ… 吸収はやってみたが回転が早すぎて追い付かなかったんだよ、まともに食らっていたらどうなってたかは賢いお前でなくてもわかるな?」
「ご、ごめんなさい…」
「目を見ろクロ!ユキにも同様に言えることだけどな?割って入ったのがママだったり、サーバルちゃんやスナネコちゃん、あるいはシンザキさんやサンだったらどうなってた?“やりすぎましたごめんなさい”で済む程度のことだったと思うか!」
この時、ユキと僕は怒りに任せてとんでもないことをしてしまったんだと気付いた。
その昔パパは散々自分の持つ力に悩み続けたそうだ、それが理由でパークに来たとも聞いたことがある…。
僕達はくだらないケンカくらいで本気になりすぎて父のデリケートな部分を刺激してしまったんだ。
「いいか、大きな力を持ってるってことはその力を使うのに同じくらい大きな責任があるんだ、それは小さな子供でも一端の大人でも等しくその責任があるんだ」
「「はい…」」
「正しいことに使え!お前たちが持ってる力は家族を傷付けるために授かったのか!そんなことのために鍛えたり練習したりしてきたのか!もしそうなら俺が相手になってやる!そんなに殺し合いがしたいなら俺を殺してからやれ!いいな!」
ここで「はい」と返事するのは違う気がする… だって僕もユキも殺し合いたい訳ではない、血を分けた双子の妹なんだから大事に決まっているじゃないか?
勿論父を殺したいなんて思わないし他の誰かを傷付けたいだなんてことも思わない、それはユキも同じだろう。
十分に己の愚かさが伝わった、だから僕達はまた揃って「ごめんなさい」と言った。
「シロさん、手を見せてください?手当てしましょう?」
「あぁごめん、ちょっとヒートアップしちゃった、イテテテ…とんでもない技考えたなまったくこの子は」
「二人とも!ちゃんと反省した?」
「「してます…」」
母が父の手を消毒して包帯を巻いている、まさかあれほど強力に攻撃になるとは思わなかった、せいぜいフッ飛んで打撲程度だと思ったし手加減はしたつもりだった、
なのにまさかあんな痛々しい傷を残してしまうなんて…。
「ありがとうかばんちゃん」
「はい、無理しないでくださいね?」
父の手当てが済んだ、そろそろ正座を解きたい… がダメだろうか?ユキもプルプルと震えている、いや胸のことじゃない、今はフレンズ化してない。
「まだ話は終わってない、いくつか確認させてくれるか?」
「「はい…」」プルプル
きっついが僕らが悪い、頑張ろう。
「クロの家出の理由は置いといてだ、ユキと博士はなんでわざわざクロを連れ戻しにきた?そこまで必死になるんだから勿論それはそれはすごい理由があるんだろ?」
それ僕も気になってた、思うに最悪にひどい理由があるんだろう。
どんな理由があるやらと呆れながら聞いていると衝撃の事実が耳を駆け抜けた。
「あのね?助手がクロの子を妊娠してて…」
「「はっ?」」
僕は思わず耳を疑った… 父と揃って驚愕の声をあげる。
「それで家出したクロを心配した助手が落ち込んでて、見てられないから連れ戻しにいくことにしたの?そしたらクロったらいろんなところで女の子にちょっかいだしてて!極めつけにはここでサーバルちゃんをNTRしようとしてるって!それで怒って飛び付いたんだよ私!」
「「…」」
なんだその理由は!言いがかりもいいとこだ!ふざけんなよマジで!父さんからなんとか言ってやってよ!
「おいクロ?助手とお前はそういう…」
おい!本気にすんな父親!
「あぁーもう!違うよ!騙されないでよ!」
「でもお前…」
「信じてよ!?」
なんで信じてくれないんだ!僕は無実だ!妊娠ってなんだよ!一度もそんなことした覚えないよ!
そうして無罪を主張する僕を見て父はなにか感じ取ったのかユキに聞き直す。
「ユキ、それはどうやって確かめた?現場を見たとか?」
「違うよ?博士が教えてくれたの、クロは叶わぬ恋に破れた痛みを助手で癒していて妊娠ってさせてしまったんだけど、それがフェネちゃんにバレて注意を受けて、それでクロは自棄になって旅に出たって」
「なんだよそれ!デタラメもいいとこだ!」
本当に最悪だ、が父はここで何かに気付いたようで「ははーん」という顔で博士に目を向けた。
何やら澄まし顔でこちらを見ている博士だが、なにをそんなに自信満々にしているのか?コラいい加減にしろよコノハズクコラおい。
「わかった、じゃあユキはクロが嘘をついてるというんだな?」
「そうだよ!逃げても無駄だよクロ!責任とりなさい!」
「嘘なもんか!いい加減にしろ!」
くそ最悪だ!サーバルちゃんもスナ姉も聞いてるんだぞ!?あれ見てみろよ?あの… くそ!そんな目で僕を見ないでよ~!?
「クロちゃん、助手と赤ちゃん作ったの?なんか… す、進んでるね!///」
「あんな顔してやることはやってるんですねぇ?体は大人というわけですかぁ?」ムスッ
「もうクロったら、そんな軽い気持ちで優柔不断なことして!」
うわ!くそ!やめろー!違う違う違う違う違う!!!
やけくそになった僕は母とサーバルちゃんとスナ姉がこそこそ話すそちらに向かい、獣のような声で悲痛な叫びを挙げた。
「ちがぁぁぁう!!!僕は童貞だぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」←ヤケクソ
「わかったわかった、落ち着けクロ?パパは信じてるぞ?そうだな?童貞だもんな?うん、落ち着け?」
「え、え~?どうなってるの~?なにこれ?」
さて答え合わせタイムだ。
父は手始めに情報を整理すると博士をここに呼びつけて僕のことを尋ねた。
するとやはりユキが話した通りのセリフが帰ってきて、おまけにこんなことを言ってきやがった。
「傷心でヤケクソになる気持ちは察してやるのですクロ?しかし、助手を傷物にしておきながらライブ会場ではプリンセスにちょっかいを出し、温泉ではキタキツネと仲良く混浴洗いっこに興じ、そしてロッジではスナネコとよろしくやってたそうではないですか?この島の長として!いやミミちゃん助手の一友人として許すわけにはいかないのです!」
いろいろねじ曲がっている!
冗談じゃない!プリンセスさんにはチョッカイだしたわけではないしキタ姉は勝手に入ってきて向こうから要求してきたんだ!背中流しただけだし!スナ姉とも同じ部屋で曲作ってただけだ!子作りじゃない曲作りだ!
でもあんなに怒ってた父は結局僕の味方なのだ、僕の苦労を感じとり丁寧に弁護に回ってくれた。
「博士、すべて本当なのそれ?」
「長は嘘つきません」
「確認した?」
「え?」
「助手に確認した?妊娠云々とかそういうのさ?本当ならいろいろ確認しないと、勿論聞いたんだろうね?」
父の言葉に、博士は天を仰ぐ…。
そこで阿吽の呼吸の如く母がすでに図書館のラッキーに通信を繋いでくれていた、ラッキー越しに父は尋ねる。
「助手、俺だよ?唐突なんだけど質問に答えてくれる」
『なんです藪から棒に?いいでしょう…』
助手の声だ、僕が出ていった日よりは元気そうだ。
「助手さぁ?妊娠した?クロの子供」
『な!?はぁー!?なにを言っているのですお前というやつは!そんなはずないでしょう!バカなのですかお前は!く、クロと私の… 赤ちゃんなどと…///』ゴニョゴニョ
「ふーん… 嘘じゃないね?誓える?」
『長の名に置いて誓うのです!そのような事実は一切ないのです!』
そう言うと助手との通信は終わり、一瞬の沈黙が続くと皆博士を責めた。
「さて博士、もしかしてまた早とちりで迷推理したんじゃないの?」
「これはまたずいぶんいろいろ巻き込みましたね?どうしましょうか?」
「博士ぇ!全部勘違いだったってこと!?じゃあここまできたのも私とクロがケンカしてパパに怒られたのも博士のせいってことだよね!ちょっと博士ぇ~?」
みるみる顔が青くなりシュッと細くなる姿には長の貫禄などなかった… そして卑怯にも飛び上がり逃走を図ったのだ。
「し、仕事にもどるのです!さらばなのでーす!」バサバサ
「あ!逃げるよ!?まぁーてー!博士~!」
「あぁ任せろユキ、パパは博士捕まえるの得意なんだ?見てろ?」
父はその時右手にサンドスターをありったけ集め思いっきり博士に向かい振りかぶる。
すると…。
「ハーミット!」シュルルル
「あーはー!?」ガッシリ!
ロープのように長いものが飛び出し博士を捕まえたのだ。
「ユキ、オシオキ用の技を教えてやろう?」
「それは正しい力の使い方なの?」
「物は言い様さ?ほらやってみな?」
縛り上げられた博士はユキの前に差し出された。
「博士、次にあんたは“やめるのですそれだけは”と言う…」
「やめるのですそれだけはー!?ハッ!?」
「いくよー!覚悟して博士!」頭ガッシリ
「あー!?やめるのでーす!?」
「獅子奥義ユキちゃんクロー!」ギリギリギリ
「んぁーっ!?!?!?!?!?!?」
ここで一句…。
サバンナに
長の叫びが
こだまする
クロユキ、心の俳句… いや川柳か。
そんなことより僕にはまだ大仕事が残ってるんだよなぁ…。
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